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学術・研究

歯科2016.08.07 講演

歯科定例研究会より
摂食嚥下障害の評価と訓練の実際(上)

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 
老化制御学系口腔老化制御学講座高齢歯科学分野准教授 戸原  玄先生講演

1.はじめに
 超高齢社会である日本では要介護高齢者数が増加する。つまり従来の外来診療のみならず訪問診療の必要性は今後さらに高くなる。また、2012年6月5日に厚生労働省が発表した人口動態統計で日本人の死因はがん、心疾患、肺炎の順となった(図1)。高齢者の肺炎の原因には"食べる機能"が低下した摂食・嚥下障害による誤嚥が重大視されているため、訪問診療の場面において食べる機能を正確に評価することが重要となる。
 Finucaneら1)は、19の異なる施設において、経管栄養にした後の肺炎の発症率を調査しているが、その発症率はかなりばらついている。つまり、経管栄養にするだけでは肺炎の発症を抑えることができないため、その後のケアや対応が重要であると言えよう。さらに、Barer2)による一側性脳血管障害後の嚥下障害の発症率の調査では48時間以内は3割程度の患者に嚥下障害が残るが、半年経つと0.2%まで低下するとされ、才藤ら3)は急性期では3〜4割に嚥下障害が認められるが慢性期まで残存するのは1割に満たないと報告している。
 われわれは過去の調査で、在宅療養者は摂食・嚥下機能に応じた栄養摂取方法が取られていないことが多いことを示した(図2)4)。つまり、食べる機能が低下しているのにもかかわらず常食を摂取している患者や、食べる機能が改善しているのにもかかわらず禁食のままになっている患者がいる。実際に嚥下障害が残存したまま在宅に退院した10名の患者に外来通院でフォローアップを行ったところ、退院時胃瘻のみであった1名は3食とも常食摂取、胃瘻と経口摂取の併用であった4名中2名は3食とも常食摂取、食形態を調整した上で経口摂取であった5名中3名は3食とも常食摂取可能となった5)。また、胃瘻増設を行った302名の入院患者に対する後ろ向きコホート調査では6)、44名が経口摂取可能となり、そのうち15名は十分な経口摂取が継続できたと報告された。
 のちに示すが、平成23年度より開始された多施設による調査からは、在宅や施設で療養中の胃瘻患者でも、ほとんどの患者に対して誤嚥しない経口摂取の方法を見つけることが可能であることや、胃瘻交換時に嚥下機能評価を行うことで経口摂取復帰への可能性がある患者をピックアップできることなどが分かった7)
 以上を踏まえると退院時の最終的な評価が永続的なものではないということを認識した上で対策を考えることが重要であるといえる。
2.摂食・嚥下機能の評価
 摂食・嚥下機能の標準的な評価法にはスクリーニングテストと精査があるが、訪問診療の場面では嚥下内視鏡検査が特に有用である。
(1)誤嚥のスクリーニングテスト
 摂食・嚥下障害のスクリーニングテストは誤嚥のテストと不顕性誤嚥(誤嚥してもムセが生じない状態)のテストに大別されるため、まず誤嚥のテストについて列記する。
a. 反復唾液嚥下テスト(RSST: Repetitive Saliva Swallowing Test)
 誤嚥のスクリーニングとして、最も簡便な方法はRSSTである(表1)8)9)
b. 改訂水飲みテスト(MWST: Modified Water Swallowing Test)
 水を飲ませるテストは頻用されてきたが、特にその方法が整備されたものが3mlの冷水を飲ませるMWST10)11)である(表2)。
c. フードテスト(FT: Food Test)
 茶さじ1杯(約4g)のプリンを食させて評価するスクリーニングテストである(表3)10)11)
(次号に続く)

参考文献
1)Finucane TE, Bynum JP: Use of tube feeding to prevent aspiration pneumonia. Lancet 348(9039), 1421-1424 (1996)
2)Barer DH: The natural history and functional consequences of dysphagia after hemispheric stroke. Neurol Neurosurg Physchatry 52, 236-241 (1989)
3)才藤栄一,千野直一:脳血管障害による嚥下障害のリハビリテーション.総合リハビリテーション19(6),16-25(1991)
4)服部史子,戸原玄,中根綾子,大内ゆかり,後藤志乃,三串伸哉,若杉葉子,高島真穂,小城明子,都島千明,植松宏:在宅および施設入居摂食・嚥下障害者の栄養摂取方法と嚥下機能の乖離.日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌12(2),101-108(2008)
5)若杉葉子,戸原玄,日野多加美,三瓶龍一,鰕原賀子,岡田猛司,島野嵩也,植松宏:摂食・嚥下障害患者の退院後の摂食状況−退院後フォローの重要性について−.日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌16(2),198-202(2012)
6)Yokohama S, Aoshima M, Koyama S, Hayashi K, Shindo J, Maruyama J: Possibility of oral feeding after induction of percutaneous endoscopic gastrostomy. Journal of Gastroenterology and Hepatology 25, 1227-1231 (2009)
7)研究代表者近藤和泉:在宅療養中の胃痩患者に対する摂食・嚥下リハビリテーションに関する総合的研究.長寿科学総合研究事業平成24年度研究報告書(2013)
8)小口和代,才藤栄一,水野雅康,馬場尊,奥井美枝,鈴木美保:機能的嚥下障害スクリーニングテスト「反復唾液嚥下テスト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)の検討(1)正常値の検討.リハビリテーション医学37(6),375-382(2000)
9)小口和代,才藤栄一,馬場尊,楠戸正子,田中ともみ,小野木啓子:機能的嚥下障害スクリーニングテスト「反復唾液嚥下テスト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)の検討(2)妥当性の検討.リハビリテーション医学37(6),383-388(2000)
10)研究代表者才藤栄一: 長寿科学総合研究事業平成11年度研究報告書(2000)
11)戸原玄,才藤栄一,馬場尊,小野木啓子,植松宏:Videofluorographyを用いない摂食・嚥下障害評価フローチャート.日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌6(2),196-206(2002)

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