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学術・研究

歯科2016.09.15 講演

歯科定例研究会より
糖尿病を合併した歯周病患者に対する局所・経口抗菌薬物療法テクニック(下)

大阪歯科大学細菌学講座教授  王  宝禮先生講演

(前号からの続き)
4.薬物投与による副作用としての高血糖出現の早期発見と早期対応のポイント
 高血糖が出現した直後は、症状が出ることはむしろまれであり、早期発見には血糖値を測定することが必須です。高血糖を起こしうる医薬品により高血糖が起きた場合で、中止できない場合は、糖尿病の専門医との連携の下、インスリン等を用いて血糖の管理を行います(表3)。
(1)副作用の好発時期
 医薬品の開始当日から出現する可能性があり、また医薬品の投与開始後しばらく経過してから出現する場合もあります。
(2)患者側のリスク因子
1)1.過去に血糖値が高値であることを指摘、2.肥満傾向にある、3.高血圧を指摘もしくは降圧薬を内服中、4.糖尿病の家族歴がある、5.40歳以上、6.外食が多い、野菜の摂取量が少ない、7.運動量が少ない、8.妊娠糖尿病の既往、などがあげられます。
2)投薬上のリスク因子
 内服、静注のみでなく、吸入、経皮による投与でも、投与量が多いと高血糖を起こすことがあります。
3)患者もしくは家族等が早期に認識しうる症状
 高血糖が増悪した場合は、口渇、多飲、多尿、体重減少等の症状が顕在化します。これらの症状のなかで、最も頻度が高いのは口渇です。血糖値がいくつ以上になると、これらの症状が出現するのか、明確な閾値は示されていません。自覚症状は、高血糖がかなり進行してから出現することが多いので、症状を認めたら直ちに医療機関で血糖値検査を施行します。
4)早期発見に必要な検査と実施時期
 血糖値測定が高血糖の発見には必須であります。医薬品の開始当日から、定期的に血糖値測定を行うべきであります。空腹時血糖値は正常範囲でも食後血糖値のみ著しく上昇する場合があるので、可能であれば、食後血糖値の測定が望ましいです。HbA1c値は平均血糖値の指標であり、高血糖が出現した直後では正常範囲内にあることをしばしば経験するので、必ず血糖値測定を併用します。また、貧血・肝硬変等を伴う症例ではHbA1c値は実際より低値を示すことがあります。空腹時血糖値126㎎/dL、随時血糖値180㎎/dL、HbA1c6.1%を超えると高血糖、あるいはそれに準じた状態であると考えます。
まとめ 「糖尿病性歯周炎」という歯科新病名の創生について
 歯周医学の概念が歯科医学教育、歯科医療に定着し、歯周病と糖尿病の相互関係の研究が進み、本年度から歯科医療保険において歯周疾患処置の糖尿病患者に対する用法拡大が行われました。一方、昨年には日本歯科医学会から日本歯科医師会に対する新病名創生についての回答が発表されました(表4)。その中に、「糖尿病性歯周炎」という病名があります。
 今後、これらの病名が認められることによって、より充実した医療を国民に提供できるものと思います。さらに、医科歯科連携の歯科医療形態が必要だと思います(図4)。
読んでほしい参考文献:インターネット検索で無料閲覧できます
1.王 宝禮:歯周病に対する経口抗菌薬は有効なのか? 日本歯科医師会雑誌.62:6-17.2009.
2.日本歯周病学会編:歯周病患者における抗菌療法の指針2010 医歯薬出版.
3.日本糖尿病学会編:科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013 南江堂.
4.日本歯周病学会編:糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン改定第2版2014 医歯薬出版.

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