兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2013年3月25日(1714号) ピックアップニュース

燭心

 「強い日本、それを創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です」安倍首相の施政方針演説の冒頭である。「強い」が首相の好きな言葉なのか、被災者の「強い自立心」をほめ、社会保障は「自助・自立が第一」と説く。「力強い日本経済」のために毛利元就の3本の矢を持ち出し、日米安保と軍事力の強化を前面に掲げた▼威勢のいい演説の蔭で、ため息をつく人たちもいる。格差と貧困にふれる部分はほとんどなく、「生活保護」という言葉は一言も出てこなかった。強い者への賛美は、弱い者への無視やバッシングにつながりはしないか。水面下で生活保護費の削減が計画されていると聞き、気がかりだ▼貝原益軒の言葉を引いたくだりがある。牡丹の花を手折った若者に「自分が牡丹を植えたのは、楽しむためで、怒るためではない」と言い、「何のため」を忘れるなと説いたという。益軒は儒学者であるとともに、すぐれた農学者でもあった。天和の飢饉で、自らの思想が机上のものであってはならないと反省し、やがて「農業全書」を発表する。災害に強い農作を底辺の農民にも分かるよう平易な文と絵で綴ったという▼政治は「何のため」と問われれば、「底辺の人のため」が益軒の答えではなかろうか。人々の長寿と健康を願って書いた「養生訓」は、人生への賛美が満ちている。保険証がなくて命を落とす人、生活保護が受けられずに餓死する人、現代の飢饉に安倍さんも逃げないでほしい(星)
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方