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学術・研究

歯科2020.12.06 講演

歯科定例研究会より
矯正も予防の時代
口腔の育成~筋力の不思議~(-1歳からの咬合育成)(上)(2020年12月6日)

東大阪市・中原歯科副院長 日本小児歯科学会専門医指導医  中原 弘美先生講演

はじめに
 う蝕が減少する中、歯列・咬合の不正は増加の一途をたどり、乳歯列に於いても不正が多数認められ、それに伴い数々の問題点が見られるようになった(図1)。
 元来、歯は口唇や舌、頬等口腔内外の筋力のバランスの取れたところに並ぼうとする(図2)。ところが口腔およびその周囲筋がうまく発達していない「発達不全」があると、歯列や咬合の不正が発症する。そしてその口腔機能の発達不全は、子どもたちの全身の姿勢発達の不全に起因することがわかってきた。
胎児の成育環境
 近年、女性の社会進出が進み、初産年齢は2011年に30歳を超えてからじわじわと上昇している。出産は当たり前に迎えられるものではなく、5.5組に1組が受精の段階から医学的介入を必要とする。加えてすでに体力のピークを過ぎ、出産に必要な筋力を十分に持ち合わせていない高齢の妊婦の胎内では、胎児が十分な機能を獲得できない現状がある。
 時代とともに女性の体格は変化し、胎児が安定しにくい縦長の骨盤形態が増えた(図3)。体を支える筋力の低下とともに骨盤底筋は緩み過ぎ、母体の中で胎児が良いポジションを取れなくなっていることも多い。また、胎児のポジションの悪さは帝王切開による出産の増加にもつながり、出産にまつわる原始反射が消化されずに残存し、その後の姿勢発達の不全につながることも多い。
 胎内で下顎が上がった姿勢をとることは、舌小帯の未発達や哺乳時の開口量にも関係すると容易に類推できる(図4)。ゆえに、出生後の乳児はすでにその時から過去の乳児たちと状態が大きく異なっている。妊婦健診の折に、妊娠期の母体ができるだけ胎児を健やかに育てられるように母体の姿勢指導をしたり、出産後の授乳の多様性(母乳授乳に限らない)や授乳姿勢に対する指導等、私たちが関わることが限られるこの時期にも、機能の発達を促すことは可能である。
姿勢発達の始まり
 乳児期の姿勢発達は、哺乳や固形食の咀嚼嚥下という口腔機能の発達に大きく関係している。例えば姿勢発達においてハイハイが十分でき、発達の階段を順序よく上って、次の自座位、立つという動作に進んだかどうかは、私たちの領域である顎位や咀嚼嚥下に於ける舌位に直接つながってくる(図5)。今般口腔機能発達不全症の診断基準に離乳完了前の項目がたくさん入ったが、こうした背景を鑑みると、まずはこの姿勢発達を促す指導を考えるべきである。
 診療室でこの身体の発育と姿勢発達を上手に見極めるためには、母子手帳を活用すると良い。小児歯科学会では歯科の受診時に母子手帳を持参することを推奨しているが、この母子手帳には膨大なデータが記載されている。母親の身体や職業などの情報や家族関係、妊娠出産にまつわる子どものさまざまな状態だけでなく、6歳までの発育と発達の記録、予防注射の接種記録等が記載されている。これらの数々の情報は、母親の育児に関する不安や力量・保育に関する母親以外の協力者の有無等、口腔機能の発達の不全の原因を分析するのに大きな助けとなる。
 また、成育環境の一つひとつが姿勢発達に影響を及ぼしている。親にとって便利な育児用品や環境ではなく、子どもの姿勢発達を促すような育児用品や環境でないと、子どもの体に凝りや緊張や曲がりが出て発達に歪みがでる。(次号につづく)

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