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兵庫保険医新聞

2012年1月05日(1675号) ピックアップニュース

会員訪問 山本 篤先生(三木市・山本医院) 三味の音色は時代を超えて

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真剣な表情で三味線を弾き聴かせてくださった山本篤先生

【やまもと あつし】1968年生まれ。93年川崎医科大学卒業。同年神戸大学第1内科入局、循環器内科を学ぶ。99年鐘紡記念病院(現・神戸百年記念病院)にて心療内科。02年麻生飯塚病院にて漢方内科。05年はやしやまクリニック「希望の家」ホスピス院長。08年山本医院院長。心身医学を考慮した内科外来に加え、在宅医療にも積極的に取り組み、ホスピスケアを実践している。

♪何の因果で貝殻漕ぎなろうた カワイヤノーカワイヤノ 色は黒うなる身はやせる ヤサホーエヤホーエヤエー ヨイヤサノサッサ(鳥取県民謡「貝殻節」)−−時代を超えて謡い継がれる日本民謡を三味線で弾く三木市の山本篤先生に、新聞部の岡部桂一郎先生がインタビューした。

 インタビュー前、山本篤先生と師匠の藤本忠栄久(たえひさ)こと平井由紀子さんの連弾きで「黒田節」「奴(やっこ)さん」「八木節」の3曲を披露していただきました。
響きと共鳴の楽器、三味線

岡部 いやぁ、生で聴く三味線の音色はまた格別ですねぇ。先生の声も素敵でした。
山本 ありがとうございます。一緒に弾いていただいた平井さんは私の師匠で、当院で事務をされていたときに手ほどきを受けたのが三味線を始めたきっかけです。何か音楽をしたいとは思っていましたが、私は五線譜が読めないもので。三味線は割にすっと弾けて、「あっ、これならやれそうだ」と感じたんです。始めてから3年ほどになります。
岡部 すごくお上手でしたよ。私の母も三味線をしていて、戦時下であまり弾く機会がなかったようですが、少し記憶に残っています。今日は生演奏に聴き入らせていただきましたが、響きが独特ですよね。
山本 そうなんです。まさに三味線は響きの楽器。一番上の太い弦が棹に少しだけ接触している「さわり」という構造が、特有の響きをつくり出しています。また、弦同士も共鳴しあい、弾いてない弦もたくさん鳴ります。これが三味線のおもしろいところなんです。
岡部 東北の津軽三味線や沖縄の三線(サンシン)など、形も曲も地域によって様々ですね。
山本 もともとはインドの楽器シタールが起源と言われていて、インドから琉球に渡り、日本を北上して伝わっていったようです。北上するほどシャキッとした曲が多く、南下するほどポロンポロンとした曲が多い傾向があります。京都には、お座敷で踊りながら弾く粋な曲が多いですね。
岡部 2番目に弾いていただいた「奴さん」ですね。雰囲気があって、なんだか一杯やりたくなりましたよ(笑)。

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聞き手(高砂市・協会監事)
岡部桂一郎先生
日本のソウルミュージック

岡部 私はCDで津軽三味線をよく聞きますが、勇壮ですよね。中でも盲目の津軽三味線名手である高橋竹山(ちくざん)さんは最高です。彼の人生を歌った北島三郎さんの「風雪ながれ旅」は私の大好きな演歌です。
山本 民謡は一音一音じっくり弾く感じですが、津軽三味線ではとにかく早く弾きます。東北地方は娯楽が少ない分、音楽に対してものすごく厳しく、つまらなければ誰も聞いてくれないようです。東北の人は耳が肥えているんでしょう。
岡部 凝りだしたら、全国を巡って土地ごとの民謡を聞きたくなりませんか。
山本 なりますね。現地に行くと、民謡の調子と土地柄の感じが妙にあっていて、納得できたりします。各地それぞれの民謡があると同時に、例えば「伊勢音頭」のように、全国にたくさんのバリエーションが存在するものもあるんです。お伊勢参りに来た人たちが自分の地元に持ち帰っていったんです。三味線をしていると歴史が見えてきて、それも楽しいんですよ。
岡部 私は長崎出身なんですが、「長崎ぶらぶら節」という民謡があります。遊郭をぶらぶらして冷やかすという内容です。地方ごとに、本当にいろいろな民謡がありますね。
山本 そうですよね。遊郭で芸者さんが弾いていた楽しいものもあれば、最初に弾きました黒田節のような戦意高揚ものもあります。
岡部 西南戦争最大の激戦地を謡った「田原坂(たばるざか)」も有名です。♪雨ぇは〜降るぅ降る〜陣羽(じんば)は〜濡れぇる〜越すぅにぃ越さぁれぇぬ〜田原坂〜。歌詞がいいですよね。
山本 私が初めて弾き謡いできるようになった民謡で大好きな「貝殻節」など、厳しい労働を謡ったものもあります。労働歌は苦役を皆で楽しむことの原点だと思います。現代では、みんなで歌いながら仕事をするということはほとんどないですからね。
岡部 黙々と仕事をするよりも、仲間同士で歌いながらの方が楽しかったと思います。ところで、先生はお仕事では心療内科や漢方もされているようですね。
山本 もともと循環器内科ですが、鐘紡記念病院(現神戸百年記念病院)で心療内科を、麻生飯塚病院で漢方治療を学びました。
岡部 飯塚というと、かつての炭坑地帯ですか。
山本 ええ。そこで伝統医学を学びました。三味線も伝統文化ですし、伝統的なものが好きなんでしょうね。三味線は日本のソウル・ミュージックだと私は思っています。何とか大切に守っていきたい。弾く人が減ってきていることは残念です。弾かなくなると文化が廃れ、胴の皮を張る職人さんも少なくなっていきます。
岡部 昨年の東日本大震災で東北の人たちは大変ですが、津軽三味線を弾いて東北の文化的魅力をおおいにアピールしてもらいたいですね。伝統の力をぜひ発揮してもらいたい。

忙しい診療の合間にお勧め

岡部 それにしても、毎日の診療で忙しいと三味線に時間を割くことは難しくありませんか。
山本 確かに、時間がなくて稽古の時しか練習できないのは悩みではありますが、忙しい時こそ三味線の魅力をより感じるんです。診療に没頭していると、だんだんしんどくなってきますが、そんなときに三味線を弾きながら大きな声で謡うと、良い気分転換になりますよ。普段忙しくされている人ほど、何か音楽をしてほしいですね。
岡部 診療では主に左脳を使いますが、音楽は感じるものですから右脳を刺激しますね。私は以前から尺八を習いたかったのですが、年齢的に、もう無理でしょうな。
山本 そんなことないですよ。今通っている三味線教室では私が最年少で、定年されてから始める人が多いですよ。邦楽は全部つながっているんです。三味線をやっていると太鼓や笛、尺八などもバリエーションに入ってきます。私も次は太鼓をやりたいと思っています。
岡部 和太鼓もいいですね。やっぱり尺八を始めてみようかな(笑)。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

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