兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2012年2月25日(1679号) ピックアップニュース

県立こども病院 なぜポーアイ移転(3) 神戸市医師会 本庄昭会長インタビュー ポーアイ移転はリスク管理に反する

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本庄 昭神戸市医師会長

 兵庫県が進める県立こども病院のポートアイランドⅡ期地への移転計画。協会は2月9日、神戸市医師会館に神戸市医師会長の本庄昭先生をたずね、リスク管理などの問題点をインタビューした。聞き手は吉岡巌副理事長。

 吉岡巌副理事長(以下、吉岡) 協会では会員に対して、県立こども病院の移転を知らせるとともに、賛否を問うアンケートを行い、結果は「反対」が「賛成」の倍に達しました。昨年8月に発表された神戸市医師会の県立こども病院移転問題に関する見解を読ませていただきましたが、全く同じ立場です。今回のインタビューを通じて、神戸市医師会の見解を多くの会員に知ってもらいたいと思います。
 兵庫県は今年度中に移転計画案を発表すると言っていますが、この計画について分かっていることを教えてください。
移転計画の変更は可能

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聞き手 吉岡 巌副理事長
本庄昭会長(以下、本庄) 今回のこども病院の移転計画について、県は国の地域医療再生基金を利用するとしています。実際に、県立こども病院を現地で全面的に改築しても、新築移転を行っても、220億円から230億円かかると言われています。2月17日に発表される設計監理費等の予算案から、今後県立こども病院がどうなるのかが見えてきます。
 県は、地域医療再生計画を国に提出し、その中でポートアイランドへの移転新築を盛り込んでいます。しかし、この地域医療再生計画は、あくまで計画であり、移転先変更は厚労省との協議のうえで可能であると思います。例えば、国に提出した計画書ではポートアイランドに移転させると書いていましたが、やはり「現地改修する」とか「北区や西区に移転させる」とか「加古川に移転させる」とかという具合に。
 しかも、国はいったん、60億円を兵庫県に交付すると決めており、たとえ移転先を変更したとしても、そう簡単に60億円を削ることはできないはずです。ただ、計画を根本的に変える場合や、県と国の協議が決裂した場合は、確かに60億円は交付されません。しかし、県はこれまで、建物の老朽化を改善する、周産期医療センターとしての機能を充実させる、小児救急を充実させると言っています。今さら、国が60億円を交付しないからといって、改修も移転新築もなしということにはできません。
 2月予算では基本設計が、来年度予算では実施設計が明らかになりますが、神戸市医師会としては、県立こども病院の建て替えには賛成していますが、ポートアイランドへの移転には反対しています。
吉岡 確かに改修は必要です。特に、本館病棟などは非常に古い。しかし、救急医療センターの施設は、2007年に建設されたばかりで、設備も他の医療機関と比べて劣っていないと思います。救急医療センターが新築されたときには、ポートアイランド移転など思いもつきませんでした。
 神戸市医師会がパブリックコメントに出した意見について、改めて強調したい点を教えてください。
病院は分散しリスク管理を

本庄 やはり、リスク管理です。もちろん、ポートアイランドへの移転では津波など災害リスクも高くなりますが、中央市民病院と県立こども病院の周産期医療・小児医療・三次小児救急医療という同じ機能を持つ病院を隣接させることは、リスク管理上大きな問題です。同様の機能を持つ病院であれば分散配置するのがリスク管理の基本です。この点を一番強調したいです。
 また、県民、市民の目線から見ると、南北にも広がる兵庫県で、南の端に子どもを守る砦を持って行くことに、とても県民が納得できるとは思えません。特に救急医療にとって動線が長くなるということは致命的な問題です。
吉岡 災害時のリスク管理という観点から、やはり海に近いとリスクは高い。東日本大震災でも、津波被害で沿岸部の拠点病院が軒並み機能せず、高台に位置していた日赤病院が非常に役立ったと言われています。現在の位置にあれば本来助かったはずの命が、ポートアイランドへ移転したために失われるようではいけません。阪神・淡路大震災の時も、ポートアイランドにあった神戸市立中央市民病院は十分に機能を発揮できませんでした。

ポーアイ北側は浸水の恐れ

本庄 神戸市医師会は、政令市の医師会の中で、最も危機管理意識の高い医師会と自負しています。神戸市医師会では、昨年5月19日より、歯科医師会や薬剤師会、看護協会、行政などとともに、東海・東南海地震により想定外津波が発生した場合の神戸市の保健・医療・福祉対策を協議しており、本年度中に(案)をまとめたいと考えています。神戸市も、現在の防災計画で想定している津波の高さを、2倍ないし2.2倍を想定し防災対策を立案中です。
 東日本大震災では、宮古では最大6メートル以上の津波が押し寄せ、海抜40.5メートルの地点まで津波が内陸部にさかのぼりました。神戸市はポートアイランドの護岸壁を高くし、ポートアイランドには直接津波被害は及ばないと言っていますが、神戸港に回り込んだ津波がポートアイランド北側を中心にして襲う可能性は高く、非常にハイリスクです。
 神戸市立中央市民病院でも、1階を救急外来、2階を電源室、3階を外来にしているといいますが、それでも危険なことに変わりはありません。また、ポートアイランドには先端医療センターを中心に、高度専門病院群、医療研究施設があるので、地震や津波に代表される災害時のバイオハザードの問題もあります。
吉岡 協会の実施した会員アンケートで、移転に「賛成」と答えた会員の中には、県立こども病院と中央市民病院を隣接させることで、より充実した医療ができるようになるのではないかという意見もありました。合併症を抱えている母親については、こども病院での受け入れが困難で、「大学病院に行ってほしい」と言われることもあります。また、「産後出血が多い患者さんも現在のこども病院には放射線科の先生が少なく、塞栓療法に対応できないため、中央市民病院に隣接させた方がよいのではないか」という意見もあります。県立こども病院のレベルをさらに上げるには、一般科の医師と交流しなければならないのではないかとの意見も根強くあります。

機能アップへ他の選択肢を

本庄 合併症が多いお母さんに、安心して子どもを産んでいただき、育てていただくためには、確かに小児科や産科だけでは対処できません。また、障害を持つ新生児もこども病院だけではフォローできません。県立こども病院がよりレベルをあげていくためには、大人も見ることのできる、キャリーオーバーに対応する医師が必要です。そのためには、それなりの病院が近くにある必要はあります。ただ、それを即、ポートアイランドに移転して、中央市民病院に結びつけることはありません。例えば、現在でも関係が強い神戸大学の分院を県立子ども病院の近隣につくることや現在の神戸大学に隣接させるという選択肢もあるはずです。
吉岡 確かに、大倉山など神戸大学の近くに持って行くという考えもありますね。
本庄 実際、現在の県立こども病院の周りには土地はたくさんあります。住民の目線に立てばやはり、ここにそれなりの病院をもってくることで何とかならないかなと思っています。病院関係者自身が、以前は「現地建て替えを考えている。医師会も支援してほしい」と言っておられたのに、急にポートアイランド移転の話が浮上してきました。神戸市行政と兵庫県行政のやりとりの中で出てきた話で、どうも患者さん・県民の目線に立っていないのではないかと感じます。
吉岡 現在、神戸市は医療産業都市構想を推進していますが、それとの関連はどう見ておられますか。

西北播磨地域の需要増へ対応を

本庄 大きな視点で見ると関連があるかもしれません。しかし、当初の医療産業都市構想では、先端医療センターを中心に、移植センター、脳卒中センター、循環器病センター、がんセンターなどの高度専門病院群を配置するとされており、県立こども病院のポートアイランド移転は、降ってわいた話で直接リンクするとは考えられません。
 それよりも、神戸市の思惑としては、ポートアイランドの土地が売れないので、せめて県の施設を誘致しようということではないでしょうか。神戸市はポートアイランドに医療関連企業を誘致しており、現在200社が集まっているといっていますが、実際には、過去において撤退している企業も多くあります。
 先生は明石市で産科をされているそうですが、県立こども病院を3次救急として利用する患者さんは、数では神戸市が一番多いですが、増えているのは、西播磨と北播磨地域です。こうしたことからも、県立こども病院を東に移転させるのはどうかと思います。県はこうした流れが見えていないのではないでしょうか。
吉岡 まったくその通りです。求められている地域医療の課題に逆行するものですね。協会もポートアイランド移転には一緒に反対していきたいと思います。本日はありがとうございました。

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