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学術・研究

歯科2013.11.10 講演

歯科定例研究会より インプラント治療のトラブルを回避するための鉄則とは?(上)

芦屋市・野阪口腔外科クリニック院長  野阪 泰弘先生講演

はじめに
 近年、インプラント治療のトラブルは、マスコミにも取り上げられて社会問題に発展し、患者や歯科医師に大きな不安を与えている。インプラント治療は、補綴治療の選択肢として有用であるが、異物を生体に埋入する手術が必要という特徴があり、骨結合を獲得させることが絶対条件である。また、異物が清潔域と不潔域を貫通して存在する過酷な環境下で、補綴物を装着した後も骨結合を維持させる必要がある。さらに、骨結合の獲得と維持は生体の反応によって生じるため、インプラント治療には不明なことも多数存在していることを認識すべきと考えられる。
 一方、インプラント治療は自費であるため費用が高額で、患者の期待度も高くなる。したがって、インプラント治療におけるインフォームドコンセントの獲得法は、病気を治療する通常の医療とは異なる側面があり、保証期間を含めた特殊な患者説明が必要と思われる。
 本稿では、インプラント治療のトラブルを回避する鉄則について、インフォームドコンセントと心構えを中心に述べる。
〈初診〉
1.口腔解剖と骨は生きていることを説明する
 患者は、インプラントに関する情報をインターネットなどから簡単に入手できるが、肝心の歯冠、歯根、歯根膜、歯肉、歯槽骨に関する知識はほとんどない。また、骨はコンクリートのように硬いものとイメージし、骨が吸収と添加を繰り返して生きていることも知らない。したがって、最初に口腔の解剖と生理について説明することは重要で、患者のインプラント治療に対する理解度は飛躍的に上昇する。
2.インプラントの歴史と原理を説明する
 現在、世界的に行われているインプラントは骨結合型インプラントで、高い成功率が得られている。しかし、過去に日本で行われていたインプラントの成功率は低く、さまざまなトラブルが生じたため、インプラント治療が否定された時代があった。したがって、インプラント治療に大きな不安を抱いている患者も多いと考えられ、骨結合型インプラントと過去のインプラントは別の種類であることを患者に説明する必要がある。
 さらに、骨結合型インプラントが開発された経緯を説明し、骨結合は生体の反応によって獲得されることを理解させ、治療の成功には患者の協力が必須であることを認識させる(図1)。
3.予想される治療期間と費用および保証期間を明記する
 患者は、口頭で説明された内容についてほとんど憶えていない。実際には、記憶に残った単語だけをつなぎ合わせて、全く別の話を作成して記憶する場合がある。したがって、説明した内容を歯科医師がカルテに記入するだけでは不十分で、「言った、聞いてない」の問題は常に生じる可能性がある。
 筆者は、複写式の説明用紙に図や絵を交えて文章を記入しながら治療内容を説明し、1枚は患者に渡し、1枚はカルテフォルダーに保存している(図2)。
 一方、加齢や口腔内環境の変化などを考慮すると、インプラントが恒久的に維持されるとは考えにくいため、金銭的なサポートにライン引きが必要と考えられる。筆者は、「10年以内にトラブルが生じた場合は無償で再治療を行う」という内容で、細かな条件付きで保証期間を設定している(図3)。
4.インプラントを理解しない患者には手を出さない
 インプラントは生体の反応を利用した治療であるため、術前と術後およびメンテナンスにおける患者の協力は絶対条件である。したがって、初診時の説明を理解できない患者、あるいは理解しようとしない患者にインプラント治療を開始することは非常に危険と考えられる。つまり、インプラント治療には通常の医療とは違う側面があり、「患者を選択する」という特殊なステップがあることを認識する必要がある。(次号につづく)

図1 当院で作成したパンフレット
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図2 サイナスリフトが必要な患者に対する初診時の説明
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図3 上部構造まで作製する場合の10年保証内容
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