兵庫県保険医協会

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学術・研究

医科2025.07.19 講演

知っているようで知らないせかい~HbA1c~(5)(全5回、最終回)
[診内研より563] (2025年7月19日)

遠別町国民健康保険診療所 院長 江橋 正浩先生講演

(前号からのつづき)

25.検査の流れの一般化(図12)
26.検査方法ごとの違いを知る(図13)
27.茨城県立中央病院 臨床検査センター(2014)で行った評価
 「宿題(図1,11月25日号参照)」が出された当時勤務していた茨城県立中央病院のHbA1cの結果について、前年(2014)の結果を臨床検査技師に依頼し、抽出してもらったものが(図14)です。
 茨城県立中央病院は病床数500床、1日の患者数が約800人、糖尿病・内分泌代謝の専門医も在籍する病院で、ここで行われた年間のHbA1c検査数は延べ16,783件で、このうちクロマトグラムに異常ピークを認めたのは7件でした。これは2,397分の1であり、約2000~3000人に1人という疫学とも一致し、妥当かと考えます。このうち、血液疾患や本当に悪い血糖コントロールの患者は除くと、変異Hbを疑う症例は1名でした。より詳細に聞き込みをすればもっと増える可能性もありますが、臨床検査データからの判断ではここが限界でした。
28.では、今は? 小さい診療所での、ある症例についての検討
 現在、私は、北海道北部の遠別町(人口2,205人/2025年9月末時点)に勤務しています。有床(19床)の診療所で、1日の患者数は約40人で、臨床検査技師が1名常勤しています。メインの生化学機器はベックマンコールターAU480、HbA1cの測定は酵素法になります。2025年検査機器としてLumira DX(Roche社)を購入したため、HbA1cを少し手間がかかりますが、免疫法で測定できるようになりました。逆に、どうしてもHPLC法やGAを測定したい場合には、外注検査になります。
 外来で経過をみている患者で、BMI19.5でやせ型、血糖コントロールHbA1c8.5%以外、採血上まったく問題ない方がいます。SU第3世代、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、ビグアナイド薬などをほぼ最大量使用しているにもかかわらず、全くHbA1cが改善しません。もちろん貧血など血液疾患を疑う所見もありません。血糖だけが、際立って異常な点がどうしても気になってしまいます。
 食事や体重の変化はなく、考えられるストレスは、肺がん末期の夫を数カ月前に看取ったくらいです。この患者で、月は変わりますが、GAを測定すると20.8%と高値でした。これは前述Deming法で換算するとHbA1c7.2%と想定され、乖離はあります。免疫法とHPLC法でも測定しました。HPLC法では8.3%で、異常(変異)Hbを疑うピークは「ない」と報告がありました。同月の検査が、保険点数上できないため、どうしても正確な比較ができないのが口惜しいのですが、まだ異常(変異)Hbの可能性は捨てずに、経過をみています。
 この症例に関しては、今回の講演後の質疑応答の際、フロアーの先生から食後の急激な血糖変動がありうるので、持続血糖測定や、午後など時間を変えた検査の提案などをいただきました。今後試してみるつもりです。
29.さいごに
 小さな「宿題」から、大きな「テーマ」になりました。宿題を出された当時は、ここまで深くHbA1cやGAについて勉強することになるとは全く考えていませんでした。
 たった3行のデータから、ここまで病態に迫ることができる、それが臨床検査の世界です。外来で人は嘘をつき、その場をごまかすことができますが、検査値は嘘をつかないし、つけず、ごまかせません。臨床での対話(問診)は非常に有用で、重要ですが、それでも診断が難しい場合には、検査の視点から、病態を逆に検討してみることで核心につながることもあります。臨床検査の深く、面白く、難しい「沼」に一緒にはまってみませんか?
 そして、さらに大事なのが、臨床検査技師という強い仲間を引き込むことです。自分の施設の臨床検査技師の顔が浮かびますか? 検査室には何度も足を運び、知り合いになり、たくさん教えてもらいましょう。こちらから出向かないと臨床検査技師とは結びつくことはできません。自分の能力向上、患者さんの治療のためにも、臨床検査技師との垣根はできるだけ早くぶち壊してしまいましょう。
 HbA1cは便利で、とても有用な検査です。ただし、万能ではありません。万能で、確実で、(安価な)検査は、理想ではありますが、そもそも(現在のところは)存在しません。どんなに有能な検査でもなんらかの欠点はあるもので、その欠点も踏まえて理解し、評価することが大事です。HbA1cの限界を知ることで、その臨床上の有用性はさらに増すでしょう。
 この講演が、皆様の診療力向上に、少しでも助けになれば、幸いです。
 このたびは、ご清聴(成長)まことにありがとうございました。
【質疑応答集】
血糖と歯科口腔疾患
Q1:歯周病とHbA1c管理に関してデータはあるのか?
A1:1型でも2型でも糖尿病の方が歯周病のより高い罹患率が認められ、管理として具体的にはHbA1c7.3%未満が必要で、下げられればよりよい、と44)~46)の論文(12月5日号参照)でありました。
Q2:空腹時血糖とHbA1cの関係性について?
A2:空腹時血糖FPG(fasting plasma glucose)とHbA1cの一定の相関関係があるが、その変動のしかたで、かならずしも一致するものではありません。
・平均血糖値が30㎎/dL上昇すると、HbA1cが約1%上昇する。
・空腹時血糖が18㎎/dL下がると、HbA1cが約0.25%低下する。
・食後血糖が18㎎/dL下がると、HbA1cが約0.1%低下する。
・HbA1c7.5%以下の患者で食後の高血糖が、7.5%異常では空腹時血糖がHbA1cの変化に強く関連する。47)
・HbA1cは原理的には先行期間の平均血糖を表しますが、HbA1cと血糖間の関係式は、血糖測定法の進歩や調査対象の差により大きく異なるため、臨床的には、HbA1c=平均血糖÷30+2
 という簡易式を用いることを推奨しています23)
 今後CGM(continuous glucose monitoring)機器の精度があがると、また違った結果が出てくることも考えられます。

参考文献

23)田原保宏.HbA1cの読み方.数理糖尿病学のすすめ 2025. p.88
47)Fasting and postprandial plasma glucose contribution to glycated hemoglobin and time in range in people with type 2 diabetes on basal and bolus insulin therapy: Results from a pooled analysis of insulin lispro clinical trials. Liao B, et al. Diabetes Obes Metab. 2021; 23: 1571-1579.

(7月19日、第623回診療内容向上研究会より)


図12
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図13
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図14
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審査・指導相談日
●2月12日(木)15時~ ●協会5階会議室
※医科は事前予約制電話078-393-1840まで、歯科は随時電話078-393-1809まで
※「指導通知」が届いたら、まず保険医協会にご連絡ください。
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