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学術・研究

歯科2016.02.07 講演

歯科定例研究会より
迷信と真実、エビデンスに基づく歯周治療80点の治療を目指すGPのために(上)

岐阜県瑞穂市・美江寺歯科医院 院長  小牧 令二先生講演

はじめに
 EBMは患者のためのものであり、歯科医のためのものでありません。しかし、EBMに関する正しい認識が広まらず、時折、歯科医自身の診療を正当化するために論文を引用することを見かけます。
 そこで、私自身がGPとして論文の結果をどのように日常臨床に取り入れているのかを、メインテナンスに関しての一例を挙げて解説します。
"メインテナンス=PMTC"ではない
 メインテナンスを行うにあたり、最もよく引用される論文の中にKarlstad Study(Axelsson Pら、1978,1981,1991,2004)と呼ばれる一連の研究があります。この研究では30年間のメインテナンスの結果、口腔内の健康が長期にわたり維持されることが示されています。当初6年間は定期検診群とメインテナンス群を比較し、その後30年目まではメインテナンス群のみを観察しています。
 定期検診群に対し、良好に経過したメインテナンス群の際立った違いであるPMTCを引用し、"メインテナンス=PMTC"と解釈されることが多く見受けられます。しかし、私の知る限りでは、歯周基本治療時にPMTCの効果が認められる研究はあるものの、メインテナンス時にPMTCの効果が認められる質の高い研究はありません。これらのことから、この研究におけるPMTCの効果はいわゆる"モチベーション効果"であろうと推測します。
 この研究の被検者のメインテナンスを研究終了後引き続き担当した、Dr. A. Skoglundはある雑誌のインタビューに、クリーニングの行き届いた二つの症例写真を提示し『PMTC前の来院時の口腔内写真である』と述べています。このことからも、PMTCでプラークを除去しなくても良好なプラークコントロールを維持できていることが重要ではないかと思います(表1)。
PCRの結果に注目
 ここで、私がこの研究で一番注目するところは、結果のPCRです。6年間の結果を見れば、定期検診群は平均してPCR50〜60%台であるのに対して、メインテナンス群は20%以下でした。メインテナンス群はその後30年間良好なPCRの結果を維持しています。このことは、口腔内の健康が維持されたという結果は、良好なホームケアでのプラークコントロールを維持していたという結果に支えられていたと考えることもできます。
研究開始時点の両群の差に注意
 次に注目するところは、誰を対象にするかということです。この研究はRCT(無作為化比較対照試験)ではなく、両群の対象者はそれぞれ違った方法で個別にリクルートされており、研究開始時ですでに差が存在します。定期検診群は来院時に研究のためにデータを使用させてもらう了解を得るのみであるのに対し、メインテナンス群は定期検診のリコールリストの中から手紙で内容を説明し同意を得た患者を対象としています。
 メインテナンス群の患者は今まで定期検診を受けていたにもかかわらず、メインテナンスの効果が何も分かっていないどころか、メインテナンスという言葉自体ないこの時点で、自分自身の健康を守るために未知の行動を起こすという健康意識の高い集団であることが推測されます。国民性の違いもあるのかもしれませんが、定期検診も定着していない日本において、一律にこの研究で行われた方法を実施しても、同じような成果は得られないかもしれません。
 目の前の患者や集団が研究対象者と同じ、あるいは似たような状況であるかを確認することは論文を読む上で大切なことです。例えば、フッ化物の集団洗口の効果は多くの論文で証明されていますが、それらの論文のほとんどはう蝕罹患率の高い集団を対象としています。現代のう蝕罹患率の低い集団に適用しても、同じような効果が得られるかどうかは疑問です。
(次号につづく、小見出しは編集部)

表1 Karlstad Study におけるメインテナンスと定期検診の比較
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