兵庫県保険医協会

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学術・研究

歯科2025.09.28 講演

歯科定例研究会より
地域のつながりで進める食支援のかたち
~在宅医療におけるICTを活用した多職種連携に触れながら~(2025年9月28日)

香川県・まんのう町国民健康保険造田歯科診療所 所長 木村 年秀先生講演

地域医療のスタートは、住民の協力で実現したフッ化物洗口から
 私は34年前に島根県西部の山間部に位置する人口約3,000人の町の歯科診療所に赴任しました。当時の子どもたちにはう蝕が多発していたことから役場職員や地域の保護者の方々のご協力を得て「子供の歯を守る会」を立ち上げ、保育所でのフッ化物洗口の実施に向けた活動を始めました。フッ素は毒物!など実施に反対の意見があったのですが、住民の力で山陰地方では初となる集団フッ化物洗口を実現することができ、地域医療の魅力を強く感じました。
訪問看護師から8020運動はやめてほしいとの声
 1996年に赴任した三豊総合病院では在宅医療を提供する地域医療部に配属されました。当初、地域医療部には歯科衛生士がいないため歯科訪問診療には訪問看護師に同行してもらっていました。口腔ケアという言葉すら一般的でなかった時代、多くの歯を残したまま寝たきりになった高齢者の口腔内はほとんど清掃されておらず、う蝕や歯周病により口腔崩壊状態となっていました。このような様子を見た訪問看護師は「8020運動はやめてほしい!」と訴えました。私はそれまで歯を残すことだけに注力し、要介護状態になった時のことまで考えが及ばなかったことを猛反省したのです。
 あれから30年たった今でも歯科治療や口腔ケアが途切れることなく最期まで継続できるシームレスな仕組みづくりが課題となっています。
多職種間での地域ネットワークの形成
 現在勤めている歯科診療所があるまんのう町琴南地区は県内一の過疎地域です。赴任した10年前、この地域で在宅医療を推進していくにあたって多職種間での情報共有の場がないことが課題であり、医療・介護に携わる職種間での地域ネットワークづくりを始めないといけないと感じました。そして担当課長や内科医との協議を経て、「在宅医療・介護の連絡会」が設置されました。毎月1回、専門職に加え、民生委員、行政、議会議員、警察、救急隊などが集まって困難事例を検討しています。そのうち町外から訪問リハ、訪問看護も参加するようになるなど、広域的な連携体制もできてきました。多職種連携による看取り事例は有料サイトではありますが、朝日新聞デジタル医療サイト・アピタル「それぞれの最終楽章」2023年、1/22,1/29,2/12,2/19,2/26の記事をご参照ください。
 https://www.asahi.com/rensai/list.html?id=390(下二次元コード左)
ICTを活用した在宅医療・介護の連携体制づくり
 医療・介護は地域の医療機関、介護事業所などが役割を分担しながら進められています。発症後、急性期病院から回復期リハビリテーション病院を経て、生活期、在宅へと流れてきます。この流れの中での連携を垂直的連携と呼び、在宅にかかわる医療機関や介護事業所間での連携を水平的連携と呼びます(図1)。この縦横の連携にはICTが欠かせません。
 垂直的連携における情報共有では都道府県や医療圏ごとに情報共有システムが運営されることが増加しています。香川県では2003年よりK-MIX R(かがわ医療情報ネットワーク)という全国初の全県的なシステムが運用開始されました(下二次元コード中央)。また、在宅医療介護の情報共有にはMCS(メディカルケアステーション)というツールを医師会や自治体で使用されることが増えています(下二次元コード右)。マイナ保険証でも病名や処方薬剤、特定健診結果などが閲覧できますが、上記のようなシステムを活用すればさらに詳細な医療情報が共有できるだけではなく、双方向の連携体制が進みます。しかしながら基本は多職種間の信頼関係を構築してからツールをうまく活用することではないでしょうか。
歯が悪いのに足がなくて診療所に行けない!
 後期高齢者を対象とした「食べる楽しみ」に関するアンケート調査を民生委員会にお願いしたところ、民生委員長が歯科診療所に来られ、「歯が悪いのに足がなくて診療所に行けん人が多いみたいやで!」と教えていただきました。移動手段がなく、歯医者に行けない、買い物に行けない、友達と会えないなど過疎地域特有の問題がフレイルの「根本的な原因」なのかもしれないと思うようになりました。口腔機能低下のみの対策を講じても根本的な解決にはならないことが調査結果からも明らかになりました(図2)。
究極の介護予防対策、買い物ツアー
 過疎地では移動販売を見かけますが、「自分で選んで買いたい」というのが本音でしょう。そこで、地元スーパーと提携し「買い物ツアー」を企画しました。買い物では医療専門職や学生ボランティアなどが付き添い、一緒に食材を選びます。買い物後は、楽しく会食します。参加者からは「入れ歯の調子が悪い」などの話題が出ることも多く、その場で歯科の予約をする方もいます。買い物ツアーは、喋る、歩く、選ぶ、食べる、笑うなど介護予防のすべての要素を含んだ究極のフレイル対策なのです。
がん化学放射線療法などに伴う口腔粘膜炎への対応
 口腔粘膜炎のため痛くて食事が進まないときのアズノール+キシロカイン溶液での含嗽溶液を使用した事例をご紹介させていただきましたが、講演後に詳細な処方内容に関するご質問がありました。図3に「造血細胞移植スタッフへの口腔ケアガイダンス2022年改訂版(岡山大学病院)」に掲載されていた処方内容を掲載していますので、ご参考にしてください。

(2025年9月28日、歯科定例研究会より)

朝日新聞連載
「それぞれの最終楽章」

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かがわ医療情報
ネットワーク(K-MIX R)

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メディカルケア
ステーション(MCS)

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図1 山間僻地におけるICTを活用した在宅医療介護の連携体制の提案
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図2
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図3 痛みを伴う口腔粘膜炎で食事が進まない場合の対応
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