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兵庫保険医新聞

2013年4月25日(1717号) ピックアップニュース

スウェーデンに学ぶ 明石市 譜久山 仁先生インタビュー "オムソーリ"の精神で安心の社会へ

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【ふくやま ひとし】1973年12月生。98年三重大学医学部卒業・神戸大学第1外科(消化器外科)入局、99年県立成人病センター外科、00年豊岡病院組合立日高病院外科、01年国立神戸病院外科、01年神戸大学病院消化器外科医員、02年神戸大学病院麻酔科医員、03年神戸大学消化器外科研究生、03年譜久山病院外科、現在に至る。04年神戸青年会議所入会、12年日本青年会議所医療部会副部会長、13年同運営専務

 福祉先進国と呼ばれるスウェーデンから、日本が学べることは----。スウェーデン視察事業を実施した日本青年会議所医療部会で運営専務をつとめる明石市・譜久山病院の譜久山仁先生に、同じ明石市の永本浩理事がインタビューした。

 永本 昨年、スウェーデンを視察されたそうですね。
 譜久山 ええ、9月10〜14日の5日間、日本青年会議所医療部会で、私が担当となり、医師・歯科医師・薬剤師・介護福祉事業関係者ら25人で行ってきました。他国に比べ高齢化が早く始まったスウェーデンでは、80年代に療養型病院や施設に社会的入院をする虚弱な高齢者が増えました。彼らを県が管轄する医療の領域でみるのがいいか、市が管轄する福祉でみるのがいいか、という議論の結果、市が高齢者を引き受けるようになったのが92年のエーデル改革と呼ばれる医療福祉改革です。同じように高齢化で悩む日本が学べる点があるはずだと、スウェーデン南端の町エスロブと首都ストックホルムを訪問しました。
 永本 いかがでしたか。
 譜久山 一番印象に残ったのは、高齢者に対する人間中心の医療・看護・介護の姿です。つまり、その人個人を中心において、疾病や臓器に注目するのではなく全人的なケア(person-centered care)をしており、本人の考えを最も大切にします。
 永本 日本では、家族の意向が優先されるところがありますね。
 譜久山 スウェーデンでは、認知症になっても自己決定が重んじられます。2世帯同居率は約4%ですが、子どもは親の介護が必要になると、週末は親の家に行くなど、よく支援をしています。OECD調査では、週に一度は親の家を訪ねる比率が日本より高く親子の交流は盛んですが、同居せずそれぞれ自立した暮らしを送っています。訪問介護サービスは、平均滞在時間が15〜30分と短く、ポイントを絞った介護で家族の負担を軽減することで、個人の自立を大事にしながら、つながりも保っているのだと感じましたね。
 永本 訪問されたのは、どのような施設ですか。
 譜久山 日本と違い、スウェーデンでは高齢者が居住する場は「普通の住居」と「特別な住居」の二つしかなく、施設という呼び方を現在はしていません。「特別な住居」は、ケア付き住宅で、エスロブ市では認知症ケアユニット、ナーシングホームなど、機能的にいくつかに分かれていますが、原則すべて入居期限がない終の棲家で、高齢者は環境の変化を心配する必要がありません。この「特別な住居」を中心に、デイケア、薬局などを訪問し、スタッフや入居者に話を聞きました。
 永本 なじみのある場所で、一生暮らせるということはいいですね。
 譜久山 ええ。住宅自体がしっかりしていて、100年住めるように設計され、バリアフリーで車椅子でも十分生活できるほど広く、住みやすい環境だと感じました。
自己負担額は最低生活費残して

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聞き手
永本 浩理事

 永本 介護サービスに自己負担はあるのですか。
 譜久山 日本の介護保険のように定率負担ですが、日本で言うケアマネジャーが必要と判断したサービスはすべて受けられます。加えて、自己負担には、マキシマムコストと呼ばれる上限があり、介護費・食費・住居費あわせ月10〜15万円程度を超えることはありません。
 その上、受給者の手元には生活していけるだけの金額である「ミニマムコスト」を残すと定められており、家族構成によりますが月6万円程度は最低生活費として残ることになっています。たとえば、年金が月10万円の人が自己負担10万円分のサービスを受けても、6万円はミニマムコストとして手元に残り、自己負担は4万円です。
 永本 安心して生活できますね。将来に対する不安がないので、国民の貯蓄率も非常に低いと聞きます。
 譜久山 ええ。スウェーデン人は、万一の備えとして収入1、2カ月分しか持たないそうです。民間保険に入る人はほとんどいません。高齢者福祉が注目されがちですが、教育は小学校から大学まで無料で、児童と家族への福祉には高齢者福祉よりさらに多くの予算が配分されています。
 永本 まさに不安がなく、格差のない国ですね。


国家への信頼高く税金は未来への投資

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「特別な住居」責任者にギフトを進呈

 永本 財源はどうなっているのでしょうか。
 譜久山 エスロブ市では、予算の約83%を自主財源(うち市税〈地方所得税〉58%、市の事業収入25%)でまかなっており、福祉のサービス供給と財源に全責任を負っています。自主財源が多いため、国などに使途を制限されません。
 永本 日本の国保のように自治体の規模によって格差ができませんか?
 譜久山 国からの「均等化補助金」で人口が少なく産業がないために税収が少ない地域と、人口が多く産業が盛んで税収が多い地域の調整をしています。
 永本 福祉が手厚い一方、消費税が25%など税率も高いと思いますが、これが実現できた歴史的背景に、私はスウェーデンが1813年のナポレオン戦争以来200年間戦争をしていないことがあると思っています。国家に対する国民の信頼が高いからこそ、税率が高くても文句を言わないのではないでしょうか。
 譜久山 仰るように、国家への信頼は非常に高く、スウェーデン人は、税金は自分たちの未来への投資だと考えています。在スウェーデン日本国大使館でお話を伺った渡邉大使が「国家個人主義」と仰っておられましたが、国家と個人が契約をする、つまり国政に対して国民がきちんとコミットメントします。選挙の投票率は7〜8割にのぼり、自分たちで選んだ人を、自分たちできちんとチェックするそうです。
 永本 人口約950万人の小さな国ということもあるでしょうが、すばらしいですね。加えて、製薬産業やボルボに代表される自動車産業など世界に誇れる技術をもっていることが強みだと思います。
 譜久山 日本で社会保障に力を入れると経済が伸びないと言われた時期もありましたが、実際の経済成長率はスウェーデンの方が高く、学ぶべき部分は大きいと思います。
 永本 福祉への投資が循環し、経済をよくするのだと思います。
充実の社会保障で高齢者が幸せの国に
 永本 課題があると感じたことはありますか。
 譜久山 スウェーデンを視察し、改めて日本がすばらしいと思ったのは、医療機関へのアクセスです。スウェーデンでは、病気になると保健医療センターに電話をかけ、電話で対応する看護師はカルテを見ながら、病院や地区診療所や薬局に患者さんを振り分けます。エーデル改革以降に病院の数が減り、全国で管区病院が8、県立中央病院と県立地区病院が合計で60、プライマリケアだけの保健医療センターが1000施設のみで、日本のように自由に医療機関にかかれません。以前と違い、家庭医を通じなくても他の病院にかかることもできるのですが、今も慣例としてまず保健医療センターに電話します。日本はアクセスのよさを残しながら、スウェーデンに学ばなければいけないのだろうと思います。
 永本 お話をお聞きして、スウェーデンは小さいけれどぴかっと光る、豊かで賢い国だと感じました。日本も、そんな国になってほしいですね。
 譜久山 スウェーデンでは古くから「オムソーリ」といういい言葉があります。これは「思いやり」という意味です。日本は、もともと思いやりをじゅうぶんに持った国だと思いますので、それを生かせる社会保障制度があれば、きっとできると思っています。
 永本 本日はありがとうございました。日本青年会議所医療部会にも、今後いろいろと教えていただければと思います。
 譜久山 こちらこそ、よろしくお願いします。
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