兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2014年5月25日(1751号) ピックアップニュース

燭心

 先日NHKの番組でわが国の認知症の人の数が8百万人と報じられていた。65歳以上の4人に1人を占める。筆者も後期高齢者で他人事ではない▼以前は、在宅訪問診療を20人ほど担当し、時間、場所、状況に関わりなく対応せざるを得ない事態も若さで乗り切ったが、今は無理である。慢性呼吸障害、糖尿病、がん末期、脳卒中後遺症、老衰などに関わってきたが、認知症だけの方は4分の1くらい。ほとんどが彼岸へ旅立たれるのを看取った▼現在3人の方を訪問している。88歳の男性は2回の脳梗塞後、左半身の不全麻痺があるが、頭脳明晰。囲碁は5段、毎月碁の雑誌を取り寄せ、読み終わると5〜6級(自称)の私にくださる。80㎏を超す巨漢で、歩行器を使用して数メートル歩くのがやっと▼その彼が兄弟の法事に東京へ行きたいという。大都会は、バリアフリー完備だから可能と判断し許可したが、行きはすまいと踏んでいた。ところが、JRや公共交通機関の職員の助けを借り、車いす旅行を果たしてきた。快適だったという▼次は、市福祉センターのプールで泳ぎたいと言い出し、紆余曲折の末、これもクリア。今の希望は、大分の田舎への墓参。地方都市のバリアフリー化は完全ではないので、果たしてどうなるか▼意欲にあふれた男性が痴呆になることはなさそうだ。認知症を発症させない方策の一つは本人の意欲を尊重すること、知的好奇心を刺激し寄り添っていくことかなと思うこの頃。(硝子)
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