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学術・研究

歯科2020.09.13 講演

歯科定例研究会より
成功例ではわからない!!
インプラントのトラブルは何故起こるのか?(下)(2020年9月13日)

芦屋市・野阪口腔外科クリニック 院長  野阪 泰弘先生講演

(前号からのつづき)
補綴
(1)咬合平面の修正や対合歯の治療などは、1次手術までに行っておく。
(2)上部構造にはネジ止め法とセメンティング法の2種類がある。
(3)両者の長所と短所を患者に説明し、患者の理解が得られた方法を選択する。
ポイント
 演者が上部構造を作製する場合は、メインテナンスが容易であることからネジ止め法で行っている。しかし、ネジ止め法ではアクセスホールが存在し、同部の審美性が問題になる。一方、インターネット上にはアクセスホールがない上部構造が掲載されているため、患者はイメージと違うとクレームを言う場合がある。したがって、ネジ止め法で上部構造を作製する場合は、初診時にネジ止め法について十分に説明し、患者の了承を得ておく必要がある。
メインテナンス
(1)口腔内の清掃が不良な場合は、あきらめずに指導と実践を続ける。
(2)インプラント周囲粘膜炎や周囲炎は急激に進行する可能性があるため、先送りせずに早期に対処する。
(3)隣在歯の病変が、インプラント体の周囲骨に波及する場合がある。
(4)患者に自覚症状がなくても、6~12カ月おきにX線写真やCT画像でインプラント体の周囲骨を評価する。
ポイント
 メインテナンス中に粘膜の腫脹や周囲骨の吸収が生じた場合、自然に治癒することはほとんどないため、早期に原因の究明と治療が必要である。患者に事実と治療方針を説明しなければ、患者との信頼関係は崩壊し、患者は他の施設を受診することになる。したがって、患者がアポイントに来院しないことは、経過が良好だからではなく、経過が不良のサインと考えるべきである。
抜歯窩が骨性治癒するとは限らない
 演者の臨床データでは、541例の抜歯窩において、抜歯後6カ月が経過しても47例(8.7%)で抜歯窩にX線透過像が認められた(図2)。X線透過像部の病理組織学的診断では、線維性結合組織が27例(57.4%)、腐骨が17例(36.2%)であった。
 つまり、約8%の抜歯窩には、骨が再生されない可能性があると考えられる。また、好発部位は、下顎臼歯部が34例(72.4%)と上顎臼歯部12例(25.5%)で、臼歯部がほとんどであった。原因としては抜歯窩の血流不足が考えられ、抜歯前に存在している骨硬化像に注意する必要があると思われた。したがって、抜歯時に人工骨を抜歯窩に填入した場合、約8%の症例で十分な骨が形成されないリスクがあると考えられた。
確証バイアス
 現在、インプラント治療の適応拡大を目的として、さまざまな骨造成術が行われている。骨造成術では人工骨や遮断膜などの人工物が使用され、新製品が有用として紹介されている。一方で、注目を浴びた術式や製品が自然に消滅し、今は誰も見向きもしないことが数多く認められる。
 つまり、トラブル症例や反証する論文を排除し、成功例と都合の良い論文のみを列挙して有用性をアピールする行為(確証バイアス)が問題と考えられる(図3)。歯科医師は、自然科学者である。したがって、さまざまな情報を理論的および客観的に評価する能力が重要で、情報を鵜呑みにすると大きなトラブルに巻き込まれる可能性がある。
まとめ
 インプラント治療は、咀嚼能を飛躍的に向上させ、審美的にもある程度の満足が得られる画期的な補綴治療である。しかし、インプラント治療にはさまざまな落とし穴が存在するため、各ステップを着実に進めていくことが最も重要である。また、異物に対する生体の反応には未知の領域が多数存在し、いまだ発展途上であることを認識すべきで、確実な治療法を選択することがトラブルを回避する近道と思われる。

(2020年9月13日、歯科定例研究会より)

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図2 抜歯後6カ月以上経過した541例の抜歯窩に対して、CT画像で抜歯窩の骨再生を評価した。47例(8.7%)の抜歯窩にX線透過像が認められ、抜歯窩が必ず骨性治癒するとは限らないことが明らかになった
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図3 骨造成術に関する論文や講演などを評価する場合は、確証バイアスが存在するか否かが重要である。同じ術式と骨補填材を用いた50例以上において、5年以上経過したCT画像で検証されていれば信頼性が高いと思われる
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