兵庫県保険医協会

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学術・研究

歯科2015.04.19 講演

「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会 市民講座(4月19日)より
メディアに惑わされない食生活(下)
〜氾濫する食情報と宣伝広告の問題性を考える〜

群馬大学名誉教授  高橋久仁子先生講演

(前号からのつづき)
6.キャッチコピーの行間は読まない
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市民ら107人が参加した当日の講演の模様

 よく読めばそれを飲んで「やせる」とも「体脂肪の燃焼を促す」とも書いていないのに、そう早合点させるキャッチコピーが増えた。効能・効果を明記できない、「健康食品」類に多いが、痩身効果があるかのようにほのめかす清涼飲料類にもよく見られる。
 右の囲みはいくつかの清涼飲料広告を模倣した架空商品キャッチコピーである。成分表示を読めば、全部飲むとエネルギー95kcal、カルシウム35㎎、食物繊維1.5gの摂取ということが分かる。100kcal近いエネルギーがあるものの、カルシウムも食物繊維も微々たる量しか含まれていない。
 YASERUNDESは商品名であり、「痩せるんです」と置き換えてはいけない。カルシウムや食物繊維は「補給」したい、カロリーや脂肪は「さよなら」したい、とは一般論である。「現代人の食生活を考えた」としても「考えた」結果をこの飲料にどう反映したかは不明。「カプサイシン入り」でも体脂肪を目に見えて減らす量のカプサイシンを含むとは書いていない。そして「ダイエットのおともに」と勧めても「おともにしてよいことがある」かどうかはノーコメント。「カロリーオフ」とは100mlあたり20kcal以下であれば許される記載である(食品の栄養表示基準制度)。
 行間を読ませる情報を警戒してほしい。宣伝広告文言はそこに書かれている字面以上の解釈をしてはならない。読むべきは栄養表示である。
7.読むべきは栄養表示
 単なる飲食物として利用するのであればかまわない。しかし、それを利用すると「野菜を食べた代わりになる」、「バランスのとれた食事の代わりになる」と思わせる商品名や宣伝文言に注意が必要である。
 「一日分の野菜350g分を使用した」と記載する野菜ジュースの商品名はごく一般的な消費者に対して「野菜1日分をこれ1本でとれる」と思わせるものである。野菜ジュースは立派な加工食品である。しかしながら、「これを飲めば野菜不足を解消できる」と受け止めさせるような宣伝文言はやめてほしい。「ビタミン類やミネラル類、食物繊維等は残念ながらもとの野菜よりだいぶ少なくなっています」と書くべきである。そう書いたからといって野菜ジュースの価値が下がるわけではない。
 ビタミンやミネラルを十分量配合したとのふれこみで「バランス栄養食」と名乗るクッキー類も増えた。基本的にクッキーであるから油脂を多く含有し、そのために脂肪エネルギー比率(FER)が50%を超える製品が多々ある。
 「ビタミンとミネラルが添加された油脂豊富なクッキー」と承知して利用することに異論はなく、非常食としても優れている。しかし、「食事の代わりに」との宣伝は問題である。個別食品のFERの高さはそれ自体非難されるべきではなく、食事全体として適正なFERになるように摂取食品を組み合わせればよい。だが、「食事の代わりに」と宣伝するのであればFERはせいぜい30%程度までであろう。「バランス栄養食」なるものに今のところ規格・基準は何もないが、そう名乗るのであれば「バランスのとれた食事」なるものの基準を明示し、それに恥じないものとすべきである。
8.「ふつうに食べる」とは
 健康維持を考えた食生活の基本は、必要な栄養素を過不足なく摂取することである。現実の食事で考えると「米飯、汁、肉か魚の一皿、野菜の一皿」あるいは「主食としての穀類、主菜としての動物性食品、副菜としての植物性食品」をそろえることで、見た目にも栄養的にもほぼ整った食事といえよう。
 食材の面からは穀類、魚、肉、卵、牛乳・乳製品、豆・豆製品、油脂類、果物などを適度な量で、そして野菜や海草、キノコ類などを豊富に食べる、である。煮る、焼く、炒めるなど、簡素な方法で食材を調理した、食品の素顔が見えるような食事を、適度な量で食べていれば、必要な栄養素はほぼ過不足なく摂取できる。これを土台として季節や状況に応じて柔軟に、多様な食べものや料理を味わい楽しみたい。
 これが「ふつうに食べる」ことである。
9.おわりに
 ヒトは昼行性かつ雑食性の生物であり、健康の維持・増進に「運動・休養・栄養」が欠かせない。「栄養」すなわち「食」さえよくすれば健康は万全、と考えること自体がフードファディズムである。
 それさえ食べれば健康が確約される「魔法の食品」や、逆にそれを食べると病気になる「悪魔の食品」はない。「体に良い」と言われる食品も食べ過ぎは禁物である。「体に悪い」と見なされる食品も節度を持って楽しむのは悪いことではない。
 健康情報娯楽テレビ番組が取り上げる食情報は話題性や意外性に重きが置かれがちである。「健康食品」産業界が発する食情報は「これを利用すれば問題解決」と宣伝するためのものである。どちらも無責任な情報が多い。
 ラクをして健康を得たい心理につけ込むビジネスは巧妙さを増している。氾濫する情報に惑わされない食生活を営むには、食情報のカラクリを見破る目を養うことも必要である。
 「がまんしないで・食べたいものを・飲んでも食べても・太らない」という方法はない。「適度に動く・寝る・食べる・健康管理の・基礎基本」を忘れないでいただきたい。(おわり)

架空商品のキャッチコピー

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