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兵庫保険医新聞

2011年1月25日(1644号) ピックアップニュース

[新春特別インタビュー]サッカーJリーグ・ヴィッセル神戸監督 和田昌裕さん 奇跡のJ1残留劇

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握手を交わす和田監督(左)と田中理事。
西区・いぶきの森球技場にて

【わだ まさひろ】現役時代、93年のJリーグ開幕対浦和レッズ戦でガンバ大阪のチーム初得点。95年ヴィッセル神戸(当時ジャパンフットボールリーグ所属)移籍。97年現役引退。05年ヘッドコーチ、06年強化部長、07年チーム統括本部長。09年6月に監督代行として5試合を指揮した後、三浦俊也監督へ交代しヘッドコーチへ。昨年9月12日に三浦監督の後を継ぎ監督就任。

 昨シーズン、J2への降格が危ぶまれるも劇的な残留を果たしたヴィッセル神戸。ヴィッセルの熱烈なサポーターでもある田中孝明理事・神戸支部長がチームの練習場である「いぶきの森球技場」(西区)を訪ね、シーズン途中から指揮を執った和田昌裕監督に残留劇の舞台裏や今季の意気込みを聞いた。

 田中 新年明けましておめでとうございます。
 和田 おめでとうございます。いつも応援ありがとうございます。
 田中 「奇跡」と言っていい残留劇からまだ興奮覚めやらぬ感じですが、昨シーズンを振り返っていかがですか。
 和田 コーチとして出発し、シーズン初戦の京都戦こそ勝利しましたが、そのあとは負けが続きました。神戸の伝統である堅い守備からのカウンター攻撃をめざしましたが、肝心の守備がしっかりせず失点を重ね、ワールドカップによるシーズン中断までの12試合でわずか3勝。当初は一桁順位を目標に、中断までに5,6勝できればと考えていたんですが…。

シーズン中の監督就任

 田中 その後も不振が続き、J2降格が現実味を帯び出しました。そして22節の京都戦で三浦監督が解任、23節から和田さんが指揮をとられました。しばらくは結果が出ず苦しい戦いが続きましたね。
 和田 初めは三浦俊也監督の「組織重視」のサッカースタイルをそれほど変えようとはしませんでしたが、10歳代の小川慶治朗(ユースとの二重登録)や森岡亮太など若手選手を起用し、チームに活気を与えようと試みました。しかし監督になってから2引き分け・2敗の時点で、自分のしたいサッカーができず納得できなくて、このままでは悔いが残るなと。そんなとき、コーチの武田さんが「和田さん、もっとやりたいことやったらどう?」と、背中を押してくれたんです。
 田中 自分の色をどんどん出していこうと。
 和田 一番変えたのはサイドのポポをフォワードにコンバートし、控えだった田中英雄を起用したこと。守備もゾーンからマンツーマンに変えました。そうして挑んだ27節の名古屋戦、試合は1-2で敗れましたが後半はすごくいいサッカーができて、ようやくやりたいイメージが少し見えたんです。
 田中 私もスタジアムで名古屋戦を観戦しました。戦術のことは詳しくはわかりませんが、確かに以前の試合より名古屋戦は各段に面白かったです。

意見ぶつけた昼食会

 和田 28節のガンバ戦の前の週あたりから選手たちも「このままじゃあかん」と、ミーティングを兼ねた昼食会を毎週開き、思っていることをぶつけあうようになりました。そこから選手間にも一体感が生まれ降格の危機感を共有できるようになり、チームが非常にいい雰囲気になっていったんです。
 田中 その後は、11試合ぶりの白星となったガンバ戦から最終34節まで3勝3分けの負けなしでした。
 和田 ただ、32節の大宮戦を引き分けて、残り2試合は負ければ即降格という崖っぷちに追いつめられました。残留争いをしている他チームが負けてくれたこともあって、最終試合でなんとか降格を免れました。本当にホッとしました。うれしかったです。

「絶対あきらめるな」

 田中 先日のテレビで、残留が決まった後のロッカールームで和田監督が選手たちに「人生にはもっとつらいことがあるけど、最後まであきらめたらだめだ」と激励する場面があり、とても印象深い言葉でした。
 和田 監督就任以来、選手たちにはずっと「あきらめた時点でJ1から落ちるぞ」と言い続けてきたんです。前を向き続けないとだめだと。
 田中 和田監督は非常にポジティブですよね。
 和田 そう、どんなときも前向きです(笑)。ネガティブだったら、あの状況で小川や森岡など未知数の人間を起用していなかったでしょうね。無限の可能性を持つ若手を使うことで来季につながると信じていました。今振り返っても起用し続けてよかったと思います。
 田中 監督と選手たちの関係も良好のようです。
 和田 監督によっては選手と距離をとる人もいれば、できるだけ近い位置にいようとする人もいます。私は、毎日全ての選手に何かしら声をかけるようにしています。今どんなことを考えているのか、けがの状態はどうかなど、コミュニケーションをはかっています。

今シーズンの抱負は

 田中 今シーズンはスタートから和田監督がチームの指揮を執ります。
 和田 昨シーズン終盤のサッカーが継続できればと思っていますが、今までの「堅守速攻」スタイルは武器として持ちつつ、ベースは「ボールを支配するサッカー」に変えていきたいと考えています。
 田中 そのためには今のメンバーだけでなく補強ということになるんでしょうけど、わかっている範囲で教えていただければ…。
 和田 やはり予算の関係が一番大きいですが、大きな補強にはならないと思います。2人か、多くて3人くらいでしょうか。
 田中 今季の目標は。
 和田 まずは「残留争いをしない」(笑)。できれば「一桁順位」ですかね。
 田中 残留争いも応援している側としては面白い面もありますが、毎年はしんどいですよねぇ(笑)。
 和田 いや、当事者としてはたまりませんよ(笑)。選手たちも懲りてますし。

1・17への思い

 田中 今年のチームの初練習は1月17日、阪神・淡路大震災の日です。
 和田 94年にチームが発足し、翌年1月17日の初練習の日に大震災が起こりました。神戸のチームとして、やはり忘れてはいけない日で、こだわりを持っていきたいと思っています。
 田中 いつも勝利の後にサポーターの人たちと一緒にサポーターの応援歌「神戸讃歌」を歌いますが、監督もホームでの最終試合となった33節の清水戦で一緒に歌われていました。
 和田 震災復興とチームの奮闘を重ね合わせながらサポーターが歌い続けてくれていますが、昨シーズンはチーム降格の危機の中を選手・サポーターが共に歩み、乗り越えていきましたので、歌っているときの一体感が違いましたね。
 田中 今シーズンも、1回でも多く神戸讃歌を選手たちと歌えるよう願っています。ぜひとも頑張ってください。応援しています。
 和田 ありがとうございます。全力を尽くします。

「神戸讃歌」

俺たちのこの街に
お前が生まれたあの日
どんなことがあっても忘れはしない

共に傷つき
共に立ち上がり
これからもずっと
歩んでゆこう

美しき港町
俺たちは守りたい
命ある限り
神戸を愛したい

インタビューその後

 16日にチーム新体制が発表され、羽田憲司(DF)、林佳祐(同)、ホジェリーニョ(MF)各選手らが新加入。神戸ユースから小川慶治朗選手(FW)が昇格し、広田隆治選手(MF)はユースとの二重登録で加入となりました。
 発表会では、和田監督も「降格の危機感を常に持ちながら一桁順位を目指す」「皆さんが見ていて楽しく感動できるようなチーム、戦い方をしたい」とあらためて決意表明されました。
 シーズン開幕試合は3月6日(日)、ホームズスタジアム神戸にて浦和レッズとの対戦です。ぜひ応援に行きましょう!
(1月20日、田中孝明)

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