兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2013年2月25日(1711号) ピックアップニュース

主張 生活保護費 850億削減 小泉内閣の愚、繰り返すのか

 安倍政権は、生活保護のうち生活費に当たる生活扶助費について、3年かけて850億円(7.3%)削減する方針を決めた。生活扶助だけでなく、受給者が無料で医療を受けられる医療扶助についても、将来的に一部負担を求めようとしているようだ。
厚労省部会は「基準額低すぎる」
 現在の生活扶助費基準額については、厚労省社会保障審議会の生活保護基準部会で「低すぎるため引き上げが必要」との検証結果が報告されている。
 政府は「2008〜11年の物価下落分を反映させた」と大幅削減の理由を述べているが、根拠のない政治判断であるのは明白だ。
 「デフレ脱却」「円高是正」「活力ある経済成長」などは評価できる。しかし、安倍首相からは昨年末の総選挙でも今年の所信表明演説でも、「経世済民(経済)」の"済民"という枠組みがほとんど語られなかった。ヨーロッパの先進国に比して貧相な医療・福祉政策を改善する意思は感じられない。その上での生保改悪では、毎年2200億円ずつ社会保障費を削った小泉路線の再来と言える。
「働く貧困層」の改善必要
 生活扶助の削減は、非受給世帯の貧困層にとってさらに制度が利用しづらいものになり、最低賃金改善への足かせになるなど、国民全体への影響は計り知れない。
 そもそも日本では、生活保護水準以下の所得の世帯で生保を利用しているのは15%程度で、いわゆる捕捉率の低さが問題になっている。仮に全員が受給すると約846万世帯が対象となるが、政府は姑息にも多数の国民を切り捨てていると言える。また、貯蓄がない家庭は30%を越し、約1600万世帯になる。この人々も当事者、または生保予備軍と言えよう。今回の引き下げは、将来生活保護で守られるべき人も足切りしてしまう。
 生保を利用できず、厳しい暮らしを続けながら満足に医療も受けられない--。国民の命と健康を守る私たち医療者としても、今回の生保改悪の流れを看過せず、表面化しにくい働く貧困層などの社会的弱者に目を向け、共に声を発していくときではないか。
 今、私たちには二つの運動が必要である。
 一つは、「健康で文化的な最低限度の生活」とはほど遠い暮らしを強いられている多くの貧困層の実態を具体的に明らかにし、そこを出発点に生保を拡充させていくこと。
 もう一つは、生保以外に、教育・住宅・年金・雇用・医療など、どれをとっても先進国中、最低水準である社会保障の一つひとつの制度に対して、公的責任の範囲を拡充させていくこと。その多くは消費(内需)となるであろう。
 生活扶助基準額の削減など論外であり、安倍政権に撤回を強く求めていきたい。
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