兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2016年1月25日(1803号) ピックアップニュース

1・17に各地で記念行事 巨大災害の課題共有
阪神・淡路大震災21年メモリアル

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300人が阪神・淡路大震災の課題を共有し、東日本大震災被災地との連帯を示したメモリアル集会(1月17日、神戸勤労会館)

 阪神・淡路大震災から21年を迎えた1月17日、各地で追悼行事が行われた。協会役員も参加し、犠牲者を追悼するとともに、震災の教訓・課題を確認した。借り上げ復興住宅からの転居の強要や「創造的復興」の名のもと進められた大型再開発の失敗、建物解体などによるアスベスト被害など、いまだ多数の課題が残されたまま。住民によりそった政策が求められている。


談話
阪神・淡路大震災21年に思う
理事長  西山 裕康
1803_03.jpg  その時私はベッドで寝ていて、突然の衝撃に目覚めた。最初は地震とは思わなかったが、とっさに横で寝ていた子どもに布団を被せてじっとしていた。暗い中、すぐに近所の人が寝巻姿に毛布で訪れ、何事かと思ったら、しばらく診療所に避難させてほしいとのこと。20人前後が明るくなるまで待合室で待機した。けが人も数人訪れたが、断水のため一度手術器具を使えばその後は何もできなかった。幸い震源地から離れていたため、被害は深刻ではなかった。
 震災では6430人余りが命を失い、家屋の全壊10万棟以上、焼失7500棟。一瞬にして親兄弟、夫や妻、子ども、友だちを失い、幸い命が助かっても帰る家がない。震災は生活のすべてをも奪った。皆で過ごした部屋、食事をしたテーブル、勉強机やノート、お気に入りの服、家族との写真や遊んだおもちゃ。
 寒いさなか、30万人以上が避難所生活を強いられた。長く苦しい生活のなかで、先の計画が何も立たない。私であったら...ただただ幸運だっただけとしか言いようがない。震災遺児も600人以上。当時5歳だった子が今は26歳、15歳の中学生は36歳。それぞれが21年間を過ごし、全体の高齢化も進んでいる。
 被災した人々が当時を忘れることはないだろう。誰にでも忘れたくない幸せな思い出があり、徐々に記憶が薄れていくのも怖い。だが、鮮明な記憶も時にはつらく受け入れがたい。被災した人々に対して、今、私たちは何ができるのか。
 協会は、震災直後から現在まで、被災者の「生活復興」を求めて、多岐にわたる活動を続けてきた。被災の中心にいた方々、周辺の人々、それぞれに良かった点、反省・改善すべき点、今でも課題の残る点もある。
 「創造的復興」のもと、医療の営利化や混合診療解禁につながる可能性が高い、神戸医療産業都市がつくられ、20年の契約期間満了を迎える借り上げ復興住宅では、高齢の入居者が退去を迫られている。
 私たちの阪神・淡路大震災の教訓や課題の蓄積は協会の糧となり、東日本大震災をはじめ、その後の他地域での災害においても一定の役割を果たし、またこれからも大きな役割を果たすだろう。
 強調すべきは、資本主義の市場原理を災害復興にも無理強いする「創造的復興」の美辞麗句に隠された、弱者切り捨ての「ショック・ドクトリン」を許してはならない点である。これらを後世、他の地域に伝え、将来に備えることは、私たちの社会的責任でもある。今一度努力したい。

阪神・淡路大震災から21年
震災は終わっていない

 阪神・淡路大震災21年に関連して各地で行われた行事と、昨年末に行われた借り上げ復興住宅問題記者会見の模様を掲載する。
借り上げ復興住宅問題で無料健康・法律相談会
1月18日から7回

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記者会見する武村副理事長(左端)ら

 自治体が民間開発事業者や都市再生機構などから借りて、被災者に提供してきた「借り上げ復興住宅」の住民が、20年を年限として退去を迫られている問題が喫緊の課題となっている。
 県が継続入居の可否判定結果を12月19日から通知したことに対し、協会は借上復興住宅弁護団の要請を受け、兵庫県民主医療機関連合会とともに、県営・市営14団地の入居者を対象として、1月18日から、7回の無料健康相談・法律相談会を開催することを、12月16日に県庁記者クラブで発表した。協会から武村義人副理事長が参加した。
 入居を継続できるかの判定について、県当局は、年齢や要介護状態などの配慮要件を入居者全員から自主申告させた上で、外部委員会が個別事情を判定するとし、入居者141世帯のうち、継続入居を申請した87世帯について85世帯を「継続入居可」としたと発表。
 ただし、弁護団は、申請をあきらめた入居者がいる可能性や、煩雑な書類収集・作成負担が原因で、健康に問題があっても継続不可とされている場合があるとみており、判定への不服申請が可能な期間に医師・看護師、弁護士が援助する健康・法律相談会を行う。
 会見で武村副理事長は、入居判定要件とされる要介護度は実態より軽く判定される傾向にあること、認知症の判定などは特に継続的観察が必要で難しいこと、高齢者が意に反して転居を強要された場合心理的・身体的負担が非常に大きいことをあげ、入居者を守るきめ細やかな相談体制が必要であると強調した。
 相談会は、1月18日から31日にかけて、神戸市内・明石市内で開催される。お問い合わせは、電話078-393−1801まで

〈メモリアル集会−東日本大震災被災者に想いを寄せて〉
住民本位の復興 必ず実現を

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福島原発事故で全町民が避難を続けている浪江町の馬場町長が講演

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住江保団連会長が「兵庫県民の運動が被災者生活再建支援法を成立させた」とあいさつ

 神戸市勤労会館の「阪神・淡路大震災21年メモリアル集会」には、300人が参加。協会・保団連から住江憲勇保団連会長、武村義人兵庫協会副理事長、高本英司大阪協会理事長、小澤力大阪歯科協会理事長らが参加した。主催は、阪神・淡路大震災救援・復興兵庫県民会議(復興県民会議、合志至誠兵庫協会名誉理事長が代表委員)。
 住江会長が、全国災対連代表世話人としてあいさつ。「21年経つが、借り上げ住宅からの追い出しや災害援護資金・災害復旧融資の返済、孤独死など、課題が残っている。その中でも、兵庫県の被災者・県民の不屈の運動が大きな成果につながった」と、住宅再建資金支給などを定めた被災者生活再建支援法が、全国の被災者の生活再建に役立っていると感謝の言葉を述べた。
福島県浪江町長が記念講演
風化させられつつある原発事故
 記念講演では、「浪江町が受けた原発災害と現状」と題して、福島県浪江町の馬場有(たもつ)町長が講演した。
 浪江町は、福島第一原発により全域が避難指示区域となっている。馬場町長は、阪神・淡路大震災との違いとして、町民全員が広域分散避難して戻れない状況があるとし、このような状況にもかかわらず、すでに原発事故が風化させられつつあると懸念を示した。
 事故直後、避難のため4回も役場を移転したが、官邸から指示がなく、自治体で独自に判断し、対応しなければならなかったこと、東京電力と「通報連絡協定」を結んでいたが全く情報提供されなかったことなど、国や東京電力の防災計画や安全対策の不備を指摘。事故原因の究明・検証がされないまま、原発再稼働が強引に進められていると批判した。
 現在は各地での交流会、タブレット端末での情報発信などで町民のつながりを維持できるよう工夫している。町に戻れる日に備え、再生可能エネルギーやハウス栽培など新しい事業を実施することで、町の復興を実現したいと語った。
 最後に、次の世代に防災教育・教訓を伝えることが、われわれ大人の責任だと強く訴えた。
災害援護資金返済免除が拡大
 復興県民会議の岩田伸彦事務局長が活動報告し、阪神・淡路大震災後の「公的支援」「個人補償」を求める運動のなかで、被災者生活再建支援法を成立させ、その後の運動の結果、年齢・収入など制限の撤廃、支給額引き上げを実現させたものの、阪神・淡路大震災被災者には遡及適用されておらず、見直しが実現していないとした。
 被災者に貸し付けられた災害援護資金については、長年の運動により、少額返済で「無資力」条件に該当する場合など、返済免除の要件が拡大され、大きな前進があったと述べた。
借り上げ復興住宅希望者は継続入居を
 「借り上げ復興住宅」問題について、借り上げ住宅協議会運営委員の段野太一氏が報告。20年の契約期限が迫るなか、伊丹市・宝塚市・尼崎市は継続入居を認める一方、兵庫県・神戸市・西宮市は入居者に転居を求めている。
 段野氏は、転居の強要は、入居者が避難所・仮設住宅と何度も転居を強いられた後、ようやく築き上げたコミュニティの破壊になると指摘。入居者に契約期限を知らせていなかった証拠として神戸市の審議会資料を示し、入居継続を求める県弁護士会の意見書なども紹介して、希望者全員の継続入居を実現したいとした。
〈長田メモリアルウォーク〉
巨大再開発でにぎわい戻らない

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住民に寄り添う行政が必要と発言する松岡先生

 阪神・淡路大震災で発生した大規模火災により焼け野原となった長田区の21年目の姿を知ってもらおうと「21年目の長田 ひと、街、くらしメモリアルウォークと交流」が行われた。115人が参加し、協会から松岡泰夫評議員が参加した。協会神戸支部も参加する震災復興長田の会の主催。
 参加者は、巨大な再開発事業で商業ビル、マンションが立ち並ぶものの、テナントには空きが目立ち、人口も震災前と比べ減り、かつてのにぎわいとはほど遠い街の姿を見学した。
 地区内に最大1000人の職員が勤務する新庁舎ビル建設計画を、県と神戸市が打ち出したことに対し、参加者から「地元の商店街で買い物をするかは疑問」などの意見が出された。
 感想交流では、松岡先生が「慣れ親しんだ長田の街を歩き、改めて思うことは、街はにぎわいを取り戻していないことだ。地域住民に寄り添わない行政の姿勢が見て取れた。市民に暖かい行政に変えなくてはならない」と感想を述べた。
〈市民追悼のつどい〉
真の復興実現まで追悼つづける

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声明(しょうみょう)や琵琶の演奏で法要

 震災犠牲者の追悼式が、諏訪山ビーナスブリッジと神戸市勤労会館で行われた。2カ所で約220人が集まり、震災被災者の生活復興を願ってつくられた「神戸・希望の鐘」をつき、黙祷を捧げた。主催は阪神・淡路大震災被災者ネットワークなどでつくる実行委員会。
 実行委員長で、被災者の巡回相談を21年間続けている安田秋成氏が「21年経っても、家族を亡くしたことを苦しみ続けている人がいる。二度とこのようなことを繰り返さないよう、本当に市民が安心して暮らせる社会になるまで、追悼を続けよう」とあいさつした。
パンフレット
神戸空港「10年検証」 震災復興「希望の星」から運営権売却まで
1803_09.jpg  阪神・淡路大震災復興の象徴として巨額の税金が投じられた神戸空港事業の10年を検証する一冊。神戸支部会員には、月刊保団連2月号に同封してお届けします。希望者には無料でお届けします。

発行:「ストップ!神戸空港」の会。ご注文は、電話078-393−1807 協会事務局・角屋まで
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