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兵庫保険医新聞

2017年4月25日(1844号) ピックアップニュース

会員インタビュー 「子育てのまち」の医師として
相生市・むらせ赤ちゃん こどもクリニック院長 村瀬 真紀先生

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【むらせ まさのり】1961年生。88年神戸大学医学部卒業、兵庫県立こども病院新生児科、加古川市民病院小児科、市立西脇病院小児科、神戸大学病院母子センター、たつの市民病院小児科、国際医療福祉大学小児科教授を経て、2016年相生市にむらせ赤ちゃんこどもクリニックを開設。専門は新生児医療、小児循環器

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 相生市の村瀬真紀先生が昨年10月、相生市内で唯一の小児科専門医療機関として「むらせ赤ちゃんこどもクリニック」を開業した。新規開業にあたっての抱負について、宗実琴子姫路・西播支部長がインタビューした。

市内唯一の小児科専門医院
 宗実 本日はよろしくお願いします。先生は昨年10月にご開業されましたが、相生市で開業されたのには何か理由があるのですか。
 村瀬 自分は相生市近隣の太子町で生まれ育ち、勤務医生活のほとんどを播磨の市中病院で過ごしてきました。そんな中、市内に小児科専門クリニックがないことで悩んでおられた相生市医師会長の魚橋武司先生の存在が大きかったですね。この医院の建物などの建設にあたっても魚橋先生に非常にご尽力いただきました。
 宗実 相生市内に小児科専門医療機関をとの並々ならぬ魚橋先生の熱意を感じます。実際に開業してみていかがですか?
 村瀬 相生市はしばらくの間小児科専門医がおらず、そのためか子どもの病気について基本的なことを知らない親御さんが多くいらっしゃるように感じます。例えば、熱を出した時、大人は寒かろうと厚着にしたがりますが、子どもは熱がこもりやすいので薄着にしなければなりません。今後、親御さんに、こういった基本的な処置から、病気の時に何を食べさせればいいのか、また育児のアドバイスも広めていきたいですね。そしてゆくゆくは、最新の小児科医療を、それぞれの子どもにふさわしい形で提供できたらと思っています。今まで受けてこられた診察や処方と少し異なる面も出てくるかもしれませんが、子どもさん一人ひとりのためがんばっていきたいと思います。
 宗実 日本の医療は日々新しくなっていますが、特に小児科ではそれが顕著で、昔は当たり前だったけれども、今では全然違うこともあったりしますね。
 村瀬 ええ、自分が医者になった頃は、小児科医でも、風邪で熱があって、喉が赤い児が外来に来ると、ほぼ必ず抗生物質を処方していました。それが今の小児科では、喉が赤い程度ではまず抗生物質など出さないことが常識となっています。でも、相生の親御さんは、いまだに風邪というと抗生物質を希望される方が多いですね。
 宗実 やはり親は子どものことが心配ですから、早く良くなってほしいと思って薬をお願いされるのでしょうね。
 村瀬 そうですね。しかし、現在発熱を伴う風邪のほとんどは、ウィルス性のものであることは常識であり、このような児には抗生物質は何の効果も持ちません。例えば、昔は混合感染を予防する、といった理由がまことしやかに言われましたが、そのような効果も全くないことは、海外の臨床研究が証明してしまっています。一方で抗生物質は、子どもに最もアレルギーを起こす薬剤であり、その中にはまれに命に関わるような重篤な合併症をひきおこすものも含まれます。また世界的な研究では、抗生物質だけでなく、せき止めや、鼻汁止め、去痰剤といった感冒薬も、ウィルス性の風邪には全く不要である、というデータすら出ています。私も、まだそこまでの医療には踏み切れていませんが、とにかく、薬や注射、検査などができるだけ少ない医療が、子どもにとっていい医療であることは間違いないと思います。
 宗実 確かに、私も子どもも診ていますが、注射や薬一つとっても、一苦労です。
 村瀬 そうです。だから、薬や注射は少しでも減らそう、最小限に、といつも注意しています。
研修医・勤務医時代に学んだこと
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聞き手 宗実琴子
姫路・西播支部長

 宗実 そういった治療方針は言うのは簡単ですが、難しくないですか。
 村瀬 そうですね。私がそう考えるようになったのは、研修先の病院での体験がきっかけにあるかもしれません。赤ちゃんの診察を効率的にしたいとの思いから、入院してきた赤ちゃんに、診察もせずにいきなり採血をしようとしたところ、指導医から「必要な検査だけに絞り、赤ちゃんに針を刺すのは最小限に」とこっぴどく叱られました。その先生から、患者さんの様子、兆候を一人ひとりに合わせて注意深く診ることの大切さに気づかされ、もともとは研究の道を目指していたのですが、臨床へと方向転換しました。
 宗実 とても大切なことですね。その後はいろいろな病院に勤務されていますね。
 村瀬 加古川市民病院に長くいたのですが、その時私の上司にあたる石田明人先生(現神戸こども初期急病センター所長)の診療の姿勢に大きな影響を受けました。新生児は当然しゃべることはできませんから、赤ちゃんの体調や治療の進み具合を知るためには、顔色や息づかいなどのわずかなサインを見逃さないようにしないといけません。しかも、少しでも見落としがあるとたとえ些細なことでも、すぐに命に関わります。今は検査や診断など医療体制の整備が進んできましたが、一昔前まで新生児はごく一部の限られた医師にしか診ることができない世界でした。ですが石田先生は、重症の赤ちゃんがいれば何日も泊まり込むのはもちろん、何日も赤ちゃんの保育器の前から一歩も動かず、体調に変化がないか赤ちゃんの様子を見守り続けていました。その先生の姿と、手のひらに乗るくらいの小さな子が懸命に生きようとしているのを見て、私も小児科医として大きな影響を受けました。
小児医療充実へ診療報酬改善を
 宗実 市内にはほかに小児科がないということですが、重症の患者さんなどクリニックで対応が難しい時はどうされているのですか。
 村瀬 姫路赤十字病院や赤穂市民病院、赤穂中央病院へお願いしています。治療のために具合の悪い赤ちゃんを連れて、姫路市や赤穂市まではるばる受診してもらわなければならず、本当に申し訳なく感じます。
 宗実 おっしゃる通りですね。
 村瀬 しかし、逆に良い点もあります。例えば母乳率は全国的にも地域差が大きいのですが、相生市は高いように思いますね。私も診察時に母乳指導を積極的にしていきたいです。しかし、患者さん、親御さんへの指導はどうしても時間がかかります。
 宗実 昨年の改定で小児かかりつけ診療料が新設されましたが、もっときちんと評価されるようになってほしいですね。小児医療を充実させるためにも、診療報酬の抜本的引き上げを求める保険医協会の運動が重要です。
「子育て日本一の町」づくりに力を尽くす
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インタビューを終えて、医院の受付前で
記念撮影

 宗実 最後にこれからの抱負をお願いします。
 村瀬 私は昔、相生市の隣のたつの市の御津病院(現たつの市民病院)で3年間勤務をしていましたが、相生市は2011年に「子育て応援都市宣言」をするなど、子育てのしやすい町を目指していることで有名でした。特に、こども医療費の窓口負担無料化を県下でもいち早く実現していて、とてもうらやましく思ったことをよく覚えています。医療費以外にも給食費無料、保育料軽減など、相生市の施策は充実しています。だからこそ、これまで小児医療が無料でも小児科専門の医療機関がなかったことは、市としては残念な思いもおありだったかもしれません。赤ちゃんこどもクリニックの院長として、市が目指す「子育て日本一の町」の実現にわずかながらでも尽力できればと考えています。
 宗実 先生の熱い思いを頼もしく思います。これからの先生のご奮闘を心より願っています。本日はありがとうございました。
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