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学術・研究

歯科2021.02.21 講演

歯科定例研究会より
世界的に注目されるウイルス感染症(2020年2月21日)

大阪大学大学院歯学研究科 口腔細菌学教室  川端 重忠先生講演

新興感染症の多くがウイルス性
 1898年、フリードリヒ・レフレルとポール・フロッシュは口蹄疫の病原体がウイルスであることを発見した。1901年にはウォルター・リードが黄熱病の病原体ウイルスを報告した。今日に至るまで、種々のウイルスは人類の脅威となっている。撲滅に成功したウイルスは痘瘡(天然痘)ウイルスのみである(1980年、WHOは根絶を宣言)。
 近年のSARSウイルスや新型インフルエンザウイルスなどによる疫病を新興感染症と呼ぶ。この新興感染症とは、過去20年間で明らかにされていなかった病原体に起因する公衆衛生学上で問題となる新規の感染症を言う。新興感染症はその多くがウイルスによるものである。
スペイン風邪と香港風邪
 1918年から1920年にかけて、スペイン風邪とよばれるインフルエンザウイルス感染症が猛威を振るい、世界で5億人(当時世界人口の27%)を超える感染者を出し、死亡者数は5000万人から1億人と推定されている。人類史上最悪の感染症の一つである。当時の報道を鑑みると、100年経った現在の新型コロナ感染症への対策と比較しても、あまり変わらない様子が興味深い(図1)。
 1968年から流行した香港風邪もパンデミックを起こし、5億人以上の感染者を出した。記憶に新しい2009年の豚インフルエンザでは、若年者を中心に6000万人以上の感染者を出した。後期高齢者の発症率が低かった原因として、若年期に類似のインフルエンザウイルスに感染した免疫記憶が残存していたためと考察された。
コロナウイルス感染症
 近年、動物由来で人獣共通の新興感染症が世界各地で流行している。重症急性呼吸器症候群(SARS)は、2002~2003年に中国で発生した感染症であり、感染者約8000人、死者数約800人、コウモリが起源と言われる(図2)。幸運なことに、特段の対応を行わなかったにもかかわらず、日本では流行をみなかった。しかしながら、SARSを経験しなかったことが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する初期対応の遅れにつながったとの指摘がある。2012年には、中東呼吸器症候群(MERS)が発生した。現在ではヒトコブラクダが起源とみられている。
 2019年12月、COVID-19はSARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって起きる呼吸器感染症として中国武漢市で初めて検出された。感染者は1億2000万人、死亡者は260万人(2021年3月10日時点)を超えた。収束するまでかなりの年月を要するとみられ、感染者等の数字はかなり上乗せされるだろう。世界中の大都市ではロックダウンが行われ、社会生活に甚大な被害を与えている。
 しかしながら、人類史上例を見ない速いスピードでワクチンが開発され、日本でも2021年3月からワクチン接種が始まった。SARS-CoV-2はRNAウイルスであり、ファイザー社製のワクチンはmRNAワクチンと言われる(図3)。筋肉注射されたmRNAをもとにウイルスタンパク質が作られ、それに対する抗体が産生される。イスラエルにおける大規模なワクチン接種の報告によると、感染予防、発症予防、重症化抑制が有意に認められ、副反応も他のワクチンと同等程度であった。他の2社のワクチンも使用が始まり、COVID-19の早い収束、あるいはSARS-CoV-2の有効な制御が待望される。
(2月21日、歯科定例研究会より、小見出しは編集部)

図1 1918~1920年の新聞記事
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図2 重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生と流行地
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図3 mRNAワクチンの特徴と抗体産生の過程
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