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学術・研究

歯科2010.08.27 講演

歯根破折の処置とその予防 ―歯科臨床の奥深さと面白さ― [歯科定例研究会より]

東京都大田区・飯島歯科医院 院長 飯島 国好先生講演

はじめに

 歯根破折の予防の原則は、(1)加わる過大な力を制限する、(2)歯根の強度を損なわない、(3)応力集中を極力避ける、と言われている1)
 この破折予防の原則にそって臨床を行うことによって、少しでも歯根破折を少なくする臨床を行っていきたい。

1.歯根破折

1)歯根破折の原因
 歯根破折の発生には、加圧要素と受圧要素に時間的要素がかかわっている。加圧要素には、ブラキシズム、咬み癖、強い咬合力、早期接触、咬頭干渉、硬い食品嗜好などがある。受圧要素としては、鋭い咬頭と深い裂溝、辺縁隆線の摩耗、象牙質の支持不足、歯内療法、支台築造、臼歯咬合面の無修復、劣化した歯質などがある。時間的要素としては、歯質の劣化、応力の繰り返し、破折の伝播などが挙げられる。

2)歯根破折の分類
 歯根破折は、(1)歯冠性破折、(2)根管性破折、(3)根尖性破折、(4)根側性破折の四つに分類することができる。
 歯冠性破折は破折線が歯冠から歯根方向に走っているもの、根管性破折は破折が根管内から発生したもの、根尖性破折は根尖部から破折が発生したもの、根側性破折は歯根の表面に破折が見られるものをいう。

3)歯根破折のメカニズム
 どのタイプの歯根破折であっても、繰り返し応力の集中→亀裂の発生→亀裂の伝播→歯根破折という発生過程は同じである(図1)。

4)歯根破折の診断
 歯根破折の診断は、肉眼による診断、光による診断、探針による診断(2カ所の深いポケット)(図2)、レントゲンによる診断(歯根全体の透過像)、フラップによる破折線の確認、根管長測定器による診断、マイクロスコープによる診断、歯肉の色による診断、破折特有のにおいによる診断がある。

5)破折歯の保存
 挺出後も歯根の長さが十分あれば外科的挺出を行っている。接着再植は予後に不安があり、最近は行っていない。大臼歯では、ヘミセクションを行っている。

2.支台築造

1)破折確率
 歯根破折の症例から主な破折要因を抽出し、要治療無髄歯の歯根破折の診断、すなわち破折確率の推定を試みた。個体差が大きい上に、あくまでも臨床上の印象なので、科学的な根拠はないが、治療開始時に歯根破折の要因がある程度見えるようになり、患者さんにも説明がつくので、臨床上のメリットはあると考えている。各要因がそれぞれ今後10年以内に歯根破折を起こす確率を、5%~10%の幅を持った破折確率の予測として考えている。

2)破折要因
(1)無髄歯
(2)縁上歯質がない
(3)メタルコアの使用
(4)主咀嚼歯である
(5)最後方歯である
(6)頬小帯の存在
(7)大臼歯の咬合支持がない
(8)他歯の咬合負担をしている
(9)咬合に問題がある
(10)パラファンクションがある
この考え方では、レジン支台築造単独では、わずか5%~10%の破折予防ということになる。

3.破折を防ぐ咬合調整

1)破折を防ぐ咬合のポイント
(1)臼歯部は主機能部位で咬合させる2)(上顎口蓋側咬頭内斜面、下顎頬側咬頭内斜面)
(2)早期接触に注意する
(3)アンテリアガイダンスの確立
(4)犬歯誘導にする
(5)萌出したばかりのような歯の形態にしない
 咬合に関与する咀嚼筋の筋紡錘は、1gの張力と1000分の1㎜の伸張で反応するといわれている。精密で繊細な咬合調整が必要とされる所以である。

 破折予防の三つの原則、(1)加わる過大な力を制限する、(2)歯根の強度を損なわない、(3)応力集中を極力避けるは、結局(1)と(3)は咬合であり、(2)はレジンコアということになる。歯根破折の予防で比重が高いのは咬合であり、ついで支台築造であると思われる。しかし最も予後を左右するのは、患歯の歯質の状態であろう。

参考文献
1)福島俊士、坪田有史、石原正隆 東京都歯科医師会雑誌、1999(10)
2)加藤均、古木譲、長谷川成男「咀嚼時、主機能部位の観察」顎機能誌2:119-127、1996

写真説明
図1 歯根破折の発生過程

図2 歯根破折では探針が2本入る

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