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学術・研究

歯科2023.04.09 講演

歯科定例研究会より
くすり・検査値がわかれば全身が見える Update 2023(下) (2023年4月9日)

医療法人明和病院 歯科口腔外科部長 末松 基生先生講演

(前号からのつづき)
E)消化器系薬
 病院から処方される胃薬で歯科診療に問題を生じるのは強力な胃酸分泌抑制薬である。タケキャブやプロトンポンプ阻害薬(PPI)群が該当する。PPIは「-プラゾール」(エソメプラゾール、ランソプラゾールなど)の名称になる。
 PPIはエステル化セフェム系抗菌薬(フロモックス・メイアクト・トミロン・バナンetc)の吸収を減少させるので要注意。ペニシリン系ではペングッドがエステル化剤なので影響を受ける。アモキシシリンやニューキノロン系は問題ない。
F)顎骨壊死を誘発する骨粗鬆症治療薬(表2、表3)
 顎骨壊死起因薬剤としてはBP製剤と抗RANKL抗体製剤、さらにはがん治療に使用される数種の分子標的薬が考えられている。BP後発品は「-ドロン酸」。
 注射薬は一般におくすり手帳に載らないが、重要なヒントとして経口カルシウム製剤であるデノタスが処方されていたら必ずランマークもしくはプラリアが使用されているので見逃さないよう注意が必要である。プラリアはランマーク、リクラストはゾメタと同成分・低濃度の薬剤である。厄介なのはプラリアが半年、リクラストが1年毎の投与になる点で、患者も忘れていることが多く、問診に注意する。
 現在のリファレンスとしては2022年版の米国口腔顎顔面外科学会ポジションペーパー、本邦の顎骨壊死ポジションペーパー2016(間もなく最新版が出る)が妥当である。
G)がん治療薬
 医科入院のDPC化に伴い、病院収益の問題から化学療法が外来治療に移行したことで、様々な固形がんの導入・補助化学療法中の患者が歯科医院に訪れるようになった。歯科治療においてがん患者に一般患者と異なる配慮が必要なのは化学療法の副作用の有無と顎骨への放射線照射歴(抜歯禁忌)のみである。
 医療面接のポイントは患者が図1のどの位置にいるかを聞き出すことである。そして化学療法を受けている場合、使用している薬剤の分類(表4)を確認する。
 歯科的対応のポイントは(1)における骨髄抑制(特に白血球・血小板減少)、(2)における創傷治癒遅延と小規模な顎骨壊死である。最大の問題である骨髄抑制に関しては直近の血液検査データがない場合は保存治療に専念し、炎症の急性化が懸念されるケースや膿瘍切開を含む観血的治療が必要な場合は早急に病院歯科に紹介するのが賢明である。
 開業医で(1)(2)による口腔粘膜炎に遭遇することはまれであるがステロイド軟膏はカンジダを伴って悪化することが多いので処方せず、アズレン系含嗽用薬で対応する。グレード2まではエピシルが有効である。
 分子標的薬の創傷治癒遅延、顎骨壊死に関しては、アバスチン(注射)、ネクサバール、スーテント(経口)による報告が多い。
おわりに
 歯科医師に対する社会の要求はかなり高度化すると予想される。1.有病者口腔管理を主体とする医院内での医科歯科連携、2.在宅口腔管理を主体とする地域包括現場での医科歯科連携、の二刀流をこなせる歯科医師の評価が高まることが予想され、これは大きな成功要因であると同時に、潮流を逃すと「蜘蛛の糸」を切られるがごとく業界全体が苦境に立たされる可能性もある。
 歯科医師は今後、患者だけでなく医科系多職種からジャッジを受ける立場に変わることを念頭に置いて質の向上に努めるべきであろう。

(4月9日、歯科定例研究会より)



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