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学術・研究

歯科2019.02.17 講演

歯科定例研究会より
小児へのう蝕治療の基本と小児歯科領域における最近のトピックス(2019年2月17日)

大阪大学大学院歯学研究科 小児歯科学教室 仲野 和彦先生講演

はじめに
 「少子化」と言われ続けていますが、一人ひとりが大切にされるようになってきたのか、小児の歯科治療の機会は増加してきているように実感しています。実際に、保護者の方が「小児歯科」という標榜を目にされますと、「小児の歯科治療に精通されている歯科医師による治療」をイメージされることが多いようです。一方で、小児の相手をすること自体が煩わしいと感じられる先生方もおられるのではないかと思います。しかし、地域の子どもたちのためには、より多くの症例を先生方に手がけていただければと願っております。
 今回の講演では、まず日常臨床で遭遇するう蝕の症例への対応法について基本的な知識をまとめさせていただきました。その後、「小児期における歯周疾患」「小児期の歯の外傷」「感染性心内膜炎予防と治療に関するガイドライン(JCS2017)」「口腔機能発達不全症」の四つのトピックスにつきまして、小児歯科専門医の視点から触れさせていただきました。「口腔機能発達不全症」は昨年度より保険導入されたばかりでありますので、今後さまざまな観点から分析した上で、別の機会にまとめさせていただきたいと思います。
小児う蝕の症例への対応法
 3歳未満の小児に対しては計画的な歯科治療は困難であり、急性症状がない場合には進行抑制処置にとどめて、成長とともに治療環境に慣れるのを待つのが一般的です。どうしても処置をせざるを得ない場合は、多くのスタッフを集めた上で全ての器具をそろえてから開始し、できるだけ短時間で終わることができるように努力してください。特に、身体固定下で行う際には、処置中のバイタルサインには細心の注意が必要です。
 一方で、3歳を過ぎますと対話が可能になってきますので、少しずつ診療室の環境に慣れさせていき、治療につなげていってください。できるだけ治療内容について分かりやすく説明して、使用する器具なども事前に見せてあげると良いでしょう。保護者には待合室にいていただき、お子さんと離れておいていただくのが良いと思います。たとえ予定通りの処置ができなくても、何かできたことを見つけてよく褒めてあげることが次につながります。
 処置の際には、歯根吸収している乳歯の根管治療を敬遠される先生がおられますが、事前にエックス線で確認していただくとともに、手指の感覚を大事にしてもらえば次第に慣れてくると思います。エックス線診査では、分岐部や根尖部の骨吸収像に注目するとともに、感染根管治療が必要な場合を見落とさないようにすることが大切です。ただ、複根管歯では、1根管だけあるいはその一部だけ歯髄が生活反応を示すこともあり得ますので注意してください。
 幼若永久歯のう蝕治療では、歯根の完成までは可及的に露髄しないように試みるのが重要です。一方で、歯根が未完成な状態で偶発的に露髄した場合には直接覆髄を行いますが、軟化象牙質の除去時に露髄した際には断髄を行ってください。小児の歯科治療において、痛みを感じさせると次回以降の治療が困難になります。麻酔が必要な症例に対しては、必ず麻酔を使用して処置を行ってください。また、帰宅後に咬傷を引き起こす子どもがいますので、特に初回の麻酔時には保護者に十分注意喚起をしておいてください。
小児期における歯周疾患
 小児期では歯肉炎がほとんどであり、歯周炎は極めて稀です。しかし、小児期の歯周炎には何らかの全身疾患が関係する場合がありますので注意が必要です。一般的には、小児科領域で診断がついてから、歯科領域へ紹介されることがほとんどです。
 最近になって、低ホスファターゼ症の患者さんの中で軽症の場合は、診断がつかない状態で日常生活を送っておられる方が存在することが分かってきました。低ホスファターゼ症は、組織非特異型アルカリホスファターゼという酵素をコードする遺伝子の変異によって生じる疾患です。「骨の形成不全」と「乳歯の早期脱落」が診断の二大基準になっています。重症型は、常染色体劣性(潜性)遺伝の形式をとり、10~15万出生あたり1人くらいの頻度とされています。これまでは、肋骨の形成不全から呼吸器がうまく形成されず、生存すること自体が困難な症例が多くありました。しかし、2015年より日本では世界に先駆けて根本治療薬を使用できるようになり、生命予後が大幅に改善されました。
 一方で、軽症型の人は常染色体優性(顕性)遺伝の形式をとることが分かってきましたので、その頻度は数百人に1人といった程度である可能性が考えられています。軽症型は、乳歯の動揺や早期脱落の所見(図1)から歯科医の気付きによって早期診断にいたりやすいとされています。これまでの経験から、低身長などの全身的な症状がある人でさえも小児科領域で診断にいたっていなかった人もおられます。また、診断時には歯にしか症状がなくても、成長とともに全身の骨に症状が出てくる人もいることが分かってきました。日々の臨床や地域の乳幼児歯科健診などで注意して「乳歯の早期脱落」をスクリーニングしていただければと思います。
小児期の歯の外傷
 小児期の歯の外傷は約3人に1人に生じ、乳歯列では転位(特に陥入)が多く、永久歯列では破折が多いとされています。初診時には、歯の治療よりも優先すべき全身的な問題はないかを十分確認する必要があります。外傷は同じ子どもによく生じる傾向がありますが、説明がつかない外傷を繰り返す場合には虐待との鑑別が重要です。
 図2に乳歯の陥入症例を示します。乳歯が陥入した際には、時間経過とともに再萌出する症例が多くあります。抗菌薬を投与してしばらく様子を見るのも一つの手です。
 歯髄壊死が生じた際には、感染根管治療を行う必要がありますが、多少の変色でしたらそのまま交換まで維持できることや色調自体が回復してくることもあるため、経過観察していくという手もあります。しかし、歯肉膿瘍を形成してる際には明らかに感染根管処置が必要です。永久歯の破折症例では、破折している位置によって歯髄処置が必要になってきます。歯髄腔までの距離がある場合は、そのまま修復もしくは破折片の接着で良いですが、歯髄腔に近接している場合は覆髄が必要になります。
 また、露髄している場合は、来院までの時間が短い時には可及的に口腔側に近い位置で断髄しますが、来院までの時間が長い時はより根尖側寄りで断髄する必要があります。断髄で出血がコントロールできない場合は、抜髄せざるを得ない場合もあります。外傷の際にはエックス線診査が重要です。特に歯根破折のケースでは、1枚の画像では破折線が明確に写し出せないケースがあるので、疑いが濃厚な場合には角度を変えて撮影するなどの注意が必要です。また、外傷後の歯髄壊死や歯根吸収などの可能性や後継永久歯への影響などの予後についても患者さんや保護者に十分に説明しておく必要があります。
感染性心内膜炎予防と治療に関するガイドライン(JCS2017)
 先天性心疾患を有する小児は100人に1人の頻度であることが知られています。そのうちの約6割が心室中隔欠損症であり、感染性心内膜炎の発症リスクがあることが意識されています。感染性心内膜炎は、心臓の弁膜や心内膜に血小板やフィブリンに細菌が加わり塊を形成することで発症する疾患です。感染症状、心臓症状および血管塞栓症状など多彩な臨床像を示し、治療しなければ死にもいたる可能性がある疾患として知られています。先天性心疾患のある人では、強く血流が当たる心内膜や弁膜において内皮傷害が生じ、その箇所に抜歯などの歯科治療によって血液中に侵入した細菌が付着することで発症するとされています。
 日本では、感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドラインが2003年に初めて発表され2008年の改定を経て、2018年3月に最新改定版が公開されました。侵襲的な歯科治療前に行うべきアモキシシリンを用いた予防法について表に示します。今回の改訂版では、投与量2gは日本人の体格には多すぎであろうとの議論を踏まえて、容量を少なくする提案も加えました。ただし、その際には術後の追加投与の必要性も記載しました。
 アレルギーのため使用できない場合の第二選択の抗菌薬に関しても3種類記載しましたので、ガイドラインをご参照いただければと思います。また、「歯科処置に対して抗菌薬の予防投与が必要か?」というクリニカルクエスッションを設けて、システマティックレビューを行いました。詳細は、下記よりご確認いただければと思います。 http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_nakatani_h.pdf
(2月17日、歯科定例研究会より)

図1 低ホスファターゼ症で見られる乳歯の早期脱落
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図2 乳歯陥入の症例(初診時2歳2か月:女児)
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表 アモキシシリンを用いた歯科処置前の抗菌薬の予防投与法
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