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学術・研究

歯科2024.01.14 講演

[保険診療のてびき]
病診連携で診る歯性上顎洞炎(2024年1月14日)

三木市・ときわ病院 歯科口腔外科部長 内橋 康行先生講演

はじめに
 上顎臼歯の根尖は上顎洞と近接しており、根尖性歯周炎や根尖部に及ぶ重度の歯周病により上顎洞炎の原因となっている症例が少なくありません。
 上顎洞炎の主症状として、鼻閉、鼻漏、後鼻漏、咳嗽といった呼吸器症状を呈し、頭痛、頬部痛、顔面圧迫感などがあります。耳鼻科を受診された際に歯性上顎洞炎が疑われ、歯科に紹介となることもあります。歯性上顎洞炎と診断された場合、原因歯や顎骨病変の治療が必要で、その多くは抜歯等の感染源の除去が主体となります。
 しかし、再根管治療や移植・再植術など保存的治療の適否の判断など、治療計画の立案に苦慮することが多いのが現状です。
 本稿では歯性上顎洞炎に関する症例を供覧させていただくことで、歯性上顎洞炎に対する、より細やかな病診連携を実践することができる一助となれば幸いです。
【症例1】右側歯性上顎洞炎
 右側歯性上顎洞炎疑いにて耳鼻咽喉科から紹介された症例です。
 パノラマ(写真①)では右側上顎洞の不透過像の亢進は明確ではありませんが7⏌に根尖病巣が認められます。
 CT(写真②)では右側上顎洞は、炎症性軟部濃度でほぼ占拠されており、上顎洞炎を呈しています。7⏌根尖部の上顎洞底の連続性は消失しており、根尖病巣と上顎洞との交通が疑われます。歯性上顎洞炎で間違いなさそうです。
 ここで問題となるのが6⏌の根尖病巣の存在です。これも一部で上顎洞との交通が疑われます。原因歯は7⏌でしょうか。または6⏌あるいはそのいずれも原因歯でしょうか。
 感染源となっている可能性が否定できないのであれば、2歯の治療が必要となります。そうすると、この2歯の治療計画として再根管治療の適応はあるでしょうか。あるいは抜歯適応となるのでしょうか。紹介されるケースでは前医で投与された抗菌薬が奏功しており、来院時には急性症状は軽快、もしくは消退していることが多いです。そんな折に、「2本の抜歯が必要です」という説明が患者にとって厳しい決断を強いることになるのは想像に難くありません。また、7⏌は再根治可能かもしれないが、6⏌は保存困難、とご判断される先生もいらっしゃるかもしれません。
 口腔外科的な診断だけでなく、歯内療法的な観点からも総合的な診断が必要です。病診連携の重要性を痛感させられる症例です。
【症例2】抜歯後治癒不全
 6⏌の抜歯後に抜歯窩からの排膿を主訴に紹介された症例です。
 パノラマ(写真③)では右側上顎洞に不透過像の亢進がみられます。CT(写真④)では抜歯窩根尖部で上顎洞との交通が疑われ、上顎洞炎を呈しています。6⏌の根尖性歯周炎に起因する歯性上顎洞炎を発症していた際の抜歯だったのでしょう。そのために口腔-上顎洞瘻から排膿を認めたものと考えます。
 抜歯窩から上顎洞洗浄を行い抗菌薬を投与することで、20日後には上顎洞炎は著明に改善していました(写真⑤)。歯性上顎洞炎は感染源を除去し適切な抗菌薬の投与でほとんどの場合が治癒しますが、慢性の経過をたどっている上顎洞炎では治癒しないケースもあります。そのような症例では、口腔-上顎洞瘻が存在している場合はその閉鎖を確認したうえで耳鼻咽喉科へ対診となります。
【症例3】歯性上顎洞炎疑い
 難治性の右側上顎洞炎に対して歯性感染の疑いにて紹介された症例です。パノラマ(写真⑥)では6⏌、5⏌、4⏌には明らかな根尖性歯周炎はなさそうです。CT(写真⑦)でも根尖病巣は認められず、上顎歯槽骨にも明らかな異常はありません。当然、上顎洞底の連続性も保たれており歯性上顎洞炎ではないと診断されます。
 ちなみに、わずかですが上顎洞内に石灰化濃度を認めますので、真菌性上顎洞炎が示唆されるのでしょうか。いずれもしても歯性上顎洞炎は否定し、耳鼻科での治療にお任せすることになります。
おわりに
 医科-歯科連携の重要性はもちろんですが、歯性上顎洞炎に関する病院歯科-歯科診療所間での連携も、それに対する治療計画の立案により多くの選択肢を提示してくれる点においてたいへん重要です。
 病院歯科では困難と考えられる再根管治療も、適応ありと判断され保存的治療を第一選択とされる先生もいらっしゃるかもしれません。また、病院歯科では移植や再植術などの検討ができるかもしれませんし、歯科診療所において保存的な治療を選択した場合の十分なフォローアップを行うことで、予後に応じた対応を協働できるかもしれません。具体的には診療情報提供書のやりとりが基本となるのでしょうが、より気軽に詳細な症例検討ができる体制を整えておくことも重要だと考えます。

(2024年1月14日、歯科「診断力」スキルアップセミナーin小野より)

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