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学術・研究

歯科2023.04.09 講演

歯科定例研究会より
くすり・検査値がわかれば全身が見える Update 2023(上) (2023年4月9日)

医療法人明和病院 歯科口腔外科部長 末松 基生先生講演

はじめに
 近年、医療の方向性は「多職種連携」で、歯科はチーム医療の一端を担うことになり、総合診療力と医科多職種との調整力が求められている。その力量向上には共通言語である「くすり・検査値」から患者の全身状態を把握する方法を習得するのが早道である。
 ここでは「おくすり手帳」から患者の全身状態を瞬時に推知する方法について述べる。幸い医科の世界はEBM(根拠に基づく医療)による標準化が普及したため、処方薬をみれば診断プロセスが遡及できる状況になった。単に病名だけでなくその重症度まで概ね推測できる。
 まず、典型的生活習慣病患者に対する標準処方を表1に示す。厚労省高齢者医薬品適正使用検討会によると慢性疾患を抱える高齢者は平均6剤服用しており、大半は循環器系薬(降圧薬、抗血栓薬、脂質異常症治療薬)、糖尿病薬、胃薬、眠剤の組み合わせである。なお以下はあえて商品名を使用し、先発・後発に拘わらずシェアが高い薬剤名を記載している。後発品は名称末尾に一定の法則性があり、薬剤名を覚えなくても系統がすぐわかるメリットがある。
A)降圧薬
 降圧作用はCCBが強力であるがARBが市場シェアのトップを占めている。ARBとCCBは併用可能なことから合剤ザクラス、ミカムロ、アイミクスなどが販売されシェアを伸ばしている。2剤併用の抵抗例にはチアジド利尿薬の追加が推奨されている。また脳梗塞の元凶である心房細動診療のエビデンスが整ったことで心不全が絡む高血圧症にはα/β遮断薬の追加処方が増加し、ARB+CCB+α/β遮断薬の3剤処方も増加した。降圧薬の開発は滞っており市場全体が後発品になると予想されている。後発品名称の特徴としてARBは「-サルタン」、CCBは「-ジピン」、チアジド系利尿薬は「-チアジド」、α/β遮断薬は「-ロール」が末尾に付くので判別しやすい。おくすり手帳の中にこれらの降圧薬を発見した場合は、高血圧症への対応は当然であるが、腎機能障害に配慮し抗菌薬やNSAIDsの減量処方も考慮する。
B)糖尿病薬
 糖尿病は処方の標準化が最も進んでいる。第1選択メトグルコに上乗せして用いるDPP-4阻害薬が新患の7割に処方される標準治療薬である。血糖依存的に効くので低血糖になりにくくHbA1cが改善可能であることが根拠であり、合剤のエクメット・イニシンク・メトアナもある。SGLT-2阻害薬が登場し、心臓・腎臓保護作用のエビデンスが出てから処方が一気に増加し、単独で心不全治療薬として使用されることもある。通常はDPP-4阻害薬で効果が不足の時に上乗せされる。
 またかつてトップ薬剤であったアマリール(グリメピリド)は減少したが上乗せ薬としてまだ使用されており、これは特に低血糖を生じる傾向があるので覚えておく。
 重症例ではインスリン注射剤が使用され、持効型と速効型の組み合わせ処方が多い。今後は「抗肥満薬」とも呼ばれるGLP-1受容体作動薬(リベルサス)がシェアを伸ばしてくると予想されている。また新薬としてミトコンドリア機能改善薬のツイミーグが発売されたがまだ動向は不明である。この分野も新薬開発は滞っており市場は縮小すると予想されている。
 腎臓については確実に問診する。慢性腎臓病(CKD)や人工透析の有無をチェックし、抗菌薬とNSAIDsの減量処方の必要性を検討する。またHbA1c値を問診し、術後感染や根管治療・歯周治療抵抗性の可能性を説明する。
C)脂質異常症治療薬
 非常に処方数が多い薬剤であるが歯科治療に直接は関係ないので、薬剤名のみ覚えておけばよい。ほとんどがスタチン系の後発品となっているので「-スタチン」という名称である。またイコサペント酸エチル(エパデール)、ロトリガなどの脂肪酸も用いられており、これらは弱い血小板凝集抑制作用を持ち止血を延長させるが歯科臨床で困ることは滅多にない。
D)抗血栓薬
 国内では抗血小板薬は600万人、抗凝固薬は150万人に処方されている。ワーファリン以外の直接作用型抗凝固薬(DOAC)のシェアが急伸した。クロピドグレルは薬効個人差があるので、改良されたエフィエントが今後伸びる可能性がある。
1)抗血小板薬:バイアスピリンのみの場合は脳梗塞予防目的であることが多く、クロピドグレルが同時に処方されている場合は大抵Dual antiplatelet therapy(DAPT)として、狭心症・心筋梗塞に対するカテーテル治療が過去に実施され、冠動脈ステントが留置されていることを意味する。
2)抗凝固薬:主に心房細動由来の血栓による脳梗塞予防、あるいは深部静脈血栓症の治療に用いられているが、注意すべきは心臓血管外科手術後血栓予防目的投与の可能性である。特に人工弁置換術後においては感染性心内膜炎予防に留意する必要があり、術前抗菌薬投与を考慮せねばならない。
 DOACはビタミンK非依存性で効果発現が速く、半減期も短く使用しやすいことから急速に普及している。ワーファリンとは利点欠点が相反するためケースバイケースで使い分けられている。相互作用としてワーファリンはジスロマックとニューキノロン系抗菌薬、DOACはクラリスやジスロマックなどのマクロライド系抗菌薬全般。また両者とも抗真菌薬で血中濃度が上昇して出血事故につながるため併用禁忌である。またDOACは腎排泄型なので腎機能が低下した多くの高齢者では想定外に血中濃度が上昇して止血に難渋することがある。
 最新の情報として、現在血液凝固第XI(a)因子阻害薬の治験が進んでいる。第XI因子は止血に必須の因子ではないため「出血リスクを伴わず抗凝固作用」を得る薬剤として登場が待たれている。(次号に続く)

表1 最近の内科系標準処方セット
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