兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2015年3月25日(1778号) ピックアップニュース

政策研究会 講演要旨
消費税増税は本当に必要か

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経済評論家・大阪経済大学客員教授
岩本沙弓先生
【いわもと さゆみ】1991年より日・米・加・豪の金融機関にてヴァイス・プレジデントとして外国為替、短期金融市場取引を中心にトレーディング業務に従事。銀行在籍中、青山学院大学大学院国際政治経済学科修士課程修了。日本経済新聞社発行のニューズレターに7年間、為替見通しを執筆。金融機関専門誌『ユーロマネー』誌のアンケートで為替予想部門の優秀ディーラーに選出

著書の紹介

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『アメリカは日本の消費税を許さない
通貨戦争で読み解く世界経済』
文春新書 750円+税

 2月28日に、経済評論家で大阪経済大学客員教授の岩本沙弓氏を講師に開催した政策研究会「消費税増税は本当に必要か−アメリカは日本の消費税を許さない」(報道1面)の講演要旨を掲載する。

アメリカは消費税増税を懸念
 アメリカの財務省が毎年発表している「為替報告書」を見ると、2014年版では日本経済の分析について、昨年4月の消費税増税を非常に深刻にみている。
 第2四半期での大規模な重税負担による経済縮小が起こると述べている。また、世界経済のためにも日本は国内需要の増加に取り組むべきだと述べている。
 世界が日本経済に求めていることと、日本国内で必要だと言われていることに大きな差があることが分かると思う。
実質賃金と設備投資はマイナス
 厚労省が毎年出している毎月勤労統計調査の実質賃金指数の2014年3月と4月の数字を見てみるとマイナス4%であり、これは消費税増税の影響だ。
 どうして、消費税増税が行われると実質賃金が下がるのか。「消費税」という名前のせいであたかも消費者が負担する税のように錯覚させられているが、消費税法のどこを読んでも、消費税は消費者が負担するとは書かれていない。事業者が支払っているのだ。
 では、消費者は何を負担しているのか。企業は税負担が増えれば、何とかして価格に転嫁しようとする。結果、消費税が増税されれば、モノの価格が上がる。消費者は物価上昇分を負担している。それで、消費税増税が行われた4月には、その分実質賃金が3%も引き下がっている。
 事業者は、消費が増えると判断すれば、国内の設備投資を増やす。設備投資は機械受注を先行指標として見る。昨年の4月と5月の機械受注を比較すると、マイナス9.1%からマイナス19.5%へと大きく下がっている。つまり、企業は消費税増税をきっかけに設備投資を行う気がなくなったということだ。
 これまで、実質賃金と設備投資に注目してみたのは、この二つが日本のGDPの構成要素の大きな部分を占めているからだ。日本ではGDPの内、個人消費が約6割を占めている。設備投資は15.5%だ。つまり、この二つでGDPの7〜8割を占めている。
 屋台骨である個人消費と設備投資を示す指標が2期連続でマイナスになったということは、経済的に見れば景気後退局面に入ったという見方もできる。消費税増税によって、内需関連企業には増税、国内の消費者にとっては物価高になるのだから、当然の帰結だ。
株価を年金で買い支える政策
 このまま放っておけば、本格的な景気後退が起こり、株価は下落するはずだ。しかし、政府はその対策として株価の操作を行っている。年金の積立金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」は国内株式の運用を増やしている。
 株価は経済の成績表と言われる。実態があって、それを示すのが株価であるはずだが、政府は実体経済が疲弊しているのに、成績表だけを良く見せかけようとしている。これはバブルでしかない。バブルは必ず実体経済の方に収束する。実体経済が回復しなければ2・3年後、大幅な株価下落が起こる可能性がある。
 公的年金を市場運用している国は多いが、日本の運用は株式の割合と規模から考えると非常に危険だ。投資というのは、いくら含み益が増えていても、利益を確定しなければ意味がない。何十兆円もの規模の株式を売り抜けて利益を確定できるのだろうか。
法人税や所得税含めた税制改革を
 さて、政府は消費税増税の理由を財政再建のためと言っている。しかし、消費税が導入された1989年と、消費税が3%から5%に引き上げられた1997年には、歳出が大きく増えて、歳入が大きく減っている。したがって、これまでの歴史を見ても、消費税で財政再建することができないのは明らかだ。
 だからと言って、財政危機をそのままにしておいてもいいとは思わない。財政再建をするつもりならば支出の見直しとともに法人税や所得税も含めた、日本の税制をどうするのか議論を始める時期に来ていると思う。
 法人税は非常に逆進性の高い税だ。グローバル企業は非常に租税回避がうまく、実際の法人税負担は5%程度だ。一方、中小零細企業はそうした租税回避などできないので、きちんと法人税を支払っている。このアンバランスを何とかするために、租税回避を規制しようというのが、国際的な最新の流れで、非常に現実的な方向だ。
 次に、国税における滞納発生額であるが、全体の5割を消費税が占めている。消費税は「税金は払える者が払う」という、日本国憲法にもある応能負担原則を逸脱していることを示している。
 消費税増税は、後からボディブローのように経済を浸食する。特に中小零細企業や個人事業主への影響が大きい。納税時期は4月なので、昨年の消費税増税の影響はこれから出てくると考えられる。2014年の企業の倒産件数は減ったと言われる。しかし、倒産だけでなく、借金がないまま事業を止める、休廃業や解散も見る必要がある。確かに、倒産件数は減っているが、休廃業・解散は増えている。政府は、景気がどうあっても2017年に消費税を10%に上げると言っている。よって2018年、日本経済は最悪な状況になるのではないか。非常に心配だ。
消費税は輸出補助金であり関税
 消費税の歴史的な背景をみていきたい。世界で初めて付加価値税が導入されたのは1954年のフランスだ。その後、60年で140の国と地域で採用された、いわば非常に人気のある税金だ。
 そうした中、唯一、国として付加価値税を採用していないのはアメリカだ。アメリカは付加価値税に対してどういう立場をとっているのだろうか。それは、消費税は輸出企業への補助金だというものだ。輸出企業は、海外で商品を販売した際、購入した者から消費税を受け取ることができない。そこで、商品を製造するために支払った消費税を、国から還付してもらうことになる。
 理論上問題はなさそうだが、実際は全く異なるとアメリカは言っている。実際の取引現場では、輸出大企業は部品の納入先に消費税分くらいまけろと圧力をかける。消費税増税分を部品納入元の企業が納入先の輸出大企業から受け取れたとしても、値切られた分の穴埋めにしかならず、消費税が100%転嫁されることなどあり得ない。したがって、アメリカの公文書では、消費税の還付金「リファンド(refund)」とは呼ばず、販売奨励金「リベート(rebate)」と表現している。つまりこの還付金は「補助金」、「販売奨励金」だと位置付けているのである。
 私が、アメリカの公文書館で金本位制について調べていた際、上院金融委員会報告書に金本位制から離脱した経緯が書かれていた。
 アメリカでは、1960年代中盤から国際収支が悪化して、国内の金の海外流出がつづき、金本位制を離脱する判断を行った。
 では、どうして国際収支が悪化したのか。その理由の一つに、アメリカは欧州で付加価値税が導入されたことを挙げている。「付加価値税による輸出企業へのリベートを安易に認めてしまったために、欧州の輸出企業の競争力が高まり、結果、アメリカの国際収支の悪化を招いた」と総括している。つまり、付加価値税はアメリカに通貨制度の変更を促すほど力を持っていたのである。
 また、アメリカの財務省の1970年代の内部文書では、フランスが1954年に付加価値税を導入したことについて、「輸入品には関税を増やすもの」で、「輸出に補助を行うものだ」と規定している。欧州では、付加価値税は関税として位置付けられており、それで各国で引き上げ競争を行った結果、現在のように高い税率となっているのである。
消費税増税に対するアメリカの報復
 アメリカは各国が法人税を付加価値税に置き換えた場合、報復措置をとるといっている。
 日本ではこれまで、法人税引き下げと消費税増税は合わせて行われてきたが、まさにこれはアメリカの報復措置の対象だ。具体的には年次改革要望書や日米経済調和対話、TPP交渉など通商交渉における規制緩和圧力を強めることを意味している。
 日本はこうした圧力について、アメリカの横暴だと言うが、アメリカにしてみれば、関税と輸出補助金を引き上げたことに対する、対抗措置なのだ。
 こうして消費税を導入、増税とともに、日本国内の内需が疲弊、併せてアメリカの規制緩和圧力が高まり、日本経済を悪化させてきた。それが「失われた20年」の正体だ。
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