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学術・研究

歯科2016.11.13 講演

歯科定例研究会より
埋伏歯の矯正治療〜医院連携の実践〜(上)

岡山市・医療法人オーソネットワーク理事長
アリゾナATS大学 矯正科 客員臨床教授  田井 規能先生講演

田井 規能(たい きよし)
Kiyoshi Tai, DDS, PhD
日本矯正歯科学会認定医、日本成人矯正歯科学会認定医
〈略 歴〉

 1986年 岡山県立新見高等学校卒業
 1992年 徳島大学歯学部卒業
 1992年 岡山大学歯学部 第二補綴(現;咬合・口腔機能再建学分野)入局
 1997年 岡山大学歯学部 顎顔面口腔矯正学分野 入局
 1999年 The Tweed Course(The Charles H. Tweed Foundation, Tucson Arizona)修了
 2012年 岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科卒業
〈職 歴〉
 2000年〜   たい矯正歯科開業
 2002年〜   医療法人オーソネットワーク理事長
 2010年〜14年 韓国キョンヒー大学臨床准教授(非常勤)
 2013年〜   インターナショナル岡山歯科衛生専門学校 歯科矯正学 講師
 2013年〜   日本成人矯正歯科学会(JAAO)認定医研修プログラム 講師
 2015年〜   アリゾナATS大学矯正科客員臨床教授(09年〜 同准教授)
埋伏歯の原因
 歯の埋伏は、"歯の形、位置、歯軸、方向、萌出余地などの観点から正常な萌出期に至るも萌出しない歯を埋伏歯という"と定義されている。局所的な原因には、埋伏歯の歯胚の位置異常や萌出方向の異常、過剰歯、アンキローシス、嚢胞や歯牙腫の存在などが挙げられ、全身疾患を伴うものは唇顎口蓋裂、軟口蓋裂、甲状腺機能低下症、Treacher collins症候群、第1第2鰓弓症候群、鎖骨頭蓋異骨症、MR、基底細胞母斑症候群、Down 症候群、原発性萌出不全症などが挙げられる。
埋伏歯の持つ危険性
 一般歯科臨床においては比較的短期間で患者と向き合うことが多く、特に局所的にしか影響がない場合は、症状が出るまで経過観察にしておくことも少なくないと思う。しかし、近年かかりつけ医として地域で期待されるようになり、10年単位で、長期的に埋伏歯の影響を考慮に入れた治療計画を提案しなければならない状況も増え、患者は加齢とともに、歯の失活や喪失、将来的には歯槽骨レベルの低下から受動的に萌出してくることもあり、時として重篤な智歯周囲炎などの炎症症状や臨在歯の喪失を招くこともあり得る。つまり長期的に考えれば埋伏歯に対して黙認し続けていられない状況になってきている。
 埋伏歯自身は上皮を有する歯嚢を歯冠周囲に有しているため、上皮の病理的な変化の危険性があるということである。含歯性嚢胞や歯原性腫瘍はこの上皮の存在により発生するわけであるから、高齢者の歯原性腫瘍は、若年期に抜歯を行っていれば、その発生はありえなかったことになる。また、頻度は極めて低いものの、上皮が嚢胞化し、その嚢胞上皮より悪性腫瘍が発生することもあり得る。
1.失敗症例に学ぶ
 治療中のミスが、歯の喪失、回復不可能な審美的障害、歯槽骨の欠損などにつながる可能性があるとして紹介した。不適切な矯正治療のメカニクスによるもので、埋伏歯の誘導ミスが、米国の矯正歯科における主要な訴訟の一つであると、注意喚起している。
 口腔外科医と矯正歯科医が連携して治療計画を立て、開窓法の選択、矯正のメカニクスなどについても情報を共有することが不可欠と述べた。
2.中切歯の埋伏について
 上顎中切歯埋伏の原因については、これまでに叢生、外傷、歯根湾曲、歯牙腫や歯原性嚢胞あるいは過剰歯(正中歯)の存在などが挙げられる。
 本症例においてパノラマにて過剰歯を確認後、CBCTではさらに、過剰歯の位置を3次元的に特定することができ、口腔外科医と術前の計画を立案する上で非常に有効である(図1)。
 原則は、萌出路を塞いでいる過剰歯を早期に発見し、過剰歯を抜歯することで、自律的な萌出を期待する。異論はあるかと思うが、翻訳本の中では「術者がまったく何もしなくても正常に萌出する場合」の「自然萌出」と区別し、「術者がわずかの力添えで、自然に萌出する場合」を「自律的萌出」と訳した。
 本症例のポイントとして、上顎左側側切歯のトルクコントロールにより、可能な限り歯肉ラインの審美性の改善を試みた(図2)。結果的には、満足いく歯肉ラインに導けた(図3)。
 今回、典型的な4 種類の開窓法を紹介した。
 1)歯肉切除術(組織を単純に切除する方法)
 2)歯肉弁根尖側移動術(apically positioned flap:以下APF)
 3)閉鎖誘導法(closed-eruption technique)
 4)外科的再植術
 開窓法の種類を決定づける因子は、埋伏歯の上下的な位置であり、適切な方法を選択することで、埋伏歯の誘導後の安定性や審美性が確保される。
 通常、前述の4種類の開窓法が適応されるが、近年、歯周組織再生療法の治療レベルの向上は目覚ましく、矯正医が牽引方法で、必要以上の時間を費やすより、牽引後早めに歯周外科専門医に依頼したほうが患者に有益と判断される場合も少なくない。
 矯正医は外科的な術式をある程度理解した上で、口腔外科医や歯周外科専門医と事前に打ち合わせることが重要と思われる。(次号に続く)

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