兵庫県保険医協会

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学術・研究

歯科2017.02.26 講演

[保険診療のてびき] 
急性期・回復期・居宅での多職種連携 〜私の歯科訪問診療の経験から〜

宝塚市・きっかわ歯科 院長  吉川 周志先生講演

Ⅰ.はじめに
 団塊の世代が後期高齢者に達する、いわゆる「2025年問題」が最近マスコミなどで頻繁に取りざたされています。ただ、兵庫県では一部の圏域を除き、後期高齢者数のピークは2050〜55年であり、2025年はあくまで通過点でしかありません(図1)。つまり、今後30〜40年間にわたり後期高齢者数は増加の一途をたどり、しかもその数は2010年の1.4〜2.4倍になることが予想されています。こういった状況になると歯科医師は老人施設だけでなく、急性期病院・回復期病院・居宅といったさまざまな環境での要介護者への対応に迫られることになります。
 当然ながら、このような状況に歯科一職種だけで対応できるはずもなく、医療・介護・福祉のさまざまな職種による多職種連携が必要とされます。それに伴い歯科医師も単なる歯科治療だけでなく、他職種と情報共有するための共通言語の取得や、連携するためのマネジメント力が求められます。ここでは急性期・回復期・居宅の症例を紹介します。
Ⅱ.急性期病院の症例
 88歳 男性 入院時主病名:誤嚥性肺炎・廃用症候群 主訴:口腔粘膜のびらん 栄養IVHのみ 乾燥強 指示は入るが発語はほとんどない 口腔内多量の痰と痂疲
 初回訪問までに病院MSWより医療情報の提供を受ける。訪問時に担当看護師、摂食嚥下認定看護師と連携する。DHによる専門的口腔ケアを主体とする訪問を行うが1カ月後に死去。残念な結果だが、男性の奥様から「主人の苦痛をとっていただきありがとうございます」と感謝の言葉をいただいた。
Ⅲ.回復期病院の症例
 91歳 女性 入院時主病名:右皮質下出血 急性期病院口腔外科より訪問要請 上下ノンクラスプPDを義歯安定剤常用して普通食摂取
 急性期病院医科主治医、担当PT・OT・STおよび歯科口腔外科主治医より情報提供を受ける。回復期病院より服薬などの医療情報を受ける。義歯調整、DHによる専門的口腔ケアを行い、入院中は熱発などトラブルなく義歯安定剤不要となる。6カ月後、維持期の担当歯科医師と連携する。
Ⅳ.維持期(居宅)の症例
 83歳 男性 主病名:脳梗塞・嚥下障害 主訴:回復期病院退院後の口腔管理 担当ケアマネジャーより訪問要請 フェイスシート、ケアプラン、回復期医科主治医から訪問医への情報提供書のコピー、回復期担当歯科医からの情報提供書を提供される 退院後体重3㎏減少 微熱時々 自唾液でむせる 自宅で娘と2人暮らし(娘は介護離職) 体重減少のため胃ろう造設
 義歯調整、残根削合、DHによる専門的口腔ケアを行う。家族に口腔ケア、口腔周囲筋のストレッチを指導する。担当STと通所リハ・訪問リハ時の摂食嚥下訓練について連携する。
 カンファレンス実施 [参加者]:本人・家族・看護師(主治医)・看護師(訪問看護ステーション)・PT・相談員・管理薬剤師・担当ケアマネジャー、担当DH2名、筆者 計11名参加 その後2回、状態の変化に合わせてカンファレンスを実施し多職種連携を行う。
 管理栄養士に訪問診療同行を依頼しPAPを作成して安全な経口摂取をめざす。
Ⅴ.まとめ
 訪問診療には必要な情報が多いにもかかわらず、情報の収集が難しいという特徴があります。そのため多職種連携することで、それぞれの得意分野を生かした分担作業や情報の収集・共有をおこなう必要があります。
 また訪問診療には、食渣の残留や痰や痂疲また口唇のこわばりのため視野の確保が難しいという、もう一つの特徴があります。そのため口腔の保湿、汚れの除去、口腔周囲筋のリラクゼーションが重要であり、その役目を担うDHとの連携が歯科医師にとって、ある意味最も重要であると考えます。
 フレイルモデルの考え方によると(図2)、現在診療所に通院されている高齢者がいつ要介護状態になり、往診が必要になってもおかしくありません。その時できるだけ、多くのかかりつけ歯科医師が積極的に訪問診療を行うことで、これからの超高齢化社会を支えていただくことを願っています。
(2月26日、第22回歯科臨床談話会より)

図1 後期高齢者数の推計(2010年を100とする)
1848_01.gif 図2 疾病モデルとフレイルモデル
1848_02.gif
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