兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2015年6月15日(1785号) ピックアップニュース

県弁護士会 吉田 維一 憲法問題委員長に聞く
6月21日 「集団的自衛権行使容認」「特定秘密保護法」反対で県民集会
弁護士会「立憲主義に反する」で一致

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【よしだ ただいち】兵庫県弁護士会所属。兵庫県弁護士会憲法問題委員会委員長。日本弁護士連合会憲法問題対策本部委員

 兵庫県弁護士会が「集団的自衛権行使容認」と「特定秘密保護法」反対で、「兵庫大集会・パレード」への参加を呼びかけている(6月21日(日)14時〜、三宮・東遊園地 開催)。弁護士会としてこのような集会を主催するのは初めての試みとのこと。なぜ今、弁護士会が集会を主催するのか、武村義人副理事長が県弁護士会館を訪ねて、県弁護士会の憲法問題委員会委員長の吉田維一弁護士に聞いた。

このままでは危ないと初めて集会を企画
 武村 集団的自衛権や特定秘密保護法には、当会も高い関心を持っています。先生は、憲法問題委員会の委員長をされているということですが、そのあたりからお話いただけますか。
 吉田 憲法問題委員会が県弁護士会にできたのは、2003年度に前身の有事法制問題対策本部が設置されて以来で、もう10年以上の活動になります。これまでは憲法にかかわる問題を研究して成果として意見書を出したり、市民集会で発表するなどの活動を行ってきました。
 武村 先生が委員長になられたのは、いつからですか。失礼ながら、お若い感じがしますが。
 吉田 昨年の4月からです。先輩から、そろそろお前がやれということで...。これからは若い人が中心にならないといけないと言われまして、それでやむなくと言いますか、なるべくして、と言いますか...(笑)。今、39歳ですので、若いかどうか...。
 武村 私は、平和憲法を守ろうという九条の会・兵庫県医師の会に入っていますが、今回の集会の趣旨は、九条の会の趣旨とは違うのですか。
 吉田 はい。憲法9条については、弁護士の中にも、改正すべきという人もいれば、このままでよいという人もいます。ですが、今回の「集団的自衛権の行使容認」という問題は違います。これまで「わが国が攻撃されない限り、武力行使をすることは許されない」としてきた憲法9条の解釈を、憲法を改正することなく、閣議決定と法律でひっくり返すというものです。これはどう考えても、「憲法で内閣をはじめとした国家権力を縛る」という考えである「立憲主義」に反しているんです。その点では、改憲派も護憲派も、弁護士会は一致して反対しているのです。
 武村 それにしても、弁護士会として集会を主催するというのは、あまり聞いたことがありません。
 吉田 弁護士会としても、今の状況に強い危機感をもっているからです。こうした趣旨の集会は、兵庫県弁護士会だけの取り組みではありません。日本弁護士連合会と、全国52の単位弁護士会が、この問題では一致しています。すでに、同様の集会は東京、横浜、埼玉、名古屋、大阪などで開催されていますし、今後も、全国で開催されていく予定です。
 ただもう、弁護士会としても初めてやることですので、皆さんに助けていただきたいということで、いろんなところでご協力をお願いしています。
 その他の活動としても、弁護士会が外に出て、直接この問題を知ってもらおうということで、今年1月から神戸、姫路、尼崎で街頭宣伝もやってきました。
 武村 私も神戸駅前で宣伝されているのを見かけたことがあります。「特定秘密保護法」も、今回の集会のテーマなんですね。
 吉田 そうです。私は、この「特定秘密保護法」が制定された後に、「集団的自衛権の行使容認」の閣議決定をしたという順番にも意味があるように思っています。
 すでに、一昨年の12月に特定秘密保護法が成立しました。「何が秘密か、それは秘密です」「いつまで秘密か、それも秘密です」と言われたように、国民が知らないと判断のできない情報を、政府が秘密に指定できるようになっています。
 国民が知らない状況を作り出すことのできる環境を整備し、いよいよ、日本が攻撃されていなくても海外で武力行使をする、集団的自衛権を行使できる環境を作ろうと、現在の国会で、安全保障法制が審議されているということですね。国の情報を知る権利を奪っておいて、事実を知らせないままに、海外で武力行使ができる状況を作ることができる法律を検討しているのではないか。「民主主義」を無視したことが行われるのではないかと、とても危険なことだと思っています。
軍事行動に開業医も徴用

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聞き手
武村 義人副理事長

 武村 国会で議論前に、首相がアメリカに行って集団的自衛権の行使が可能と約束してくるというのも、日本の「民主主義」を無視していますね。特定秘密保護法では、適性評価制度に対して日本精神神経学会から「(患者の)医療情報の提供義務は医学・医療の根本原則(守秘義務)を破壊する」とする見解が出されました。われわれ医師への影響はどうなるのでしょうか。
 吉田 他国に対する武力攻撃が発生し日本の存立が脅かされる明白な危険がある「存立危機事態」と政府が判断すれば、日本が攻められなくとも、自衛隊は海外でも武力行使・攻撃が可能ともされています。その結果、日本から攻撃を受けた相手国が日本へ反撃するという状況が現実に危惧されます。
 そうなれば武力攻撃事態法などからなる「有事法制」がすでに整備されていますから医療関係者への徴用もありうることになります。開業医の皆さんが、地域の患者さんは診ないで海外や国内の傷病兵の治療のために軍事行動に加担させられる、ということが法律上は可能になります。
 武村 これまで「戦闘地域」ではなく「非戦闘地域」での後方支援ならばよいという考えがありましたが、戦闘地域以外の後方支援という設定自体が成り立つのでしょうか。
 吉田 現代の戦争は、「無人爆撃機」が飛行したり、ミサイルなどが前線・後方に関係なく飛来します。どこまでが非戦闘地域なのか、どこからが戦闘地域なのかは、日々刻々と変わり、前線も後方も、明確に線引きできない時代に入っています。
 そのような情勢の中で、今回、審議されている安全保障法制では、「切れ目のない対応」が必要だと言っているわけです。本当に、切れ目のない対応をするのであれば、自衛隊が対応する活動内容も増えるでしょうし、自衛隊の活動範囲に関する判断がますます困難になってきます。停戦後の治安維持活動や在外邦人の救出活動などでは、自衛隊は任務を妨害する者に対し、武器を使用できるとされていますから、それが引き金となって戦闘が始まるかもしれない危険な任務を担うことになります。
 また、弾薬の提供などの兵站(へいたん)活動や遭難した外国人兵士の捜索など、相手国から見れば、自衛隊の行為は「敵国に加担する戦争行為」と評価される危険性が出てくると思います。
 武村 「戦争になれば、自衛隊に死者が出ることはやむをえない」となってしまいますね。
 吉田 戦闘で死傷するだけではありません。今でも海外派兵の結果だと言われていますが、自衛隊員の自殺率はとても高いんですね。戦闘で負傷しなくても、任務の過酷さからPTSD(心的外傷後ストレス傷害)など精神疾患に苦しむのではないかと思います。「日本が攻められてもいないのに外国で戦闘行為に接する任務では、身体や精神がもたない」と言って、自衛隊員の退職者が相次ぎ、なり手もいなくなるのではないでしょうか。
家族が「戦場に行く」リアルなイメージを
 武村 集会を呼びかけられてから、市民の方々からの反応はいかがですか。
 吉田 特に女性の方々の反応がいいです。自分の子どもの問題として身近に感じるからかもしれませんね。もちろん「イクメン」の男性の反応もいいです(笑)。気になるのは中高年の男性です。法律などの理屈の問題も大事ですが、それだけではなく、自衛隊員や家族のことも考えてもらいたいです。自分の家族が、日本が攻められてもいないのに戦場に行く、もしくは戦場に近い場所に行く、リアルな現実をイメージしてほしいです。
 武村 弁護士会の意見には重いものがありますね。当会でも勉強会をしたいと思います。
 吉田 集団的自衛権の問題以外では、今の憲法では大規模災害に対応する緊急事態条項がないから改憲しようという議論が自民党などから出されています。阪神・淡路大震災を経験した被災地の弁護士会として、自然災害を「ダシ」にしたような改憲は許されないと考え、すでに声明を出しています。
 武村 本日は、ありがとうございました。集会開催日は当会では総会を行っておりますので残念ながら参加できませんが、家族や医院のスタッフの方には、ぜひ集会に出かけていただけたらと思います。成功を祈念しております。

1785_04.jpg「集団的自衛権行使容認」
「特定秘密保護法」
反対!

兵庫大集会・パレード
日 時 6月21日(日)14時〜
会 場 神戸三宮 東遊園地
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