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学術・研究

歯科2021.10.03 講演

歯科定例研究会より
知っているようであまり知らない"歯ぎしり"の世界(2021年10月3日)

徳島大学大学院医歯薬学研究部 顎機能咬合再建学分野 鈴木 善貴先生講演

睡眠時ブラキシズムの詳細
 睡眠時ブラキシズム、いわゆる睡眠中の歯ぎしりの存在は歯科医で知らない者はいないだろうが、その詳細についてどれだけ知っているであろうか? 的確な診断の下、適切な対処ができているだろうか?
 日本睡眠歯科学会では、睡眠時ブラキシズムは「顎口腔機能系に為害作用を及ぼす、睡眠中の持続的な、あるいはリズム性の咀嚼筋活動による顎運動(歯ぎしり、食いしばり等)」と定義されており、筋電図における律動性咀嚼筋活動(Rhythmic Masticatory Muscle Activity: RMMA)が基準(1時間当たり2回)よりも多い疾患の診断名である。乳歯の萌出する1歳から発現し、混合歯列期では14~20%、成人では8%で加齢とともに罹患率は減少すると報告されている。
 睡眠時ブラキシズムでは覚醒時の最大噛みしめで生じる咬合力や咀嚼筋活動を超えることがある。咀嚼運動やチェアサイドで行わせるグラインディングなど顎運動軌跡が収束している運動とは異なり、ランダムで犬歯の尖頭対尖頭を乗り越えるような運動(図1)もあることから、運動力学的に為害性がうかがえる。
 そのため、咬耗、アブフラクション、補綴装置の破損・脱離、歯周疾患の増悪、顎関節症などの症状の要因となっている。ただし、これらの症状は多因子で生じており、睡眠時ブラキシズムが単一で起こしている可能性は少ない。
発症因子
 発症因子によって、原発性(一次性)睡眠時ブラキシズムと続発性(二次性)睡眠時ブラキシズムとに分けられる(図2)。原発性睡眠時ブラキシズムは中枢の活動性の賦活(微小覚醒)によって生じる。
 続発性睡眠時ブラキシズムを引き起こす疾患としては、胃食道逆流症、不眠症、レム睡眠咬合異常症などが挙げられる。閉塞性睡眠時無呼吸も関与している可能性があるが、いまだ議論中である。これらの疾患との関連などから、逆流した胃酸に対しRMMAを行い唾液分泌促進/拡散をしたり、RMMAを行って嚥下を促し、気道の閉塞を解除したり、ストレス発散をしたりなど、睡眠時ブラキシズムの機能的意義も指摘されるようになってきている。
 これらの疾患の治療によって睡眠時ブラキシズムが改善することもあるため、睡眠時ブラキシズム患者にはスクリーニングを行うことが大切である。また、カフェイン、アルコール、ニコチンなどは歯ぎしりを増加させる修飾因子となっており、減量や睡眠前の非摂取などでコントロールすることも大切である。
診断方法
 睡眠時ブラキシズム診断のゴールドスタンダードはポリソムノグラフィであるが、一般診療では現実的ではない。アメリカ睡眠学会では、①毎日あるいは頻繁に歯ぎしり音がある、②次の症状に一つ以上当てはまる(異常な歯の咬耗、起床時の一時的な顎筋の痛み・疲労・前頭部の頭痛・顎のロック)、③別の睡眠関連疾患、医学的あるいは神経学的障害、薬物使用または化学物質使用による障害などではうまく説明できない顎筋活動がある、これら三つ全てを満たした場合に、睡眠時ブラキシズムと診断する臨床診断基準を設けている。
 一方で、携帯型筋電計を用いた診断法である睡眠時歯科筋電図検査が2020年に歯科保険収載され、睡眠時ブラキシズムの客観的評価を行いやすくなった。装着したナイトガードに付いた咬耗痕を観察することも、現在の睡眠時ブラキシズムの状態を把握する上で重要である。
治療は医科とも連携して
 上記のように的確に睡眠時ブラキシズムを診断し、その原因まで追究した後に、まずは続発性の背景疾患をスクリーニングし、医科と連携して治療に臨むことが大切である(図3)。次に、睡眠時ブラキシズムは覚醒反応(睡眠が浅くなる)時に生じやすいことから、睡眠の質を向上させるような睡眠衛生指導(修飾因子のコントロールを含める)が行われるべきである。自己催眠療法やバイオフィードバック療法を行うことも有用である場合がある。
 これらのように可及的速やかに根本治療に努めるべきであるが、それでも睡眠時ブラキシズムによる症状をコントロールできない場合にナイトガードは使用されるべきである。ナイトガードには種々の材質・形態があるが、維持や耐久性、調整・修理のしやすさから、筆者はアクリルレジン製の上顎型スタビライゼーションスプリントを推奨する。
 咬合様式も議論されているが、公益社団法人日本補綴歯科学会では、一般的な開業歯科医における初期治療を想定した場合、咬合平面に平行かつフラットな平面であることが望ましいが、ゆるやかな湾曲の陥凹があっても良いと提言している。
 すれ違い咬合により歯が歯肉に当たる場合や混合歯列などで顎骨が発育途中の場合はソフトスプリントの使用を検討してもよいと考える。ただし、ナイトガードによる治療は過剰な咬合力負担の緩衝を行う対症療法に過ぎず、歯列や咬合の変化、呼吸障害の悪化などの副作用も報告されていることから、できる限り長期使用にならないよう心掛けるべきである。
 睡眠時ブラキシズムは、無意識で行っている過剰な咬合力負荷を与える顎運動であり、そのコントロールは困難を極めるが、詳細な診査を行い、可及的速やかに根本治療を目指して、患者のQuality of Lifeの向上に努めていただけると幸いである。
(2021年10月3日、歯科定例研究会より、小見出しは編集部)

図1 睡眠時ブラキシズムに特有な犬歯尖頭対尖頭(小臼歯頬側咬頭対咬頭)を乗り越える運動(上図)とそれにより形成される可能性のある上顎犬歯尖頭(頬側咬頭)の咬耗(下図)
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図2 睡眠時ブラキシズムの原因と修飾因子
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図3 診断から治療までの流れのフロチャート
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