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兵庫保険医新聞

2017年9月25日(1857号) ピックアップニュース

会員インタビュー 西宮市 島田豊実先生
全ての子どもに必要な歯科医療と教育を

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西宮市・シマダデンタルクリニック
島田 豊実先生

【しまだ とよみ】1963年生まれ。1988年東京薬科大学薬学部卒業、1992年大阪大学歯学部卒業。1996年大阪大学歯学部歯科臨床系博士課程修了後、1997年大阪大学歯学部口腔解剖学第二講座に移籍。2001年シマダデンタルクリニックを宝塚市に開設し、2012年西宮市に移設、現在に至る

 児童養護施設の子どもの大学進学率は1割にすぎず、全国平均の5割と大きな差がある。島田豊実先生(西宮市・シマダデンタルクリニック院長)は、児童養護施設の子どもたちに対して、ボランティアで歯科矯正治療と学習支援をしている。足立了平副理事長(神戸常盤大学短期大学部口腔保健学科教授)が取り組みについて話を伺った。

阪神・淡路大震災がボランティアのきっかけ
 足立 先生は児童養護施設の子どもたちにボランティアで歯科矯正治療や予防指導をされているとお聞きました。非常に素晴らしい取り組みをされていると思いますが、始められたきっかけを教えてください。
 島田 阪神・淡路大震災です。避難所などで復興しようとがんばる被災者を間近で見て、自分も何かやらないといけない、歯科矯正を専門に勉強してきた自分でないとできないことは何だろうかと考え始めました。アルバイトをしていた歯科医院でたまたま施設の子どもを数回診察した際、その子が最終回に深々とおじぎをして帰ったことが心に残りました。お金のこともあったのか、継続的な治療が必要だったにも関わらずその子は二度と来院しませんでした。
 宝塚市で開業した際にもその子のことが忘れられず、子どもたちが歯並びによるコンプレックスを生じさせることなく、社会で立派な成人として活躍できるよう役に立ちたいと考え、施設の子どもたちへの歯科矯正治療と予防のボランティアを始めるようになりました。
 足立 歯科矯正は保険の対象ではなく自費治療ですので、非常に高額になるのではないですか。
 島田 医院からの持ち出しで何とか成り立たせています。学校健診で歯科矯正の必要性を指摘されても、都道府県ならびに政令指定都市からの補助金(措置費)ではまかないきれないそうです。近所の施設でボランティアを申し出ると、歯並びに問題のある子どもを数人紹介してくれるようになりました。
 ここでの経験を活かして、診療所を西宮市に移転した際、もっと多くの子どもたちを受け入れることを決心し、範囲を広げて兵庫県内約30カ所の施設を訪問し、ボランティアを申し出ました。その後、近畿圏内約100カ所の児童養護施設に対しても案内しています。
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聞き手 足立了平副理事長

取り組みを評価学会奨励賞を受賞
 足立 先生はこの活動で「日本社会貢献学会賞」を受賞されたとお聞きしました。
 島田 ある施設長の方から「先生のしていることを世の中に知ってもらい、多くの歯科医師の方が参加していただけるように学会などでよびかけてほしい」とのお話があり、ちょうど新聞に公募されていた「日本社会貢献学会賞」に応募したところ、奨励賞を頂戴しました。この賞は「地域で先進的な社会貢献活動をしている個人や団体に対し、社会貢献学会として表彰し、その活動の評価や活動記録を公表することにより、社会貢献活動の意義と活動を周知する」というものです。
 受賞は国際歯学会「ピエール・フォシャール・アカデミー」の会報に掲載され、活動を紹介していただき、少しですが世の中に知っていただくことができました。
 良くない咬み合わせを歯科矯正治療で改善することで脳の血流が良くなると共に、脳内環境が変化してきて、心や身体全体に変化を及ぼすと考えています。歯科矯正治療を必要とする子どもはまだまだ存在しており、より多くの歯科医師の先生にご支援をお願いできればありがたいです。
大学進学へ学習もサポート
 足立 先生は歯科矯正ボランティアとともに、子どもたちへの学習支援をされていますね。
 島田 はい。歯科矯正治療をする中で、施設で暮らす高校2年生の女子生徒から「大学に進学したい」と言われました。なんとかしてあげたいと思い、地域共生の観点から、さまざまな職種の方で各科目を分担し、施設や診療所の一室を使って学習支援を始めました。この子とは、将来どうしたいか十分に話し合いもしました。彼女は看護大学に進学することを決め、看護師と保健師の資格を取り、卒業後は神戸市内の公的病院で働いています。
 彼女の姿を見て、「自分も進学して、社会で活躍できるのでは」と思う子が出てきました。工業高校卒業後に建築会社にいったん就職したものの退職した男子が「大学に進学したいが、どうすればいいのか教えてほしい」と転がり込んできました。私を含め多くのボランティアを募ってサポートした結果、その子は看護大学に入学し、今は大学院進学をめざして勉強を続けています。
 足立 十分な教育の機会を得ることは子どもの権利です。しかし、全国の高校生の大学・短大の進学率は5割を超えている中、施設の子どもは1割にとどまっています。
 島田 残念ながら親の経済力が子どもの能力に影響を与えてしまう時代です。学習の権利を保障することで、その子どもが将来への希望と自分の夢を実現させる力を獲得することにつながり、また社会に貢献することができます。
 実際、これまでに学習支援してきた子どもたちは「これで自立できる。夢は叶えられるんだ」「私がしてもらったことを生かしていきたい」「自分も役に立つ人間になりたい」と言っています。
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子どもの貧困をなくすにはどうすればいいのか語り合った

十分な教育届けて貧困の連鎖断ち切る
 足立 今後の抱負をお聞かせください。
 島田 歯科矯正と学習支援のボランティアを続けていきたいと考えています。NHKニュース、毎日放送「ちちんぷいぷい」、神戸新聞、毎日新聞で私の活動を取り上げていただきました。NHKでは、協会が行った学校歯科治療調査結果の報道と共に全国に放送され、ここ数カ月で多くの方に活動を知っていただけたのではと思っています。
 十分な教育を受ける機会を得られずに、低収入の仕事にしか就けない施設の子どもがたくさんいます。こういう貧困の連鎖を断ち切って、子どもたちが社会で活躍できるサポートをしていきたい。同時に私個人の活動にとどめず、国や行政による施策につなげていければと考えています。
 足立 先生のますますのご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。
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