兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

学術・研究

歯科2016.11.13 講演

歯科定例研究会より
埋伏歯の矯正治療〜医院連携の実践〜(下)

岡山市・医療法人オーソネットワーク理事長
アリゾナATS大学 矯正科 客員臨床教授  田井 規能先生講演

(前号からの続き)
3.犬歯の埋伏
 原則として、唇側に埋伏した犬歯に対する開窓術は、歯肉切除術、歯肉弁根尖側移動術(APF)、ならびに閉鎖誘導法の3種類である。今回は、左右側とも閉鎖誘導法を用いた。4カ月間、左側は中切歯歯根の干渉をかわすため、まず遠心への牽引を試みたが、少し動いた後は、あまり動かなかった(図4)。その後、左側は牽引方向が目視できるAPFに変更することで、埋伏歯の移動が加速した(図5,6)。
 近遠心的位置に関して、今回の左側のように位置異常がみられ、歯冠が側切歯の歯根と重なっている場合は、APFを用いて歯冠を完全に露出させないと歯の移動は困難で、もう少し早くAPFに変更すべきであった。側切歯に損傷を加えることなく引っ張り出すには、目視できるAPFが有利である。結果、矯正医はアプローチが容易になり、適したメカニクスを用いやすくなる。しかし、いくら急いでも埋伏歯の移動を月に1.0㎜程度に抑えることは大切である。

口蓋側の埋伏犬歯

 口蓋側の埋伏犬歯には、「閉鎖誘導法」と「矯正前開窓法」がよく利用される。閉鎖誘導法で良好な結果を得るには、埋伏歯の位置にもよるが、いったん、口蓋側へ誘導した後、頬側へ移動させるように意識するべきである。そうすることで、骨レベルの低下や近接歯の歯根吸収の問題を回避することができる(以後、2段階牽引法)。
 単純に側方へと牽引すると、犬歯の歯冠は隣接する口蓋骨と強くぶつかってしまう。エナメル質自体は、生理的な形で隣接骨を吸収する能力を有するわけではないので、歯冠が移動できないか、あるいは、側方移動に伴い骨欠損が生じる結果となる。もちろん、犬歯の歯冠が移動した後の部分への骨添加も起こらない。口蓋側の埋伏犬歯の矯正前開窓法では、矯正治療を開始する前に外科的開窓術を施して、自律的な萌出を促すのが最善の方法である。
4.小臼歯の埋伏
 埋伏小臼歯が第一大臼歯の近心根に損傷を与える可能性がある場合、その埋伏歯を大臼歯の歯根から引き離すことが容易でないとの報告が散見される。そのため今回、歯胚回転という選択肢を選んだ。歯胚回転は、歯嚢全体を露出させるように開窓を行い、歯嚢は、ゆで卵を殻から慎重に表面を傷つけることなく健全な状態のまま抜き取るイメージで行うと表現されている。
 本法は水平的、垂直的に重度の回転を示す歯に限って用いるべきで、うまくいけば、正しい位置に回転や移動できるので、その後の矯正治療が非常に容易なものとなる。Marksらは一連の報告の中で、正常な萌出を誘導するためには歯嚢が健全に維持されることが重要で、発育途中の歯胚のさまざまな部分に意図的に損傷を与えても、歯の萌出障害は生じないが、歯嚢に損傷を与えたり歯嚢を取り去ったりすると、萌出が停止すると述べている。
5.大臼歯の埋伏
 埋伏した下顎大臼歯の処置は、ほぼ例外なく歯冠を十分に露出させることで、目視が可能となる。結果的に、アプローチが容易になって、適したメカニクスを用いやすくなる。
6.まとめ
 本講演のまとめは、以下の通りである。
 1)最悪の事態として、歯の喪失、回復不可能な審美的障害、歯槽骨の欠損などの回避を常に意識する。
 2)できるだけ自律的な萌出を期待する。
 3)歯嚢が萌出のカギ。
 4)トルクコントロールにより、歯肉ラインの改善も有効。
 5)審美性・術後安定性に難があるものの、牽引中に近傍の歯根に干渉するおそれのある埋伏歯の開窓術は、視認性に優れたAPFが適応(しかし、あまりに低位、または唇舌的に深い場合は十分な検討が必要)。
 6)閉鎖誘導法は審美性・安定性にすぐれ、最も好まれる開窓法であるが、見えない状態で牽引していることを常に意識する。
 7)口蓋側の埋伏犬歯は、2段階牽引法を意識する。
 8)埋伏歯の歯冠周囲空隙が2.5㎜以上で嚢胞化を疑う。疑いがあれば定期的なパノラマでチェック!
 9)埋伏歯により歯根吸収を認めた場合、なるべく早期に接触部位を引き離すことで、吸収部位の修復が行われる。
 10)成人患者における埋伏歯は骨性癒着に注意。
 11)埋伏下顎大臼歯は、まず歯冠を十分に露出させ、目視できるようにすることが基本。

インタディシプリナリーアプローチ(医院間連携)について

 最後に、埋伏歯の治療に限らず、近年高いレベルの治療を要求する患者が増えており、インタディシプリナリーアプローチ(医院間連携)の必要性は不可欠となってきている。「医院連携は時間を生み、ストレスを減ずる」というコンセプトで実践している一風変わった当院の医院連携の取り組みを紹介できればと思っている。
・「医院連携」のメリットや実践例
・ドクターのリクルート(パートナーとアソシエイト・ドクター)
・勤務ドクターの定着
・医院継承
(2016年11月13日、歯科定例研究会より)
1836_01.jpg
※学術・研究内検索です。
医科のページへ
2018年・研究会一覧PDF(歯科)
2017年・研究会一覧PDF(歯科)
2016年・研究会一覧PDF(歯科)
2015年・研究会一覧PDF(歯科)
2014年・研究会一覧PDF(歯科)
2013年・研究会一覧PDF(歯科)
2012年・研究会一覧PDF(歯科)
2011年・研究会一覧PDF(歯科)
2010年・研究会一覧PDF(歯科)
2009年・研究会一覧PDF(歯科)