兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2014年2月05日(1741号) ピックアップニュース

寄稿 なぜ秘密保護法は危険なのか
大阪市立大学名誉教授 林 直道

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【はやし なおみち】1923年生まれ。大阪市立大学名誉教授、経済学博士、関西勤労者教育協会副会長。経済理論研究や日本経済分析を専門とし、戦後日本の資本主義を分析し、規制緩和や社会保障切り捨てを進める新自由主義を批判する『強奪の資本主義』(2007年、新日本出版)などの著書がある。協会でも政策研究会などで多数講演している。また、百人一首の研究でも知られ、藤原定家の選んだ百首をある順序でタテ10、ヨコ10に配列すると上下左右隣り合うすべての歌が共通語で結ばれ、この「歌織物」の中に京都から西南方の景勝地「水無瀬」(みなせ=現大阪府島本町)の絵図が浮かび出ることなどを解明、人々を驚愕させた

 安倍政権が昨年12月、国会で強行採決させた特定秘密保護法について、大阪市立大学名誉教授の林直道氏にご寄稿いただいた。林氏は1943年頃、戦争反対の立場から研究を行った数人の教授と40数人の学生が「治安維持法」によって逮捕・投獄された大阪商大(現大阪市立大学)事件で、自らも検挙された経験をもつ。
(1)反対世論の空前の高まり
 秘密保護法に対する反対の世論が空前の広がりを見せている。昨年末、12月5日付の朝日新聞夕刊に、「特定秘密保護法に反対・懸念を表明した主な団体」のリストが掲げられている。「学者・研究者」の世界から、「弁護士・法律家」「議会・行政」関係、さまざまな「NGO・市民団体」、それに「宗教界」(仏教・キリスト教双方)、「医師」、「マスコミ関係・新聞協会・出版協会」、「映画・演劇、美術家」、「マスコミ関係労働組合」、「国際団体(国連人権理事会)」等々。
 よくもまあ、こんなに広範に反対の声が広まったものと驚くばかりである。
 さらにその後も、数千人の署名を集めた学者の会や、400人の牧師の会、映画人の会など、とどまるところを知らず、反対の声が広まり、日本の知性を代表するような著名文化人の熱い反対発言が相次いでいる。
 なぜこんなに皆が反対するのか? 秘密保護法のどこが問題なのか? いくつかのポイントを摘記してみよう。

(2)政府による一方的な秘密指定・情報隠匿
 どんな組織にも公開できない情報というものはある。所有兵器の性能とか、行政で言えば個人のプライバシーにかかわる事柄とか。これらの情報は公開不可として、自衛隊法や公務員法に規定がある。
 ところが今回の秘密保護法では、それらの限定的な非公開情報とは別に、政府が国民に知られたくないと思う情報をいくらでも新たに指定し、これを知ろうとする者は厳罰に処し、60年間は、つまり半永久的に秘密を解除しないという。
 政府の情報は国民の税金を費やして集めたものであり、しかも国民生活に深くかかわるものだから、できるだけ公開するのが原則で、非公開情報は限定的であれという常道に全く逆行する、国民の権利の侵害である。
(3)第三者機関による審査なし
 政府が国民の「知る権利」を封殺して、ある情報を秘密指定するためには、当然「第三者機関」にかけて、その妥当性を審査することが必要である。ところがまさにその点が秘密保護法では全く欠落しているのである。
 もっとも、この批判に対しては、自民党の文書では「特定秘密は、法律の別表に限定列挙された事項に限って指定する」「恣意的な指定が行われることがないよう、重層的な仕組みを設けている」と反論している。けれどもどんなに「重層的な仕組み」を設けても、それは政府・官僚の内輪でのことであり、外的・独立のチェック機構が欠如している限り、政府・官僚による恣意的な指定の行われる可能性はなくならない。
 いわんや「首相が第三者的役割を果たす」などという反論は、いわば検事が裁判長を兼ねればいいと主張しているようなもので、小林節慶応大学教授(憲法)が言われるとおり「むちゃくちゃ」である(朝日新聞12月8日「秘密保護法 私もノー」)。要するに、政府・官僚の内部で、彼らだけで一方的に指定されるのが、恐ろしいゆえんである。
(4)何が秘密かも秘密
 秘密保護法のもう一つのポイントは、政府指定の秘密情報がどんな内容か、一切明らかにされないことである。つまり「何が秘密かも秘密」というわけである。
 今、ある人が一つの情報に触れたとしよう。彼はそれが政府指定の秘密であることを全然知らなかったとしても、懲役10年という重い罰をくらうことになる。恐ろしいことである。
 そればかりではない。現在の憲法では、人を逮捕・起訴するときは、起訴状に犯罪の中身を「明示」することになっている。ところが、秘密保護法違反では、起訴や公判でも罪の中身は明らかにされない。自分が何をして逮捕されたのか、本人にもわからない。弁護士にも秘密の中身は知らされない。裁判官は仮に知ったとしても、それを漏らしたなら裁判官自身も罰せられる。まさに暗黒裁判である。
 特ダネを探り出して国民に知らせようとするジャーナリストの取材活動は、重大な打撃を受け、自由な言論は圧迫され、国民の目はふさがれざるをえない。
(5)国際的基準から見て
 国連人権高等弁務官ピレイ氏は、パリでの記者会見で「日本国憲法と国際人権法が保障する情報アクセス(接続)と表現の自由の権利を適切に守る措置のないままに法制化を急ぐべきではない」と言明している(昨年12月2日)。
 また兵庫県九条の会の深草徹弁護士は、アメリカの秘密保護法と言うべき大統領令13526号「秘密指定された国家安全保障情報」と安倍内閣の秘密保護法とを比較分析し、たとえばアメリカでは秘密指定対象事項が非常に限定的なのに、日本は実質上無限定に等しいとか、またアメリカでは「上下両院の特別委員会が秘密指定の濫用の審査をしたり、内部からの異議申し立てが奨励されている」のに対して、日本の法案では「行政機関の長が行った秘密指定は国会をも拘束し、異議申し立ての手続きもない」ことをはじめ、「ひどい」内容だと述べておられる。
 朝日新聞のゼネラルエディター兼東京本社編成局長・杉浦信之氏がいわれるように、「言論の基となる情報の多くを特定秘密という箱の中に入れてしまう法律は、70年に及ぶ戦後民主主義と本質的に相いれない」(朝日新聞東京版、12月8日付)のである。
(6)気づいたときはすでに参戦では困る
 安倍内閣は、まだ国会で十分な審議もできていないのに、議席数に物言わせて強引に法案を押し通した。なぜそんなに急ぐ必要があったのか? 実はこの秘密保護法は、安倍首相が念願としている「集団的自衛権の行使容認」と深い関わりがある。
 「集団的自衛権の行使」とは、日本は自国が侵略されていなくても、同盟国・アメリカが世界のどこかで戦争を起こしたならば、日本も米軍と行動をともにして一緒に戦争に加わるということである。
 歴代内閣は、憲法第9条に基づいて、海外での軍事行動には加わらないとの態度を持してきた。アメリカのイラク侵攻の時、小泉首相は米軍の要請を受けて、自衛隊をイラクへ派遣したが、自衛隊の活動を輸送とか道路整備に限定し、戦闘に加わることは避けるという形で、憲法9条に反しないように苦肉の策をとった。
 ところが安倍内閣は、憲法9条があっても日本が米軍の軍事行動に参加することができるという強引な解釈を主張している。予想されることは、ひそかに参戦の誓約をアメリカと結び、その誓約を秘密指定し、国民を「蚊帳の外」に置いたまま、妨げられることなく、実戦準備(これも秘密指定)をすすめてゆき、一気に参戦を強行しようとするのではないか? そんなことは絶対に困る。
(7)廃案をめざして
 「それにしても、もう秘密保護法は成立してしまったのだから、今さらどうしようもないのでは」という意見に対して、一言したい。法は成立したが実施されるのは1年後である。その間にうんと勉強し、世論を高め、秘密保護法を廃案にもってゆきたいものだ。
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