兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2016年8月25日(1822号) ピックアップニュース

主張
アベノミクスの破綻が明確に
今こそ社会保障を充実させ富の再分配を

 8月2日、石原伸晃経済再生担当大臣は今年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を閣議に提出した。企業の経常利益が拡大しているものの「消費や設備投資などの支出の増加に十分につながっていない」とし、子育て世代や60歳代前半を中心に「国内需要が力強さを欠いている」と判断した。これは事実上アベノミクスが描いた経済の好循環が起きていないことを担当大臣が認めたものだ。
 しかし、7月の参議院選挙後、安倍首相は第3次安倍再改造内閣を組閣し、今後いっそうアベノミクスのエンジンをふかすとしている。閣議決定された「未来への投資を実現する」と銘打った28兆円規模の経済対策の実態は、旧態依然とした公共事業への投資ばかりである。リニア新幹線計画の前倒し、整備新幹線の建設加速、「爆買い」外国人誘致のため豪華客船が寄港できる港づくりなど、日常の国民生活とはかけ離れたものばかりで、国民の消費力を回復するメニューは皆無だ。28兆円という金額はサプライズを演出するためのもので、中身を精査すると、財政投融資やさまざまな数字を足して膨らませたものだ。今年度補正予算における政府支出は4兆円で、しかもそのうち3兆円は建設国債で、アベノミクスの限界が指摘されるなか、経済成長の筋道は見いだせていない。
 一方で厚生労働省は、社会保障審議会医療保険部会を開き、昨年の骨太方針が示した「経済・財政再生計画」の実施に向けて具体的な検討に取りかかった。この内容は私たちが取り組む「ストップ!患者負担増」署名で示した、(1)70歳以上の高額療養費制度の月額負担上限の引き上げ、(2)75歳以上の窓口負担増などである。特に高額療養費制度については今年度中に結論を出す方向だ。参議院選挙が終わった今、このことを国民に知らせ、運動を強めていく必要がある。
 社会保障制度については、世論に押された形で政府も保育士、介護職の処遇改善策を打ち出さざるを得なくなったが、小手先だけの政策に終わることなく根本的に国の責任で制度そのものを充実させることが求められる。安心安全な医療・介護・保育などを提供することは、国民にとって豊かな生活を得られるだけでなく、それに携わる労働者の待遇改善につながり、経済の発展にも大きく寄与する。このことは2012年の厚生労働白書にも明示されている。
 社会保障は富の再分配によって景気の好循環にも大きな力を発揮する。アベノミクスの破綻が明らかとなり、消費の低迷がみられる今こそ、社会保障を充実させ、富の再分配を行うことが重要である。そのためには正規労働者を増やし、賃金と社会保険料で企業負担を増やすことが必要だ。
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