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学術・研究

歯科2020.12.06 講演

歯科定例研究会より
矯正も予防の時代
口腔の育成~筋力の不思議~(-1歳からの咬合育成)(下)(2020年12月6日)

東大阪市・中原歯科副院長 日本小児歯科学会専門医指導医  中原 弘美先生講演

(前号からのつづき)
口腔機能発達不全症の指導はどこから取り組むか
 発達不全症は、早期であれば口腔筋機能訓練等を考える前に、その成育環境や姿勢を整えるだけでも正常な形態や発達に戻すことができる。例えば食事の椅子や食事姿勢を改善するだけで正しい歯列咬合に戻すことが可能である(図6)。
 下顎は振り子のようなものであり、筋肉で支えられて、その位置を決定する。また、舌も体の中でただ一つ関節を持たない舌骨につながっているために、たくさんの筋肉にその動きを支えられている。特に下方の前面は胸骨・後方は肩甲骨につながっていることを考えれば、姿勢が悪ければ舌位が悪くなり、筋力は正しく働かなくなり、歯列も乱れるのは当然のことと言える(図7)。食事姿勢の安定は正しい歯列咬合の育成に大いに役立つ(図8)。
 また、少子高齢化にともなうバリアフリーの住環境や社会の環境は、子どもたちの足指の支持や手掌支持、頭部を支える体幹の筋力(背筋・腹筋)の未発達を招いている。私たちの診療室では、子どもたちの病歴・姿勢・食事・癖におけるさまざまな項目をチェックし、発達を促すような生活習慣に変え、機能をキャッチアップして、装置を使うことなく歯列咬合の改善につなげている(図9)。
 特に、食生活に関する指導は欠かせない。食物形態・食習慣の変化も口腔機能の発達を大きく妨げている。当院は長く栄養士をスタッフに加え食事の指導を行ってきたが、食物の形態や種類の変化はチョッパータイプの増加を促していると感じている。臼磨運動は、口腔内で食物を舌が支えて運び、歯牙の整直に役立つ動きだが、この動きを上手に獲得している子どもたちは非常に少ない。このことが歯牙の傾斜を招き、下顎の後退や舌房の狭さを招き、過蓋咬合を増加させる一因となっている。加えて毎年数人が命を落とす「誤嚥」の問題もこのチョッパータイプの増加に他ならない。食べることを育てる指導は歯列咬合を育てる大きな力であり、改めて見直す必要がある。
WITHコロナ時代を経験した子どもたちの未来にむけて
 口腔機能の概念が保険制度に取り入れられ、その発達に陽の当たる時代が到来した。「口腔機能発達不全症」という病名は、機能に取り組んできたわれわれにとって長く待ち望んでいた病名ではあるが、その指導には保護者の育児の評価と受け取られぬような配慮が必要であり、「成育をサポートする」という立場で行うことが必要である。
 口腔筋機能訓練療法(MFT)はさまざまな病状に応用が可能である。けれども、筋力はバランスが大切であり、口腔周囲筋に留まらず常に全身との関係性を診ていかなければいけない。
 筋力は両刃の刃であることを忘れずに、発達不全の原因を分析し、原因を除去することにまず取り組むべきであろう。
 コロナ禍でステイホームが増える中、近い距離(30㎝以内)でゲームやタブレットと接する(近業)機会が増え、子どもたちの近視が進んだとのデータが出てきた(於京都教育大学附属小 NHK調べ)。治ることのない不可逆的な近視「眼軸近視」が増えているとの調査である。当院ではコロナ禍に入り、このような近業が増えることによって、幼児から青年まで等しく、歯ぎしりの増加、食いしばりによる咬合性外傷・開口障害・顎関節症などがみられるようになった。そして眼科領域の不可逆的な視力の低下はさらなる長期的な姿勢の悪化を招き、歯牙の萌出方向の異常や歯列咬合の不正を招く可能性があると感じる症例が出てきた。
 少子高齢化の中で、子どもたちを育てることを保護者だけに責任を持たせるのは、時間的にも物理的にも難しい。子どもは社会が育てるべきと考える。そのためには歯科だけでなく多職種との連携が必要である。
 特にコロナ禍において非日常に置かれた子どもたちには、心にも体にもさまざまな変化がおきている。個々の地域にて多くのマンパワーが必要である。ぜひ、皆さまに産科医・小児歯科医・整形外科医・眼科医・耳鼻科医・助産師・栄養士・保育士等々、子どもを取り巻く多職種との連携に努めていただくことをお願いしたい。
(2020年12月6日、歯科定例研究会より)
参考文献
赤ちゃん歯科ネットワーク2016.Vol.2 No1
「べびぃケア」吉田敦子・杉山貴子、2012、合同出版
「装置に頼らない子どもの咬み合わせ治療」高田泰、クインテッセンス出版

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