兵庫県保険医協会

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学術・研究

歯科2019.12.22 講演

歯科定例研究会より
最新エンドの基礎と基本(2019年12月22日)

広島市・吉岡デンタルキュア院長  吉岡 俊彦先生講演

はじめに
 今回「最新エンドの基礎と基本」と言うタイトルで講演させていただくにあたり、歯科用コーンビームCTや歯科用実体顕微鏡(マイクロスコープ)などの限られた歯科医院にしか導入されていない機器に関する内容ではなく、日々の根管治療をどのように考え、どのように治療をすすめるべきかと言う部分の話をさせていただくことを念頭に置いた。その上で、もちろん昔から不変である根管治療の原則や根管の解剖に関しても再度確認していただこうと考えた。
 まず、用語の解説を行った。根管治療は保険用語として「抜髄」と「感染根管処置」に分類されるが、学問的には「初回根管治療(生活・失活)」と「再根管治療」に分類して考えるべきであること、「根管拡大」ではなく「根管形成」、「根尖病巣」ではなく「根尖病変」、「フィステル」ではなく「サイナストラクト・瘻孔」という用語を使用するように変化していることを説明した。
 歯内療法の目的が根尖周囲組織の炎症の除去と予防であることを確認し、それを達成するために、われわれは「根管内の細菌感染の除去」と「根尖周囲組織の正常組織を破壊しないこと」の二つが大切であることを説明し、例として湿潤療法(モイストヒーリング)を挙げた。
 根管治療において遵守すべき基本事項として「使用器具の滅菌」「カリエスを取り切る」「漏洩のない仮封を行う」「ラバーダム防湿」の4つを挙げ、それを守らない上ではどのようなスペシャルなテクニックや材料も意味をなさないことの説明を行った。
根管解剖
根管数について
 根管の見逃しはその根管内の感染物質の除去が全くできていない状態なので、根尖病変に直結する。CBCTを用いた研究では根管の見逃しがある根尖部の8割以上に骨吸収が認められたと報告されている。もっとも見逃しやすい根管は上顎大臼歯の近心頬側根の2根管目(MB2)である。MB2の位置が分かっていれば、顕微鏡はなくても探索可能な症例もあると思われる。MB1の根管口からP根管方向へ1~3㎜、近心へ1~2㎜程度のエリアに存在する場合が多い。
 MB1とPの間には象牙質の張出しが存在するので、その象牙質を回転切削器具や超音波チップで穿孔に注意しながら除去する必要がある(図1)。
 上顎の大臼歯の次に見逃しが多い歯種は下顎第一小臼歯、下顎大臼歯と続いている。
 特に再根管治療においては、初回の治療の際に見逃されている根管が存在すると考えて臨む必要がある。
根管形態について
 根管形態として注意しなくてはならないのが、楕円〜扁平な根管である。
 扁平な根管の真ん中を根管形成すると両サイドに器具が触れてないフィンと呼ばれる部分が残存する。同様に扁平な根管の両端を根管形成すると真ん中に器具が触れてないイスムスと呼ばれる部分が残存する(図2)。
 歯種として、フィンは上顎5、下顎大臼歯遠心根、下顎前歯などに、イスムスは上顎4、下顎大臼歯近心根、下顎前歯に発生しやすい。
 それらの部位は器具で触れる(機械的な感染除去)のは困難であり、根管洗浄での感染物質除去が必要となる。
 ガッタパーチャ除去の際もそれらの形態にガッタパーチャや感染が残るリスクが高いことを把握しておく必要がある。
根尖付近の根管形態について
 これまでの多くのイラストで描かれているように、根管最狭窄部が明確に存在するものであると多くの先生が考えていると思われる。
 筆者は大学院時代の研究で、マイクロCTを多く撮影する経験があり、根尖部の形態をこれまでよりも詳細かつ三次元的に確認している。実際の根尖部根管には、模式図に描かれているような明確な狭窄が全周に存在するような根管はほぼなく、多くの場合狭窄はなくパラレルに根尖孔に移行していることが分かった(図3)。これまで言われてきた最狭窄部の概念は今後なくなるであろうと考えており、作業長をどのように決定するかなどのコンセンサスは今後議論されるべきであると考える。
根管洗浄
 現在の歯内療法領域で最も注目を浴びているのが根管洗浄である。洗浄液には何を用いるべきか、どのような洗浄方法を行うべきかの解説を行った。
 以前交互洗浄に使われていた過酸化水素水は次亜塩素酸ナトリウムの効果を弱めてしまう点、根尖孔外に出ると気腫の可能性があるため、現在は推奨されなくなっている。次亜塩素酸ナトリウムの濃度の選択は軟組織溶解・バイオフィルム除去のためには3%以上を用いるべきであり、アメリカのエンドドンティストへの調査でも3%以上の使用が多くを占めていた。
 洗浄方法としては洗い流す効果を考えると綿栓などで行う方法は望ましくなく、超音波洗浄や音波洗浄でしっかりと根管洗浄液を撹拌することが望ましい。また、洗浄専用のNiTiファイルを用いた洗浄も動画で解説を行った。
根管貼薬
 近年パラホルムアルデヒド(ペリオドン)やFCなどの貼薬は推奨されなくなってきている。根管内と歯根周囲組織は根尖孔や象牙細管でつながっているので、根管内に揮発性の貼薬剤を入れると根尖周囲組織や歯根膜にダメージがあることが分かっている。「傷を治す際に傷を消毒してしまうと、治癒が遅れる」というモイストヒーリングの考え方に置き換えると、やはり揮発性の貼薬は望ましくない。根管内の感染除去は根管形成と根管洗浄で行い、根管貼薬はあくまで補助的な役割だと考えるべきである。
ガッタパーチャ除去
 再根管治療の際に根管内の細菌感染除去を行うためには、旧根管充填材であるガッタパーチャを除去することが非常に重要となる。
 日々なにげなく行っている処置だが、全てのガッタパーチャを取り除くのは非常に困難である。文献的にはさまざまな方法で除去を行っても体積で3~10%、根管壁表面積で25%以上が残るとの報告もある。それをいかに取り除くかが再根管治療の成功へのキーポイントである。
 除去に使用できる物として、回転切削器具(ゲーツ、GPR、NiTiファイル)、手用器具(マイクロエキスカ、ガッタパーチャリムーバースピア)、溶剤(GPソルベント、ユーカリソフト)、手用ファイル、柄付きのファイルなどがある。
 画一的な方法はないが、効率的に除去を進める方法、どこに残りやすいか、残りやすい部位への対応を考える必要がある。
 そのためにも、術前の根管充填の状態を確認したうえで、除去の方針を考える。根充がアンダーな場合には除去だけに集中すればよいし、フラッシュな場合には根尖部付近のガッタパーチャは慎重に、できれば引き抜くように除去しなければならない。またオーバーな場合には、引き抜ける場合もあれば、諦めて根管内の処置を終了したのちに、必要に応じて根尖部の掻爬などを検討する場合もある。
 このように到達度の他に、充填の密度、根管の湾曲の程度、根管の細さなどを術前に診査してから根管充填材の除去へ取り掛かっていただくのが良い。
トラブルシューティング
 日々の根管治療での悩みの解決策をいくつか示した。  「歯髄炎の急患対応」歯髄炎の痛みは冠部歯髄を除去すれば改善するので、急患の抜髄は冠部歯髄を除去すれば良い。
 「根尖性歯周炎の急患対応」根尖部の炎症が強い場合には根管治療を無理に始めるのではなく、しっかりと咬合調整を行い、抗菌薬を投薬して消炎後にしっかりと時間を取って根管治療を開始すべきである。
 「根尖部の石灰化」穿通ができない症例では、ストレートラインアクセスがちゃんとできているか、適切なプレカーブを付与して根尖部のネゴシエーションができているか、などのポイントを押さえること。それでも穿通しなければ、無理やり穿通(穿孔)せずに根管全体の感染除去を進め、根充することを勧めた。
(2019年12月22日、歯科定例研究会より)

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