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兵庫保険医新聞

2015年4月25日(1781号) ピックアップニュース

「不要な薬を減らしたい」
神戸大学医学部附属病院 薬剤部長・医学部教授 平井みどり先生

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【ひらい みどり】1951年生まれ。70年県立神戸高校卒業、74年京都大学薬学部卒業、75年神戸大学医学部入学・85年卒業、同年同大学院医学研究科博士課程入学、90年修了、同年4月神戸大学医学部附属病院薬剤部文部技官、同年8月京都大学医学部附属病院薬剤部文部教官助手、95年4月神戸薬科大学助教授、2002年10月同教授、07年3月神戸大学医学部附属病院教授・薬剤部長

 医療現場に不可欠な薬の使い方や薬剤師との連携の可能性などについて、神戸大学医学部附属病院薬剤部長の平井みどり教授に、西山裕康副理事長がインタビューした。

薬学部卒業後医学部へ
 西山 お久しぶりです。本日はざっくばらんにご意見を伺えればと思います。先生とは医学部で同級生でした。すでに、京都大学薬学部を卒業されていましたね。
 平井 ええ、一緒に入学しましたが、出産などで卒業は遅くなり、医学部卒業まで10年かかりました。おかげで同級生がたくさんおり、いま病院では助かっています(笑)。
 西山 卒業後は?
 平井 大学院は薬理学分野に進んだのですが、田中千賀子教授から「今から臨床医師になるには10年かかるから、薬学の方でやれば」とアドバイスいただき、そちらに進みました。神戸薬科大学で学生を教えている際に、医学部との連携を、当時学部長の千原和夫先生に相談させていただいていたことなどがきっかけで、大学病院の薬剤部長にと、お声をかけていただきました。
 西山 どんな仕事をされているのですか。
 平井 病院薬剤部長としての仕事のほか、医学生と薬学生の実習や大学院生への講義などですね。研究室では、メインテーマを抗がん剤の副作用に据え、細胞内情報伝達などを研究しています。
 西山 抗がん剤は新薬がどんどん出ているようですが、患者さんの自己負担も大きいでしょう。
 平井 1剤数百万円するものもあり、本当に高いですね。ただ、高額療養費制度で、患者さんの負担は一定額で済んでいます。また、海外の大手製薬会社に利益を吸い取られるのも問題かと思います。
 西山 医療費抑制のなか、高薬価で大手製薬会社だけが利益を上げるのは、おかしいですね。後発医薬品の利用が促進されていますが、これについてはいかがですか。
 平井 薬剤の6割を後発品にという国の方針があり、病院でも変更を進めています。ただ、新薬が次々に入ってくるので、なかなか目標達成は難しいですね。また、後発品は有効成分が同じでも、添加物や製造法が違いますので、できる限り実際の患者さんのデータを参考にして、ワーキンググループで、医師を交え検討し、慎重に選んでいます。
 西山 新薬は、製薬会社からの売り込みも強いですね。医院で新薬の情報が入るのは、製薬会社からがほとんどなので、案内されると使ってみようかとなることも少なくないですね。
 平井 製薬会社からは、どうしても販売するための情報提供になってしまいます。そういうときこそ大学病院に問い合わせていただければ、情報提供しますので、活用してください。

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聞き手 西山裕康 副理事長

薬剤師の関わり広げ医師の負担軽減に
 西山 「医薬分業」と言われますが、先生の目から見てどうですか。日本は医者が「薬師 くすし 」として薬の処方・調剤をしていた歴史もあり、なかなか薬剤師との役割分担・連携が進んでいかないように感じます。
 平井 確かに見かけは進んだように見えても、薬剤師は処方せんに従って調剤しているだけのことが多く、本当の意味での「分業」にはまだまだ遠いですね。医師は診断と治療計画を行い、薬については薬剤師に任せてもらえるようになればと思いますね。
 神戸大学病院では、薬剤師が外来窓口で患者と面談して、薬の説明だけでなく、服薬状態を聞き問題がないか確認しています。また、入院患者の持参薬チェックや、点滴の準備や薬の配布をしているほか、ICUや手術場にも薬剤師がいます。オペ中に使う薬のセットを作ったり、麻薬や筋弛緩薬などの危険薬の管理を行ったり。
 西山 私が大学病院にいた頃には、薬剤師の方を見た記憶がほとんどありませんでしたが、変わっているんですね。
 平井 そうなんです。医療のどんな場面でも薬は必要なので、薬剤師がさまざまな場面で加わることで、医師や看護師の負担軽減になっていると思います。ただ、薬剤師の人数不足が悩みです。
 西山 病院から施設へ、施設から在宅へという流れのなかでも、薬剤師の役割は大きくなっています。協会でも薬科部をつくり、多職種交流を進めていますが、医師と薬剤師の間の垣根を低くしないといけませんね。
 平井 私は、医師として臨床をしていないことに負い目がありましたが、この仕事をさせていただいて、薬剤師と医師のギャップをなくすのが自分の使命と思えるようになりました。連携には課題もありますが、お互い顔が見える関係を築いていけば、壁はなくしていけると思っています。
ポリファーマシーの是正をすすめる
 西山 最近の薬の使い方に何かご意見は?
 平井 訴えたいのは、薬の多剤投与(ポリファーマシー)です。日本老年医学会は、高齢者の6割が6剤以上処方されているという実態を明らかにし、薬の数を減らそうと提言しましたが、大学病院でも不必要ではないかと思われる投薬があります。薬は大切な資源。必要なときに投与を行えば劇的に効きますが、漫然と投与するものではありません。
 西山 薬の飲み残しも話題になっていますね。
 平井 ええ。高齢者の方は膨大な薬を貯めてしまいがちです。本当の治療には、薬に頼るだけではなく、筋トレや食事など、生活習慣の改善が必要です。そうすれば、患者さんの生活の質の向上が、症状の軽減につながります。
 友人がパーキンソン病を発症し、L-ドパ製剤をずっと使っていると、だんだん効き目が悪くなってくるのですが、薬の飲み方や食事内容に気をつけていれば、効き目が改善するそうです。薬だけでなく、生活習慣が非常に大切だと教えてもらいました。
 時間と労力がかかりますが、患者さんのために、医師と薬剤師が一緒になって、そんなアプローチを試みることができればすばらしいと思っています。
 西山 薬を減らすことには、いろいろと抵抗もあるのでは? 薬の種類が多いので減らそうかと言っても、嫌がられる患者さんも少なくないですね。時間をかけて生活習慣の改善を指導するより「じゃ、前と同じ薬で」となりがちです。
 平井 確かに患者さんも薬をほしがる傾向がありますし、医師にとっても、いったん処方した内容の変更には抵抗がありますね。
 病院では機械的に薬を減らすということではなく、不必要な薬はどれか、症例を重ねながら慎重に選んでいます。外来診察室で、診察前に薬剤師が患者さんと面談し、薬のトラブルがないか、飲み残しがないか、漫然と投与されている薬がないかなどをチェックして、医師と相談し、不要な薬を減らすことに成功していますよ。
 西山 最後に、先生のこれからの目標をお願いします。
 平井 目標は、やはり不要な薬を減らしていくことと、そもそも病気になる前に健康を守っていただけるように、予防の大切さを訴えることです。
 開業医の先生方にもご理解いただき、不要な薬はなるべく使わず患者さんの健康を守れるよう意識していただければ、うれしいですね。
 西山 これからもご意見いただければと思います。本日はありがとうございました。
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