兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2013年4月25日(1717号) ピックアップニュース

歯科医師「需給問題」と歯学部定員割れ 解説 歯科医療費総枠拡大こそ解決の道 政策部長  加藤 擁一

 日本歯科医師会と同連盟は2月14日、歯科医師「需給問題」で学部定員削減や歯学教育の在り方などについての要望書を下村博文・文部科学大臣に提出した。要望書では、歯科医師数の現状について「明らかに過剰な状況」と指摘し、入学定員削減の継続を求めている。
 他方、日本経済新聞3月7日付は、一部の私立大学医・歯学部では定員割れで「学生確保へ値下げ合戦」が起こっていると報道。2007年度から4年間、入学者数は前年度を下回り続けている。日本私立歯科大学協会のまとめによると、13年度は私立大歯学部17学部のうち11学部で、入学者が定員を下回っており、定員充足率も12年度より10.7ポイント減の78.7%で、2学部では充足率が50%を割っている。
 日歯が「供給過剰」だからと、入学定員削減を求めるまでもなく、すでに定員割れを起こすほど歯科医師をめざそうとする学生が減少しており、むしろ、「歯科医療の質の低下」が危惧される状況にいたっているのである。
 一方、受診患者が減少し続ける中で、歯科診療所の倒産は12年に15件と、00年以降最大の件数に上っており、歯科診療所の「二極格差」が言われるほど、「歯科医療危機」は深刻化している。歯科医師「過剰感」と、歯学部希望者減少のもと、歯科医療に展望はあるのか。いわゆる「需給問題」をあらためて検証してみたい。
供給過剰?ニーズが潜在化
 歯科医師数が「過剰」かどうかは、判断基準として国民が求める歯科医療のニーズと対比してみなければならない。
 歯周疾患は国民の罹患率8割と言われ、また、激増する高齢者の口腔ケアがかつてなく求められている。ところが、歯科訪問診療を受けている患者数は、厚労省「平成20年医療施設調査」によると、18万3800人で、全要介護高齢者のわずか5.6%にすぎない。介護施設や在宅での高齢者のほとんどに、歯科医師・歯科衛生士が専門的に行う口腔ケアが行き届いていないのである。
 少子高齢社会の到来の中で、歯科医療は全身疾患との関わりが重要視されており、「命を守る歯科」としての歯科医療サービスの供給が求められている。全国民が切れ目なく受けられる歯科検診制度の創設や、医科歯科連携や病院歯科などを充実して、潜在化している膨大な歯科ニーズに応えることが必要である。その実現には、三つの課題がある。
高すぎる窓口負担が受診抑制に
 第1に、窓口負担が高すぎるために、受診抑制が著しいことだ。
 労働者の3人に1人が非正規労働、4人に1人は年収200万円以下のワーキングプアといった貧困と格差の拡大により、経済的理由で歯科医療はあと回しになる傾向がある。保団連実施の「歯科医療に関する1万人市民アンケート」によると、5割以上が歯科の窓口負担が高いと感じており、歯科治療を放置している人が4割近くあり、治療をしない理由として34.5%が「費用が心配」と答えている(図1、2)。窓口負担が免除されていた東日本大震災の被災地では、免除措置が打ち切られて以降、岩手県では歯科の通院が半減するなど、窓口負担が受診を抑制していることは明らかである(図3)。
 子どもと高齢者の窓口負担を無料にし、当面は現役世代3割負担を2割負担に戻すなど、大幅な患者負担軽減が求められる。
保険のきく範囲広げてほしい
 第2に、保険診療の範囲を拡充することである。
 歯科では保険がきかない自費治療が多くあるため、「歯の治療はいくらお金がかかるかわからない」という不安があり、9割以上の国民が「保険のきく範囲を広げてほしい」と願っている(図4)。
 安全性と有効性が認められる技術は、すみやかに保険導入していけば、経済的負担を気にせずに受診しやすくなるので、歯科医療の需要は大幅に増大することが見込まれるのである。
低診療報酬政策の転換を
 第3に、歯科医療ニーズが掘り起こせない最大の原因に、自費診療に頼らざるを得なくさせている公的医療保険の低医療費・低診療報酬政策がある。
 83年以降の医療費抑制政策によって、歯科診療報酬の伸びは著しく抑制されている。78年から08年までの伸び率は、同期間の消費者物価の伸び率を大きく下回っており、その差は推計5千億円にのぼるとされている。
 さらに、96年から12年までの17年間で、国民の医療ニーズに応えるべく歯科医師は1万人程度増加しているにもかかわらず、歯科の保険医療費総額は2兆5千億円台で横ばいが続いた。つまり、歯科医師一人当たりの医療費総額は確実に減少しているのである。
 10年と12年の診療報酬改定で若干の引き上げがあった結果、12年度の歯科医療費は2兆7千億円に増えてきてはいるが、消費者物価と比した推計5千億円を回復するには、歯科医療費は最低3兆円台に引き上げられるべきである。
 歯科医療費3兆円台への到達は、診療報酬の10%程度の引き上げで可能である。それによって、増加した歯科医院の経営を安定させていくことができる。
 歯科をめぐる矛盾の根源には低医療費政策がある。
 (1)窓口負担大幅軽減、(2)保険範囲の拡充、(3)診療報酬の改善、これらを三位一体で患者・国民とともに要求する「保険でより良い歯科医療」運動が求められている。
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