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学術・研究

歯科2021.08.29 講演

歯科定例研究会より
成果を上げる歯周治療とSPTの実践
〜患者マネジメントとチーム連携の重要性〜(2021年8月29日)

T style 代表 歯科衛生士  十時 裕子先生講演

本研究会への想い
 長い治療期間を要することの多い歯周治療を成功へ導くには、歯科医療者と患者が互いに理解・協力しあうことが重要である。とりわけ歯科医師と歯科衛生士の良好なチーム連携が求められる。歯周基本治療からSPTまで歯周治療の多くを担う歯科衛生士が、主体性をもちプロフェッショナルとして業務を行うには、知識や技術だけでなく患者マネジメントのためのコミュニケーションスキルも要求される。
 本稿は、基礎知識の確認から実践まで、日々の臨床に活かしていただける内容をベースに構成している。日頃から歯周治療に携わっておられる経験者をはじめ、臨床経験の浅い若手の方やブランク明けの方にも幅広く研修内容を参考にしていただける機会になると幸いである。
歯周治療の要点とチーム連携
 歯科医院に来院される患者は、今回のテーマのように歯周病に関連することを主訴として来院される方だけでなく、他の主訴で来院される方もおり、さまざまである。そのため、初回の医療面接の段階から患者の治療に対する想いを十分にヒアリングすることが大切になる。治療に対する協力度や理解度も変わるため、信頼関係の構築も重要である。
 歯周治療を円滑に進めていくためには、(1)診査・診断と治療計画、(2)情報提供、(3)口腔衛生指導(患者モチベーションを含む)、(4)原因除去(炎症と力のコントロール)、(5)評価、(6)SPTまたはメインテナンス、というようなポイントが挙げられる。
 患者マネジメントは、初診時の医療面接時や口腔衛生指導から始まり、現在の病態への理解や原因の解決に結びつくような患者教育が重要である。歯科医師・歯科衛生士との情報共有を行いながらチーム医療として取り組む歯周治療には、患者主体で共に歩むことも一つのチームの形と考えている。
快適な歯周治療のポイント
 歯科医院には、『痛い、怖い』というネガティブなイメージをお持ちの方もおられる。このような心境や過去のトラウマから、歯科医院と疎遠になりがちとなることもある。このため、スムーズに信頼関係を構築するには、患者に合わせた対応が求められる。優しく温かい笑顔は、診療に対する安心感を与える点で重要となる。治療に対する理解や協力を得られるよう、患者マネジメントとして配慮すべきである。
 施術においては『痛くない、不快でない施術のポイント』を押さえ、患者の気持ちの理解について、院内でも相互実習などを繰り返し、無意識な側面にも目を向けて、プロとしてトレーニングを重ねる必要がある。
 また、患者のセルフケアのレベルは、モチベーションや生活習慣への定着が大きく関係している。歯科衛生士は、コーチの役割のような立場で患者の現状把握を行って、歯科的行動変容を促すようなアプローチを、患者に合わせて行うことが大切である。日々の生活習慣の中で長期的に継続可能な口腔衛生指導が、歯周治療成功の成否や予後にもつながる。
院内で取り組む効果的なSPTの実践
 SPT(サポーティブ・ペリオドンタルセラピー)とは、病状が安定した歯周組織を維持するための治療として扱われている。歯周基本治療では患者教育や原因除去を主体としてきたが、今後はいかに歯周組織の安定の維持や治療をしていけるかが目的となる。長期間の歯周治療を経てSPTへと移行できた患者に対しては、新たな目標設定をして病状の悪化を防ぐ対策に一緒に向き合うことが鍵となる。
 具体的なSPTの内容は、(1)医療面接、(2)資料採取と診査(歯周組織検査や口腔内写真撮影など)、(3)情報提供や口腔衛生指導、(4)バイオフィルム破壊、(5)歯石除去(必要な部位のみ)、(6)歯科医師による診察、(7)次回のリコール時期の提案、などが挙げられる。
 SPTに関わる業務内容は歯科衛生士が占める役割が多く、歯科衛生士の技術面での実力や患者マネジメント力も大きく関係してくる。患者の協力と適切なプロフェッショナルケアのバランスが、長期的で継続した管理につながるため、SPTの効果的な実践においてもチーム医療が重要となる。
離脱を防ぐリコールの継続
 歯周治療の中断やSPTの離脱は悪化の原因となるため、技術・知識・対応面のバランスについて今一度、再考したい。例えば、美容室や自分が好きな場所には、自ら進んで行くように、歯科医院のSPTへの受診も自分の意思により出向くという姿勢が理想である。これは初診の段階から全ての患者が該当するものではないため、歯周基本治療の段階から患者教育を行い、患者の意識を『歯の掃除』ではなく『歯周病の治療』へと向け、歯科医院受診に対する意識と行動変容を促すことが前提となる。
 患者の口腔に対する価値観もさまざまで、歯が痛くなる前に、入れ歯にならないように、口臭が気にならないように、美味しい食事ができるようになどがある。こうした患者一人ひとりの価値観を尊重して向き合うことで、信頼関係もさらに深まる。このような価値観のもとSPTを継続することで得られるメリットとして、歯の健康と関連する全身疾患と歯科との関連(糖尿病と歯周病との関連など)、誤嚥性肺炎や認知症の予防、口腔癌の早期発見がある。これらをさらなる付加価値として、患者と話ができるようになると、情報提供の幅が広がる。
 結果として、担当歯科衛生士として、患者の口腔を通して全身の健康やQOLの向上にも寄り添える。日々の忙しい診療の中でも、このような付加価値を期待して来院されている患者の心理にも気を配っていきたい。
 技術はトレーニング次第で結果を出しやすいが、これらは明確な答えのないことも多い。担当歯科衛生士個人の努力や配慮、そして院内での取り組みに対する熱意や向上心も患者への来院継続の魅力になる。院内ミーティングの場などで、自院のSPTについて話し合いをしてみることもお勧めする。
(8月29日、歯科定例研究会より)

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