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学術・研究

歯科2013.11.10 講演

歯科定例研究会より インプラント治療のトラブルを回避するための鉄則とは?(下)

芦屋市・野阪口腔外科クリニック院長  野阪 泰弘先生講演

(前号からのつづき)
〈診断〉
5.患者の全身状態は客観的なデータで判断する
 問診による全身状態の把握は、通常の歯科治療においても重要だが、異物を生体に埋入するインプラント治療ではそれだけでは不十分と考えられる。特に、糖尿病はインプラント治療の天敵で、上部構造の装着後も血糖値を一生コントロールする必要がある。さらに、上部構造を装着後に糖尿病を発症する可能性もあるため、糖尿病の危険性を患者に理解させておくことは重要と考えられる(図中10年保証の項目に記載)。
 一方、自覚症状がほとんどない状態で高血圧症、心疾患あるいは肝疾患などに罹患している患者も存在するため、血圧測定、血液検査データおよび心電図で客観的に全身状態を把握する必要がある。
 筆者は、患者の人間ドックや健康診断のデータをチェックしているが、定期健診を行っていない患者に対しては連携医に術前検査を依頼している。また、医科に通院中の患者に対しては、予定している手術内容について主治医宛に手紙を書き、患者の全身状態や注意事項について問い合わせを行っている。
6.手術日を決定する際に、術後の症状、注意事項およびリスクを説明する
 インプラント関連手術の術後疼痛は、軽度であることが多い。しかし、創部を閉鎖創にすることが多いため、術後に顔面の腫脹や内出血が生じる可能性が高く、患者の日常生活に支障をきたす可能性がある。したがって、手術日を決定する際に、術後の症状、注意事項およびリスクを説明する必要がある。
 顔面の腫脹は術後2日目をピークとして生じ、約1週間で消退することを患者に説明する。また、内出血が出現した場合、術後4,5日目に最も色が濃くなり、重力で頸部におよぶ場合もあるが、約2週間で消退することについて説明する。たとえ、顔面の腫脹や内出血が著明であったとしても、説明通りの経過であれば、患者との信頼関係はむしろ強くなる。
 筆者は、術後の症状、注意事項およびリスクについて複写式の説明用紙に絵を描きながら記入し、術後2週間はイベントがない時期に手術日を設定するようにしている。
〈手術〉
7.イメージトレーニングは20回以上!!
 インプラント手術は、一発勝負である。フィクスチャーの埋入方向を補綴時に修正することは不可能であるため、3次元的に正確なドリリングを行うことは最も重要と考えられる。しかし、人間の3次元的な空間認識能力には限界があり、錯覚や癖などで思わぬ方向にドリリングをしてしまう危険性がある。一方、手術中は出血や血圧上昇などの予期せぬ事態も生じる可能性があるため、精神的に不安定となる場合もある。したがって、切開から縫合までのイメージトレーニングを20回以上行う必要があり、術中に予測される問題点は術前に解決しておくべきである。
〈術後〉
8.術後の反省を必ず行う
 パノラマX線写真でフィクスチャーの埋入方向を評価することは困難で、フィクスチャーの頬舌的な埋入角度によっては、実際とは全く違う近遠心的方向にフィクスチャーが写し出される。筆者は、被曝線量が少ないコーンビームCT画像で術後評価を行っているが、フィクスチャーの3次元的な埋入方向が術中のイメージと若干違うことがよくある。手術の能力を向上させるためには、術後の反省と解決策の検討を繰り返すことが重要で、コーンビームCT画像は有用と思われる。
9.経過が不良でも患者の責任にしてはいけない
 インプラント治療は、病気を治療する通常の医療とは異なり、必要不可欠な医療行為ではない。したがって、治療のリスクが高い場合は、インプラント治療を行わないという選択肢がある。つまり、インプラント治療を開始したということは、治療が成功する可能性が高く、起こり得る合併症に対しても対応できると判断したことになる。
 さらに、インプラント治療には患者教育も含まれているため、治療の経過が不良である原因を患者の責任にすることに正当性はない。したがって、インプラントの経過が不良である場合は、客観的に事実を検証し、今後の対応策を具体的に説明する必要がある。また、保証期間などの契約内容によって差はあるが、たとえ少額であっても、説明していなかった追加料金を請求することは絶対に避けるべきである。
10.都市伝説を鵜呑みにしない
 インプラント治療における術式や生体材料は日々改良され、さまざまな基礎的あるいは臨床的研究が世界中で現在も行われている。しかし、論文のすべてが正しいとは限らず、不確実な内容も数多く存在する。したがって、論文を正しく評価する能力も必要で、生体の反応として納得できるか否かが重要と考えられる。特に、骨造成術に関しては、術後3年以上経過したCT画像で検証されていなければ信用できず、2次元的なX線写真や口腔内写真では不十分と考えられる。
 患者は実験動物ではないことを肝に命じ、安全で確実性の高い治療法を正確に施行することが最も重要と思われる。さらに、再治療には時間と費用が必要となる。もちろん、再治療の費用は医院負担となるため、トラブル症例が増加することは医院経営にも大きな負担となることを認識すべきと考えられる。
まとめ
 インプラント治療を学ぶ場合、テクニックや生体材料に焦点が絞られることが多く、インフォームドコンセントや心構えについてはあまり触れられない。しかし、インプラント治療のトラブルが助長される要因として、患者との人間関係が崩壊することが大きな割合を占めると考えられる。インプラント治療は特殊な医療行為であることを再認識し、トラブルをいかに回避するかについて検証すべきと思われる。

図 上部構造まで作製する場合の10年保証内容
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