兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2013年5月25日(1719号) ピックアップニュース

主張 あらためて「国保」について考える 国庫負担増で安心の制度に

 国民健康保険は、以前は農林水産業や自営業者が加入者の約70%を占め、無職は10%以下であった。現在では農林水産業、自営業は20%にまで減少し、被用者24%、無職が51%と急増した。これは、高齢者の増加、大企業のリストラや非正規雇用増加によると思われる。
 この加入者の変化は、個人の収入が低くなり不安定化し、国保の財政的基盤が脆弱になったことを示している。にもかかわらず、かつては45%あった国庫負担を、政府は07年に25%まで削減してしまった。自治体は、貧弱な財政で国保を運営せざるを得ず、おのずと国保料が高くなり、加入者の課税所得の20%を超える自治体も増加している。
 現在、自己責任論や、自助自立、共助が強調されている。
 しかし国保は社会保障制度である。国民健康保険法第1条には「この法律は、国民保険事業の健全な運営を確保し、もって社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする」と明記されている。
 国保は他の医療保険に入れない人のためのセーフティーネットとしての役割を持つ医療保険である。現に加入者は無職者・高齢者・低所得者が多く、お互い助け合うことができない。だからこそ、国が医療を保障する制度としたのである。
高すぎる保険料
 まず国が相当な負担をすべきである。80年代より状況は悪化しているが、まずは国庫負担を元に戻すべきである。
 また国保料(税)の算定に関して、賦課ベースを引き上げ、低所得者に対する救済を行うことや、国保料(税)が、4人家族で基準総所得470万円程度で70万円を超えるというのも、あまりにも非現実的であり、もっと累進性を強化すべきだ。
 また国保料(税)算定の方法も、収入がなくても人数によって課税する"人頭割り"のような方式ではなく、より応能負担を強化すべきである。さらには非正規・不安定雇用をなくし、最低賃金を上げ、安定した国民生活のうえに国保運営の健全化を図るべきだ。
広域化ではうまくいかない
 国保の困難の原因は市町村が運営しているからではなく、国が負担を減らしているからだ。赤字財政が合併しても問題解決にはならず、多くの貧困層を抱える都市部の財政難を地方がかぶる可能性が大きい。
 広域化は都道府県でなく"広域連合"が行う可能性が大きい。「後期高齢者医療制度」を見てもわかるように、議会運営が硬直化・形骸化されることは明白である。事務所は住民から遠く、声を届けるすべさえない。
 市町村は国保料の徴収のみで、苦情の処理や対応の権限はない。たとえ大きな住民運動が起きたとしても、市町村議会の争点にはならない。
 これまで市町村が苦労して、一般会計から繰り入れ独自につくりあげてきた、さまざまな制度、減免措置などができなくなる。
 このように国民健康保険制度は危機的状況にあり、さらに広域化で制度そのものが形骸化・硬直化させられようとしている。未納世帯は20%を越え、さらに3割の窓口負担が重くのしかかり無保険者、受診抑制、手遅れ受診などが社会問題になってきている。
 「社会保障制度改革推進法」やアベノミクスの第3の矢となる成長戦略は、社会保障における国の責任を放棄し、自助自立、共助の強化、その上、高齢者に対しては預金や資産までもターゲットにしようとする悪質極まりない政策である。世の中が複雑になるにつれ世論形成も難しくなる。大いに学び原点に立ち戻った運動が求められている。
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