兵庫県保険医協会

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学術・研究

歯科2023.09.17 講演

[保険診療のてびき] 
認知症患者への口腔衛生管理の留意点(2023年9月17日)

歯科衛生士 山口 恵先生講演

 80歳を超えると認知症の発症率が高まってくると言われています。定期的なメンテナンスを受けてこられた方々が認知症を発症されたり、診療の現場や受付の場面で今までとの様子の違いを感じ、もしかして認知症では?と疑うことがあるのではないでしょうか。
 口腔の問題は食事や服薬や嚥下にも影響がでますが、認知症の方はそれを言語化して伝えることが難しかったり、問題としてとらえることができず、解決策に結びつけることができずに放置されているケースも見受けられます。
 高齢者の口腔健康管理は口腔疾患や誤嚥性肺炎の予防だけでなく、栄養維持やQOLの向上に有用です。歯科医療関係者は口腔の専門家として認知症の方やその家族の生活に向き合うことが求められていると思います。認知症疾患に対する知識を学び、疾患の特徴を知ることで、患者さんの変化に早期に気づき合理的な配慮を行うことができます。
 その結果、患者さんは安心して通院ができ、治療を受けることができることによって健康な口腔を保つことができるのではないでしょうか。そして認知症に対応する社会資源を知ることは、本人だけでなく家族を含めた支援にもなり、早期の対応に繋ぐことができると思われます。
【認知症は早期診断・早期対応】
(1)認知症の特徴を学び、院内での共通認識として共有する(認知症を理解する)ことにより、患者さんの状態に早期に対応する。認知症では?(図1)
(2)患者さんの状態に応じた合理的配慮を行う。(図3)
 ・本人の様子をみながら安心できる声かけをする(接し方)(図2)
 ・スタッフみんなが気配りをするようにする(対応の工夫)
 ・治療に適した時間帯に予約をとる(対応の工夫、家族との連携)
 ・家族に付き添って来院してもらう(対応の工夫、家族との連携)
 ・治療内容や予定を家族に伝える(対応の工夫、家族との連携)
(3)地域包括支援センター(認知症相談センター)と連携する(図4)
 ・相談先である地域包括支援センター(認知症相談センター)の存在を家族に伝える
 ・一人暮らしの方で家族との連携が難しい場合は、直接地域包括支援センターと連携する
 この三つを軸に認知症の症状を理解し、受診時の本人の様子に合わせて共感し、丁寧で安心できる言葉かけで繰り返し励ますことや、訪問歯科診療の場面では生活に即した食生活や口腔ケアについてアドバイスを行うことで口腔環境を整えることができます。
 そして認知症の患者さんを意思のある一人の大人として認め、尊厳を保つことが本人の快適な生活につながるのではないでしょうか。
【認知症患者さんの一症例】
・80歳女性 要介護5
・自身での口腔ケアができなくなったので介護者への口腔ケアのアドバイスが欲しいという依頼で訪問口腔衛生管理を定期的に実施。夫による口腔ケアはしっかりできていて落ち着いた状態が継続されていた。

(写真1,2)
 2019年7月22日訪問時の口腔内の状態。数日前から口内炎ができているとの訴え。口蓋と舌に広範囲の炎症を認めた。火傷、食物の刺激、薬のため込み等を疑い、摂食状況、服薬状況を聞き取った。
 すぐに歯科医師に相談し、火傷、食物の刺激は該当しないと考えられたので薬のため込みの可能性が高いと考え、歯科医師からかかりつけ医に薬剤の形状の変更を依頼し変更してもらった(写真3)。口内炎は快癒した。

(写真4,5)
 薬剤の形状変更してから2カ月半後の訪問時に家族(夫)から「スポンジブラシに血が付く」「食事がすすまない」との訴えがあり、口腔内を観察すると口蓋と舌上に口内炎を認めた。
 改めて、摂食状況や服薬状況を詳細に聞き取った結果、別の医院(整形外科)で骨粗鬆症の薬(リカルボン錠)が月に1回処方されていることが判明。
 処方日と服薬日を確認し、口腔内に口内炎を認めた日を照らし合わせた結果、前回も含め、月1回の服薬日の直後に口腔内に異変がみられていた。
 リカルボンの注意事項に「十分量(約180mL)の水(またはぬるま湯)とともに服用し、服用後30分は横たわらないこと」とあり、副作用に十二指腸潰瘍、胃潰瘍などがあることから、粘膜への刺激が考えられる薬剤である。服用時に錠剤を飲み込めず、舌の上にため込んでいた結果と思われる。
 かかりつけ医とは別の医院の院内処方であったことから前回の薬剤の形状変更のリストから漏れていたことで、錠剤の服薬が継続されており、主な介護者が高齢の夫であったこともあり、薬をため込んでいることに気づかなかったため長時間舌上に留まっていたことが原因であった。
 認知症の患者さんや高齢者への対応は、支援している医療従事者が、食事や嚥下に関することや服薬されている薬の情報も含めて細心の注意をはらわなければならないと痛感した症例であった。

(2023年9月17日、歯科訪問診療対策研究会より)

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