兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

学術・研究

歯科2016.04.10 講演

歯科定例研究会より
口腔外科の迷信と真実
エビデンスからエビデンスでないことまで

独立行政法人国立病院機構 豊橋医療センター(愛知県) 歯科口腔外科医長 湯浅 秀道先生講演

1.Evidence-based Medicine(EBM)とは
 Evidence-based Medicine(EBM)とは、最高の臨床研究(エビデンス)とわれわれの臨床経験と、患者一人ひとりの価値とおかれた環境を統合することを必要とするものである。このEBMには3原則があり、あえて平易な文章にすると、表1になる。
2.エビデンスとは
 先のEBMの3原則にも記載したが、都合のよい論文と都合のよいアウトカムの結果をエビデンスと言わないことが大切である。EBMを勉強している者は、「これはエビデンスがあるのか?」、「この治療は、ランダム化比較試験があるから行ってもよい」、「EBMに基づいて考えると」などの、エビデンス至上主義のような使い方をすることはない。
3.エビデンスの効果推定値と確信性の程度
 エビデンスは、基本的にシステマティックレビューという、世界中の情報を系統的に集めて評価することが大切である(大切なだけで、必須ではない)。このシステマティックレビューではメタ分析という各論文の結果を統合する統計手法を用いて、効果推定値を算出する。たとえば、歯周病と糖尿病のコクランレビューでHbA1cが、歯周病治療をすると、より0.40低下したという結果がある。この−0.40という数字が一人歩きしないように、表2の項目を使って、その確信性の程度を4段階に評価する。
4.顎関節症患者(円板の非復位性前方転位、ロック)への説明
 以下のような説明を、実際に図示したり、手で関節をシミュレーションしながら説明するとよい。
1)顎関節症の、治療は、いろいろあるので、その治療を選択するためにも、まずは、あなたの関節が、どのような状態かを理解することが大切ですので、これから話します。
2)このレントゲン写真で、ここが関節のくぼみで、ここが関節の動くところです。さて、このように、くぼみに骨が入り込んでいます、と言いながら、両手を使って関節の様子を示す。もちろん、この骨が、このように外れないですよねと、尋ねるように、手で示す。
3)ところがですね、顎の関節は、特別で毎回、口を開くたびにはずれるのですよ。はずれないと口は開きません。
4)そして、このくぼみと、動く骨の間に、円板と言われる板があるのですよ。すなわち、ここにくぼみがあるとします。そして、ここに板があり、このように骨があり、一緒に動きます。
5)ところが、原因不明で若い人に多いのですが、急に、この円板がずれる人がいます。すなわち、この円板が、このようにずれます。すると、骨が動こうとすると、この円板にひっかかって、動かないので、口が開かないのです。
6)どうですか、口を開ける時に、ひっかかって開かないという感じはありませんか、そんな感じがするのならば、ほぼ、顎関節症で間違いないでしょう。
7)実際の治療は、このように自分の指を交叉させて自分の歯牙にあてるようにしながら無理しないように開けます。柔軟体操のような感じで、痛いのを我慢しない程度として、1日数回行うのですが、日本人では、お風呂の中が良いかもしれませんね。また、痛みが強くなった場合は、訓練を中止して、逆に安静にして来院してください。
5.いわゆる舌痛症へのポイント
 近年、顎関節症の症状悪化の要因として、Tooth Contacting Habit(TCH)という、「不必要な時に、歯を接触させている癖を言い、歯ぎしりや歯を食いしばるとも違い、意識せず上下の歯が軽く触れている程度の状態」が話題である。この癖ということが、いわゆる舌痛症の患者にも応用できると著者は考えている(エビデンスなし)。すなわち、何かのきっかけで、舌を触る癖が生じ、そのため慢性の擦過創となりヒリヒリするという状況である。その是正方法は、認知行動療法を応用することとなる。
 このような場合、安易な正常化の方便を避けるべきである。表3にそのポイントを記載した。そして、患者にいかに共感するかがポイントであるが、この共感を獲得するには、何度も訓練が必要である。

参考文献:
・湯浅秀道ら.抜歯・小手術・顎関節症・粘膜疾患の迷信と真実. クインテッセンス出版 2015.
・伊藤絵美.DVD 認知療法・認知行動療法カウンセリング 初級ワークショップ. 星和書店 2005.
・Christopher Burton, 竹本 毅(翻訳).不定愁訴のABC.日経BP社 2014.
・東田直樹.跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること.イースト・プレス 2014.
・尾谷幸治・大野純一.患者はなぜあなたの話を聞かないのか? メディカル・ダイアローグ入門.医歯薬出版株式会社 2014.

公開動画・文書:
EBM初級編:エビデンスの考え方(ビデオ動画)42分36秒
 https://youtu.be/YopHCiLKAJw
診療ガイドラインとは導入編:EBMの3原則の3分クッキング(動画)2分59秒
 https://youtu.be/Jssy8I6tCoI
口腔顔面痛(いわゆる舌痛症など)の事例を、当日の講演の例でテープおこしのように再現してみました(こんな外来の説明をしています)
 https://docs.google.com/document/d/1XLDOHPUrcWAr0a2EnzJGiN2f-iG8yifpPNJj_w449c8/edit
(4月10日 歯科定例研究会より)
1814_01.gif
※学術・研究内検索です。
医科のページへ
2018年・研究会一覧PDF(歯科)
2017年・研究会一覧PDF(歯科)
2016年・研究会一覧PDF(歯科)
2015年・研究会一覧PDF(歯科)
2014年・研究会一覧PDF(歯科)
2013年・研究会一覧PDF(歯科)
2012年・研究会一覧PDF(歯科)
2011年・研究会一覧PDF(歯科)
2010年・研究会一覧PDF(歯科)
2009年・研究会一覧PDF(歯科)