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学術・研究

歯科2015.11.29 講演

歯科定例研究会より
医科歯科連携に必要なくすりの知識 おくすり手帳から全身状態を推知する(下)

医療法人 明和病院 歯科口腔外科 部長  末松 基生先生講演

(前号からの続き)
C)抗血栓薬(表4)
 国内では抗血小板薬は500万人、ワーファリンは100万人に処方されている。ワーファリン以外の新規抗凝固薬(NOAC)が25万人以上と見積もられている。プラビックスは国内売上№1の薬剤であるが特許切れで、間もなく後発品が台頭するであろう。
1)抗血小板薬:バイアスピリンのみの場合は脳梗塞予防目的であることが多く、プラビックスが同時に処方されている場合はたいていDual antiplatelet therapy(DAPT)として、狭心症・心筋梗塞に対するカテーテル治療が過去に実施され、冠動脈ステントが留置されていることを意味する。これらの患者は循環動態が安定しており通常の歯科治療はむしろ安全と言える。もちろん、観血治療が必要であればリスク因子となる。
2)抗凝固薬:ワーファリンは主に心房細動由来の血栓による脳・心筋梗塞予防、あるいは深部静脈血栓症の治療に用いられているが、注意すべきは心臓血管外科手術後血栓予防目的投与の可能性である。特に人工弁置換術後においては感染性心内膜炎予防に留意する必要があり、術前抗菌薬投与を考慮せねばならない。
 NOACはビタミンK非依存性で効果発現が速く、半減期も短く、使用しやすいことから急速に普及している。ワーファリンとは利点欠点が相反するためケースバイケースで使い分けられている。相互作用としてクラリスや抗真菌薬で血中濃度が上昇して出血事故につながるため、注意が必要である。
 休薬はリバウンドによる凝固系亢進を生じ、1%強の確率で血栓塞栓症が発生し、その80%は死に至る。
D)骨粗鬆症治療薬(表5・6)
 顎骨壊死起因薬剤としてはBP製剤と抗RANKL抗体製剤、さらにはがん治療に使用される数種の分子標的薬が考えられている。注射薬はおくすり手帳に載らないが、デノタスが処方されていたら必ずランマークもしくはプラリアが使用されている。
 現在のリファレンスとしては2014年版の米国口腔顎顔面外科学会ポジションペーパーが妥当である。
E)がん治療薬
 医科入院のDPC化に伴い、外来化学療法が急増したことでさまざまな固形がんの導入・補助化学療法中の患者が歯科医院に訪れるようになった。対応のポイントは骨髄抑制と口腔粘膜炎でありナショナルテキストによる講習が全国で実施されているが、欠落している部分、すなわち臓器別固形がん・血液がんの概要と治療トレンド、および歯科医院での注意点とその根拠について周術期口腔管理の実例をもとに講演で述べた。
おわりに
 地域包括ケアが政策どおり進めば歯科医師に対する社会の要求はかなり高度化することになる。(1)病者口腔管理を主体とする医院内での医科歯科連携、(2)在宅口腔管理を主体とする地域包括現場での医科歯科連携、の二刀流をこなせる歯科医師の評価が高まることが予想され、これは大きなマーケティング成功要因であると同時に、潮流を逃すと蜘蛛の糸を切られるがごとく苦境に立たされる可能性もある。
 歯科医師は今後、患者だけでなく医療系多職種からジャッジを受ける立場に変わることを念頭に置いて質の向上に努めるべきであろう。
(2015年11月29日、歯科定例研究会より)

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