兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2014年4月25日(1749号) ピックアップニュース

新聞部の会員訪問 宝塚市 岡本純子先生の巻 俳句楽しみ 心癒す

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創刊当時の「雲雀」を手に。後ろの花は開院20周年のお祝いに句会から送られたもの

【おかもと じゅんこ】俳号 品川純胡。俳人・品川柳之を父に、品川良夜を兄とする。1935年愛媛県松山市生まれ。幼少時より俳句に親しむ。1960年関西医大卒業。1993年宝塚市で開業、岡本クリニック院長、精神科医。1992年より雲雀集選者、現在「雲雀」主宰、出版物 句集『雲雀』(2006年、雲雀社発行)、句集『雲雀の巣』(2010年、株式会社文學の森)

 宝塚市で開業する岡本純子先生は、「品川純胡」の俳号を持ち俳句の結社「雲雀(ひばり)」を主宰して活動している。新聞部の幸原久監事が句会の活動や俳句にかける思い、心のケアとしての俳句などについてインタビューした。

父と兄から受け継ぎ俳句結社を主宰
 幸原 俳句結社「雲雀」を主宰されているということですが、これはもともとお父様が始められたそうですね。
 岡本 ええ。教員だった父は、俳句に情熱を注いでいて、終戦直後の1946年、復員してすぐに、松山で俳誌「雲雀」を発行しました。そんな父のもとで、句会に顔を出していた兄についていって、私も小さいころから自然と俳句を覚えたのです。
 幸原 松山といえば、正岡子規や高浜虚子を生んだ、俳句の町ですね。
 岡本 ええ、父も虚子の流れを汲んでいます。1981年に父が亡くなった後、医師だった兄が「雲雀」を継ぎました。兄は、大脳生理学を専門としていたため「右脳俳句」などと、俳句を理論的に研究していましたが、92年に60歳の若さで亡くなってしまいました。
 幸原 それで先生が受け継がれたんですね。
 岡本 私は俳句を趣味としてのんびりとやっており、ちょうど開業を控えていた時期だったので、最初はどうしようかと思いましたが、会員の方々のことを考えると、やるしかないと引き受けました。
 幸原 では、ほぼ同時にご開業も? 大変でしたね。
 岡本 あまりに忙しく、「医者廃業」か「雲雀廃刊」かと真剣に悩んだこともあります。でも、頼ってくれる患者さん、「雲雀」会員の方たちのことを思うと、どちらもやめられません。
 開業時には、協会にもずいぶんお世話になりました。関西医大の同窓だった前理事長の故・朝井榮先生から「分からないことは何でも聞けばいい」と言われ、助かりました。
 そうして続けているうちに、今では、それぞれ一台の自転車の前輪と後輪で、どちらがなくても進めないものだと感じています。
 幸原 創刊当時からの俳誌を見せていただきましたが、ぼろぼろになった冊子に歴史を感じます。最新号を見ていると、全国の方が句を寄せているのですね。
 岡本 ええ、全国各地にたくさんの会員がいらっしゃいます。創刊号はガリ版刷りでもうほとんど読めなくなっていたので、2005年の創刊60周年に復刻版を作成しました。あわせて、私の句集「雲雀」を出版しています。
 拠点である松山に何か残そうと、2004年には父と兄の句を彫った父子句碑を香積寺に建て、毎年、供養祭として、大会を開いており、全国から「雲雀」会員の方たちに集まっていただいております。
俳句で被災者の心のケア
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聞き手 幸原 久 監事

 幸原 句集を拝見していると、特に阪神・淡路大震災のことを詠んだ句が印象に残ります。私の医院がある芦屋市南部もひどい被害でした。
 岡本 開業後2年経ち、患者さんも増え、やっと落ち着いたかなというときで、どうしようかと...医院も使えなくなり、往診に走りまわりました。心のケアが必要となってくるなか、被災者の方々が自らを客観的に見つめ気持ちを整理する機会にと、被災者から句を集め、句集『おおない』を作りました。「宝塚心のケアセンター」の支援もいただき、565の句を寄せていただきました。
 幸原 「おおない」というのは、どういう意味ですか?
 岡本 「ない」は俳句で地震のことで、「大地震」という意味です。もともと芸術には、心を癒す作用があることは知られていましたが、俳句を詠む過程が精神的な安定、精神的な解放を促し、被災者の心の癒しにつながったのではないかと考えています。
「三楽」モットーに医院で句会
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俳句をたしなむ幸原先生と話がはずむ

 幸原 普段はどんな活動をされているのですか。
 岡本 患者さんや一般の方たちが集まる「宝来句会」、近隣の医師の先生方の「たかんな句会」、女性中心の「なでしこ」句会があり、それぞれ月1回、このクリニックに集まって、わいわいとやっています。
 幸原 私も多少、句を詠みますが、ちょっと教えていただくだけで違いますね。ぐんと句がよくなります。
 岡本 一文字違うだけで全然変わってきますね。
 句会にお誘いすると「勉強しないと...」と敬遠される方がいるのですが、そうでなくて、「三楽(さんらく)」で行きましょうと声をかけています。「気楽に」句会に顔を出してもらって、「楽しく」句会に参加して、そのうち「楽々と」句が読めるようになると。実際に、皆さん参加されるうちに、だんだんうまくなるんです。
認知症予防にも
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岡本先生の句集「雲雀の巣」。インタビューの記念に一句いただいた

 幸原 楽しいといえば、私はなんといっても吟行(題材を求めて名所などに出かけること)が楽しみですね。
 岡本 同感です。生の題材を前にしてこそ、句を詠む気がわいてきます。
 私は、吟行は認知症の予防にもなると考えています。ただ漫然と歩くのではなく、周囲を観察し、言葉にするのに頭を使いますから。
 幸原 精神科医であり、俳人でもある先生ならではですね。
 岡本 ありがとうございます。他にも、月1回、天神川病院で、患者さんや作業療法士さんと句会を開いています。作業療法の一環なのですが、患者さんがとても楽しんでくださって、お見せした句集にも、患者さんの作った句を載せていますよ。
 精神科医として、俳人として、患者さん、「雲雀」の会員の方々とともに、歩み続けていきたいと思っています。
 幸原 今日はありがとうございました。最後に、一句お願いします。
 岡本 では、句集に書かせていただきます。

認知症の講演終へて花人に
純胡
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