兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2018年4月25日(1876号) ピックアップニュース

会員インタビュー 〜グループホームでハチミツ作り〜
高齢者に食の楽しみいつまでも
垂水区 藤井内科クリニック 藤井 芳夫先生

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【ふじい よしお】1954年生。79年神戸大学医学部卒業、81年同大学院、85年学位取得。89年NIH(米国国立衛生研究所)へ留学、帰国後91年国立療養所兵庫中央病院内科医長を経て、98年開業。2008年介護付有料老人ホームMボヌール、2011年認知症高齢者グループホームMボヌール設立

 ターミナル期の高齢者にも食べる楽しみを感じてもらいたい−−。ホームの入居者に提供するため、診察の傍らハチミツ作りに取り組んでいる、垂水区・藤井内科クリニックの藤井芳夫先生。ハチミツ作りを始めた理由などについて、ミツバチを飼育しているグループホームで、宮武博明副理事長がインタビューした。

藤井 これがここの屋上で採れたハチミツです。どうぞ召し上がってください。
宮武 ありがとうございます。甘みの中に花の風味も感じられてとてもおいしいです。花のミツからどうやってこんなハチミツができるのですか。
藤井 ハチミツは花のミツが集められたものだと思っている人が多いと思いますが、正しくは、ミツバチが体内の酵素の働きで花のミツ(ショ糖)をブドウ糖と果糖に分解し、翅で扇いで乾かして作られます。水分が蒸発して濃縮されている分、砂糖よりも味や甘みも濃く感じるというわけです。
ミツバチ社会は民主主義
宮武 ミツバチたちはどのようなくらしをしているのですか。
藤井 巣の中には1匹の女王バチ、少数のオスバチ、そして3万匹ほどの働きバチがいて、一つのファミリーを形成しています。女王バチは毎日1500〜2000個の卵を産み続けます。ミツバチの生殖は変わっていて、未受精卵でも成長し、オスバチになります。オスバチはミツを集めたりはせずに、生殖行動だけで一生を終えます。
 一方、受精卵はすべてメスになりますが、そのうち「王台」という女王バチを育てる専用のスペースに産まれ、上質なローヤルゼリーをえさに育てられたものだけが女王バチに成長します。他は寿命1〜2カ月の働きバチとなります。ですから働きバチはすべてメスです。
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聞き手 宮武博明副理事長

 女王バチというと専制的なイメージを持つかもしれませんが、ファミリーの決定は、働きバチの民主主義に基づいて決められます。例えば、花のミツを集めるときも、働きバチたちは、それぞれが見つけた花の位置を「8の字ダンス」を踊って、プレゼンします。そのプレゼンを受けて、働きバチみんなでどの花のミツを集めに行くかを協議し、決定しているのです。
 また女王バチの老化や病気、産卵能力低下などに働きバチが不満を持つと、協議をして次代の女王バチを育てるべきかを決めます。そして、新たな女王バチを育てることになると王台を作ります。そこに産み付けられた卵が、成長して新たな女王バチとなります。
宮武 人間も見習うところが多いかもしれませんね。
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屋上にある巣箱のまわりには無数のミツバチが飛び交う

「季節限定」のハチミツも
宮武 実際にミツバチを飼育しているところを見せていただけるとのことで、グループホームの屋上にやってきました。すごくたくさんのミツバチですが近くに花は見当たりません。ミツバチはどこからミツを集めてくるのですか。
藤井 周辺2㎞以内の範囲に咲いている花から集めてきます。時期を短く区切ることで、先ほど召し上がっていただいたアベリアのハチミツのように、その季節ごとに特有の味のするハチミツを集めることができます。貯まったら巣板ごと遠心分離機にかけて、中のハチミツを取り出します。山桜など短期間しか咲かない花のハチミツを集められたときはうれしいですね。
ハチミツとより良い嚥下食
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藤井先生自作のハチミツ。いざ試食!

宮武 先生がハチミツ作りを始めたきっかけは何だったのでしょうか。
藤井 入居者の食事です。ターミナル期に近づいて、食事を受け付けなくなっていてもハチミツ水だけは口にする方が多くおられました。ちょうどその頃に、銀座で養蜂して作ったハチミツからスイーツを作っている事例をうかがって、垂水でもできるのではないかと思って始め、入居者に召し上がっていただけるようになりました。養蜂を始めるにあたっては、俵養蜂場の春井勝さんにご教授いただきました。
 ハチミツは甘みや味も濃いので、高齢者の食欲を刺激します。他にも、栄養価が高い、適度なとろみがあり、嚥下機能が落ちた高齢者も誤嚥の危険性が少ないなどのメリットがあります。高齢者にこそ勧めたい食べ物ですね。
宮武 確かに私も老人ホームの入居者を診ていますが、味の濃い飲み物、サイダーやコーラなどを好まれる傾向にありますね。
藤井 そうした経験から、ターミナル期の高齢者の食欲が低下するのは、衰弱以外にも、食べ物の味や見栄えの問題があるのではと思うようになりました。増粘剤を加えた一般的な嚥下食は見た目も悪く、味や風味も落ちますからね。
 だったら嚥下食を、とろみの強い、高栄養なスープにすればよいのではと考えました。芦屋で「メゾン・ド・タカ」というフレンチレストランの料理長をされる傍ら、嚥下食の研究をされている騠山英紀さんにご協力いただいて、増粘剤を加えず、食材の風味や味を損なわないけれども、粘り気を強くした独自の嚥下スープを月に1回、提供いただいています。騠山シェフも来られるたびに、入居者の反応を見て味を工夫されるなど、研究を重ねておられます。
 これがその一つのニンジンスープです。いかがですか。
宮武 今までの嚥下食とは全く違う、レストランの味ですね。これだけおいしければ、体力の落ちた高齢者の方も口にできるでしょうね。
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インタビュー終了後に記念撮影。「おいしかったです!」

ハチミツで食の楽しみずっと
宮武 最後に、先生の今後の目標をお聞かせください。
藤井 おいしく食べる楽しみは生きる楽しみにつながりますから、高齢者の方が少しでも長く食を楽しめられるよう、私も春井さんや騠山さんの力を借りながら、たゆまぬ努力を続けたいと思っています。手作りのハチミツを提供し続けることで、一人でも多くの高齢者に食べる楽しみを思い出してもらえればと思っています。
宮武 新しい嚥下食やハチミツがより多くの人に普及しますよう、先生のこれからのご活躍を願っています。本日はどうもありがとうございました。

 藤井先生のハチミツは有料老人ホームMボヌールにて販売しています。ご希望の方は、垂水区・有料老人ホームMボヌール(電話078-707−7008)までお問い合わせください。
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