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学術・研究

歯科2020.07.26 講演

歯科定例研究会より
歯科用CAD/CAMの歯科医院での活用のポイント(上)(2020年7月26日)

姫路市・きたみち歯科医院院長  北道 敏行先生講演

(10月5日号からのつづき)
修復物の接着操作
a)修復物接着界面への処理

(1)セラミックス接着界面の処理はHFを使用するのが主流であったが、扱いの危険性から国内ではチェアサイドで使用できない。近年エッチ&プライム(イボクラ社)を用いることによって、セラミック接着界面の処理が可能となった。
(2)ジルコニアは試適後酸処理を行わない。ジルコニアはシリカよりも唾液中のリン蛋白と強固に結びつく。同様にリン酸での処理も推奨されない。すなわちジルコニアの表面にはリン酸モノマーが真っ先に接触するのが望ましいとされている4)。一般的にサンドブラストとMDP含有プライマーを併用したときに長期の接着安定性が得られる5)
(3)CAD/CAM冠接着界面への処理はジルコニアと同じくサンドブラスト処理を行う。完全重合体であるCAD/CAM冠には未反応なモノマーは残っておらず接着しにくい。適度なマイクロメカニカルインターロッキングの形成と、マトリックス中のシリカを掘り出すことによりわずかではあるがシランカップリング剤による化学的結合も期待する。しかし、近年露出した無機フィラー部位にはシランカップリング効果が期待できるが、広範囲を占める完全硬化したマトリックスレジン部分には未反応モノマーが残存しておらずシランカップリングの効果は期待できない6)との報告も見られる。
 またCAD/CAM冠の接着試験や繰り返し衝撃荷重試験において、PMMA系レジンセメントはコンポジットレジン系レジンセメントと比べより高い接着性と破折抵抗性が見られるといった報告も多く見られる。これはモノマーであるMMAの分子量(100)がCR系レジンセメントの他官能メタクリレート(約500)よりも小さく、微細な間隙にも入り込む7)ためであると報告されている。実際の使用に関しても、スリラー状からゾル状とすることにより、冠内面に対する濡れが非常に良好であり、接着面積および分子間相互作用が増大しどのブロックに対しても安定した接着力を発揮する8)
 以上から現時点でのCAD/CAM冠の接着に関しては、PMMA系レジンセメントが有効である。

b)歯質接着界面への処理
 歯面に対する接着力の比較において、レジンセメントを直接作用させた初期接着力は意外に低いことが知られている。IDS法による歯面処理は接着に有効である9)
 図4によると最も強い初期接着力が得られるのは、メガボンドに代表されるセルフエッチングプライマーによる歯面処理であり、いわゆる傾斜機能的樹脂含浸層を形成することによる。
 通常のステップとして
(1)感染歯質の除去
(2)形成歯面に対するセルフエッチングプライマーによる処理
(3)CRを用いて形成象牙質を一層シーリングする(IDS 法)
(4)CRを用いた窩洞内面形態修正
(5)最終仕上げ形成
 以上のステップを行い光学印象を行う。IDS法により露出した象牙細管は完全にCRで閉鎖され不快症状の発生も防止できる。
c)マテリアルの強度による接着の使い分け
 臨床指針として三点曲げ強度が350MPa以下のものはプライマーを用いた接着を行うべきである。長石系セラミックス、白榴石強化型グラスセラミックス、モノマー強化型グラスセラミック、CAD/CAM冠などが挙げられる。
 350MPa以上の曲げ強度を持つマテリアルにおいてもプライマーを併用するのが好ましいが、歯肉縁下形成においては歯質のプライミングは困難である。このような場合はセルフアドヒーシブセメントを使用する。歯質接着力に劣るため、破折に抵抗するかはある程度マテリアルの強度に依存する。二ケイ酸リチウムシリケイト、ジルコニア強化型一ケイ酸リチウムシリケイト、ジルコニアが代表的である。
CAD/CAM冠の形成に関して
 CAD/CAM冠は接着に必要な未反応なモノマーを含まない完全重合体である。接着しないものを口腔内で維持するには形成に関しての理解も必要である。具体的には合着型デザインと接着型デザインを併せ持った形態が必要となる。合着型歯冠補綴の鉄則は(1)支台歯長は4㎜以上(2)テーパーは4~8°(3)スペーサーは20~50μm程度とされている。すなわちリテンションとフリクションによって補綴物は歯質に維持されている状態であり、接着のように歯質とは一体化していない。
 接着型形成は(1)支台歯長は4㎜以下でも構わない(2)テーパーは5~8°で角をなくし応力を歯質に分散させる形態にする。CAD/CAM冠は脆く、たわみやすい材料学的特性から支台歯鋭端部の存在は破折を招く。しかし接着が困難であることを考慮すると、ある程度支台歯に維持を求める必要がある。よって支台歯歯肉側2分の1はテーパーを合着型形成のように立てる形成を行う。支台歯の移行部はなめらかに仕上げ、形成自体は三面形成を心掛ける。マージン形態はスロープドラウンデットショルダーが好ましい。全周90°のステップ形成は軸壁面移行部でのCAD変換エラーにつながるため禁忌である。正確なスキャンデーター取得のためにも軸壁面の移行部は滑らかに移行させるべきである。
 クリアランスに関してはメタルと異なり十分なクリアランスが必要である。機能咬頭直下では最低でも2㎜のクリアランスは確保することが必要である(図5)。
終わりに
 COVID-19によりわれわれ歯科医院を取り巻く環境も大きく変化してきた。海外では感染防御策として、非接触で印象採得可能なIOSが注目を浴びている。日本国内においても同様の傾向があり、今後IOSによる口腔内直接光学印象が健康保険に認可されるかもしれない。書面の関係で質問の多かった部位に関しての記述に留めたが、少しでも先生方の日常臨床のお役に立てれば幸いである。
(7月26日、歯科定例研究会より、終わり)


参考文献
4)ヤマキン博士会監修マルチエッチャント資料より引用
5)2009 Sep;88(9):817-22. doi: 10. 1177/0022034509340881. Kern M, Barloi A, Yang B. Surface Conditioning Influences Zirconia Ceramic Bonding
6)FRANK A. SPITZNAGEL et. al. Resin Bond to Indirect Composite and New Ceramic/Polymer Materials: Journal of Esthetic and Restorative Dentistry Vol.26 No.6 382-393 2014
7)原嶋郁郎ら、レジンとレジンの接着AD Vol.11 NO.3 1993
8)疋田一洋、CAD/CAM用レジンブロックと接着性レジンセメントの引っ張り強さ、日本歯科理工学会2017.4.16
9)二階堂徹、接着性レジンセメントをいかに使うか-確実な接着を目指して-、日本歯科医師会雑誌Vol.60 No.9 2007-12,873

図4 CAD/CAM冠の場合も同様にレジン系歯面処理材を使用する。代表的なレジンコーティング材としてバイオコート(サンメディカル)など
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図5 9月より保険収載された前歯部CAD/CAM冠の形成ガイドライン
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