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兵庫保険医新聞

2012年8月05日(1694号) ピックアップニュース

新聞部インタビュー 長田区・江原内科クリニック 江原 重幸先生 盆栽に刻まれる年月が魅力

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【えばら しげゆき】1968年生まれ。1994年兵庫医科大学卒業、同年神戸大学第二内科入局。糖尿病・代謝・消化器を学ぶ。西脇市民病院、日本生命病院、秋田赤十字病院、明石仁十病院勤務等を経て、現在に至る。地元に密着した医療に積極的に取り組む。

 長田区の江原重幸先生は43歳の働き盛り。協会神戸支部では、住民との語り合う会などの講師を積極的に引き受け、活躍されている。そんな先生の趣味が盆栽だと聞き、自身も盆栽を始めようと考えている新聞部の永本浩理事がインタビューした。

病気をきっかけに草花に惹かれた
 永本 (持参された盆栽[右下写真]を見て)すばらしい盆栽ですね。幹のうねりがとても迫力がある。
 江原 ありがとうございます。競技盆栽で一番大きいのが、毎年2月に行われる国風盆栽展(注)なのですが、これは今年入賞したものです。私は今9年連続で入賞していて、10年続くと表彰されるので、それをめざしてやっています。
 永本 すごい。先生はもうプロですね。若い方が盆栽を趣味にされているというのは珍しいですが、きっかけはなんだったんですか。
 江原 元から好きでしたが、本格的に始めたのは30代のはじめに大病をしたときですね。その頃はがむしゃらで、人生が右肩上がりだと信じ込んでいましたが、病気で落ち込んでしまって。そんなとき、何も言わず寒い冬を越えて、瑞々しい新芽をつける草花に惹かれました。
 それに、医者は患者さんのお話をしっかり聞いて、説明しなければなりません。私は話すことは好きなのですが、それが続いて疲れてしまったときに、ぼーっとして緑に向かう時間は癒しのひとときです。結構、医者に向いている趣味だと思いますよ。
 永本 緑を近くに置いておくと、とてもさわやかな気分になりますね。それに、雪の中でも緑色の松は、力強くて心打たれるものがあります。

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聞き手 永本 浩 協会理事

1200年を生きる植物の強さ
 永本 盆栽というのは、普通どのくらい生きるものなんでしょう。
 江原 今日持ってきた盆栽は明治時代に山から採ってきて盆栽にしたもので、大正時代の写真も残っています。こういった松は栄養の少ない、崖のようなところに生えていて、小さいまま200年でも300年でも生きます。年輪がとても細かく入っているでしょう。日本最長では、樹齢1200年の松があります。
 永本 1200年! 想像がつかないなあ。
 江原 栄養が少ないのが逆にいいんですね。この盆栽も、鉢に入れてこまめに手入れをしているから長生きしますが、栄養の多い普通の地面に生えていると、10年ほどで大木になって、50年もすると枯れてしまいます。
 永本 動物も、低カロリーのほうが長生きするといいますね。
 江原 よく似ていますよね。すぐに大きくして年輪を人工的に彫刻している盆栽もあるんですが、そういうものは腐るときあっという間です。年月を経たものは、年輪の間に松脂(まつやに)がしみこんでプラスチックのように丈夫になるから、この盆栽のように多少幹が削られていても平気だし、なかなか腐りません。
 永本 動物はこうはいきませんね。植物の強さを感じます。
思いがけない美しさ 育てていく楽しみ

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江原先生の作品 右:インタビュー当日にご持参いただいた、2012年入選の真柏しんぱく
左:2009年国風賞受賞の梅。(いずれも写真集『国風盆栽展』より)

 永本 私も父の遺した盆栽をやってみたいと思っているんですが、手入れはどうされているんですか。
 江原 基本は、どの枝にも同じくらいの葉がつくように揃えていきます。密なところは間引いて粗に、粗なところは密になるように成長させて、少しずつ大きくしていくんです。毎年の積み重ねで思いもかけないほど美しい姿を見せてくれることもあって、育てる楽しさは格別ですね。
 でも大きくなりすぎると盆栽でなくなってしまうので、小さく保つために根を切ります。小さく保つ方が難しいんですよ。
 永本 小さい鉢に入れているからといって小さいままではないんですね。先生はこういう手入れを、どこで習われたんですか。
 江原 盆栽屋さんです。師匠のところに木を持ち込んで、盆栽好きが集まってどんな風に育てるか、喧々諤々の議論をしています。
 展示会に出すような作品は、信頼する職人さんと相談しますね。どこを伸ばすか、どこを落とすか、お酒を飲みながら一晩中議論をしています。
 永本 私も参加しようかなあ。大学では教えてくれませんからね。
 江原 それなら、信頼できる盆栽屋さんをご紹介しますよ。
検査できないのがくやしい
 永本 先生のようにたくさんの盆栽の面倒をみていらっしゃると、旅行には行けないですね。
 江原 冬に1泊くらいなら行けますし、盆栽屋さんに預ければ大丈夫ですよ。冬は葉からの蒸散が起こらないので、水をやりすぎると逆に根腐れを起こしてしまいます。
 永本 水やりは難しいですね。うちに錦松(にしきまつ)があったんですが、枯らしてしまいました。
 江原 それはもったいない。私も大事な赤松を枯らしてしまったことがありますが、そのときは二週間くらい立ち直れませんでした。何百年も生きていたものが枯れてしまうというのは悲しいですね。
 永本 もう子どもと同じですね。
 江原 そうなんです。その木が病気になったとき、血液検査ができないのが一番もどかしかった。こいつの樹液をとって、CRPなんかを調べられへんのか、と悔しい思いをしましたよ。動物なら最近の獣医さんは、うちよりも検査設備が充実してるのに(笑)
 永本 声を出さない植物の病気は触診と視診しかできないんですね。先生、内科のドクターなら、生化学検査を開発してはどうですか(笑)
 江原 開発できたら最高ですね(笑)
盆栽の世界へ広がる間口
 永本 最近は盆栽も敷居が低くなったようですね。松以外の、花や実をつけるものが増えてきたように感じます。
 江原 国風盆栽展の入選作にも梅やモミジなど、雑木は増えています。私もはじめは縁日で買ったカエデの盆栽でしたし、気軽に始められるのはいいことだと思います。
 最近ははやりのガーデニングから盆栽を始められる方もいらっしゃいますよ。ガーデニングはきれいな花を咲かせますよね。同じようにすれば次の年も同じように同じ花が咲く。ただ、蓄積がないんです。盆栽は木に年月が表れる。そういったものを求めて盆栽を始める人が増えればうれしいですね。
 永本 ありがとうございました。教えていただいた盆栽屋さんに、早速連絡してみようと思います。

(注)国風盆栽展...日本盆栽協会が主催する、日本で最も歴史があり、格式の高い展示会。応募された盆栽は審査を経て、入選したものが上野恩賜公園の東京都美術館に展示される。
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