兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2018年6月05日(1879号) ピックアップニュース

政策解説 県単位化で国保はどうなる
協会政策部

 4月から市町の国民健康保険が新しい仕組みに変わった。県の動向と、変化の大きい神戸市国保について解説する。当面の保険料は、県全体では引き下げが見込まれるが、神戸市は独自控除の一部廃止で、対象世帯の保険料が引き上げられる。また、国保の県単位化の狙いは国保医療費を抑制することだが、診療報酬を県単位で改定する動きにも注意が必要だ。

財政運営は県の役割
 まず、国保の新しい仕組みである県単位化を確認しておこう。県は市町とともに国保の保険者となり、市町との間で役割を分担する。県の役割は、全市町の国保財政を一まとめにして管理し、財政運営に責任を持つことである。
 具体的には、県は市町に対して「納付金」を請求し、市町は「納付金」の納入が義務付けられた。市町は「納付金」を納めるために加入者から「保険料」を徴収するが、「保険料」をどのように賦課するかは、引き続いて市町の権限になっている。県は市町ごとに「標準保険料・率」を示すが、これは県が国の算定ルールにもとづいて計算したもので、いわば参考値だが、「これがあるべき統一保険料ですよ」と、将来目標を示しているのである。
 市町は一般会計からの繰入金投入、応能割・応益割保険料の構成比の変更など、独自の判断で、保険料率を決定することができる。市町に対して、保険料に対する不服申請や、未交付の保険証交付申請、自治体独自の福祉医療の拡充を求めることなどは、引き続き大切な運動である。
 一方、国保医療費の支払いは県の仕事となる。県から交付金として市町に支払われ、市町から国保連合会に支払われるが、市町の支払い義務は名目的なもので、実質的な責任はない。つまり市町にとっては、国保で赤字が発生して運営に困るという事態は、原理的に発生しなくなるのである。赤字になれば、県は財政安定化基金(新設)からいったん借り入れ、翌年度以降の「納付金」に、借入金返済のための償還費を上乗せする。結局のところ、赤字分は「納付金」を通じて「保険料」に転嫁する仕組みである。
県国保は医療費縮小で試算
 表1は、兵庫県の「国保特別会計の事業概要」から作成した県国保の予算である。県国保としては初年度であるから前年度比がないが、これまでの県下41市町の国保の合計値と比較してみたい。
 歳出における「保険給付費等交付金(普通交付金)」が、国保医療費のことで、県全体では4008億円と見込んでいる。過去11年間(2015-2005)の41市町の国保医療費の合計は、05年度3221億円から、15年度4179億円へと右肩上がりで増え続け、年平均伸び率は約3%で推移してきた(図1)。2016年度は4096億円で初めて減少し、マイナス2%となったが、県が2018年度分として計上した4008億円は、さらに減少するということになる。県の国保課によると、マイナス要因として診療報酬改定がマイナスであったことと、加入者数の減少を挙げている。
 一方、歳入における国庫負担は、法定軽減が14年度以降5年連続で対象者が拡大されたため、財源となる国庫負担は増加している。法定軽減とは、保険料のうち均等割・平等割のいわゆる応益割部分を軽減するもので、年金暮らしの2人世帯の場合、5割軽減の対象となる所得基準は、13年度までは年所得で57.5万円以下だったが、18年度は88万円以下(年金収入では192.5万円以下から223万円以下)へと、5年間でほぼ1.5倍に拡大された(表2)。国庫負担拡大による法定軽減枠の拡大は、高すぎる保険料の引き下げや保険証交付を求める運動が全国で取り組まれてきた成果である。
地域別の診療報酬導入も視野に
 こうして医療費の縮小見込みと、国庫負担の拡大のもと、初年度の保険料水準は引き下げが可能になっている。
 国は国保の県単位化にあたって移行をスムーズに進めるために、保険料を引き上げないよう強く求めてきたが、県の「事業概要」には、まさにそうした方向が強く反映されている。しかし、実際の医療費が想定よりも増加することになれば、すでに述べたように、翌年の「納付金」へつけ回しされ、保険料へと転嫁されることになる。
 保険料への転嫁が限界となれば、残された手段は、強制的に医療費を縮小する県単位での診療報酬設定である。財政制度等審議会では地域別診療報酬が検討課題とされているなど、注意が必要だ。
神戸市国保は独自控除を一部廃止
 こうした県方針と財政見込みのもとで、各市町の今年度の保険料は、引き下げが十分可能だが、神戸市国保は、独自控除(表3)の一部を廃止したために、一部の加入者は負担増となっている。
 独自控除とは、保険料計算にあたって、所得から配偶者、扶養者、障害者、寡婦について一定の控除を認めるというもので、該当する世帯の保険料を抑える大きな要因となってきた。しかし、神戸市は県単位化にともなう措置として、独自控除を廃止する方針を表明し、今年度はまず配偶者と18歳以上の扶養親族について控除を廃止することにした。18歳未満の子ども、障害者、寡婦についての控除は、当面は継続される。
 廃止による影響は大きく、年金暮らしの2人世帯の場合、例えば年金収入190万円なら、年約5万2千円の保険料が約9万9千円へと、ほぼ倍増する(表4)。
 あまりにも引き上げ幅が大きいため、市が行ったのが激変緩和措置である。保険料増加額の85%を補助し、引き上げ幅を15%以下に抑えるというもの。先に紹介した事例では、激変緩和後の保険料は約5万9千円となり、緩和前からは4万円の引き下げとなるが、それでも前年度からは7千円の引き上げである。この神戸市の方針には、三つの問題点がある。
 第1は、激変緩和があるといっても、翌年以降、徐々に本来の保険料へと引き上げられていくことだ。図2は、表4をグラフにしたものだが、激変緩和がなければ、特に年金収入230万円未満の層で引き上げ幅が大きい。今は保険料が抑えられていても、単なる先のばしにすぎない。
 第2は、独自控除も、激変緩和措置も、どちらも財源は「保険料」であることだ。つまり、神戸市の独自控除制度、および激変緩和措置は、一般会計からは一切支出しておらず、必要な財源を他の加入者に追加負担させているのである。そのため、全体の保険料率がより高くなり、単身世帯などの保険料は他市よりも相当高い水準になっている。国保加入者間でのつけ回しは、市全体の保険料率をさらに引き上げ、高すぎて払えない国保保険料をますます高額化させている。これでは保険料滞納世帯を増加させることにつながりかねない。
 第3は、今回は配偶者と18歳を超える扶養家族について控除が廃止されたが、残る18歳以下の子ども、障害者、寡婦についての独自控除も、近い将来廃止しようとしていることだ。
一般会計からの繰入で保険料引き下げを
 県単位化で赤字補填のための一般会計からの繰り入れは、名目上必要なくなったが、多子世帯、貧困世帯の保険料納入率を引き上げるための一般会計からの繰り入れは可能で、現に尼崎市などでは、そうした繰入金を予算化している。
 神戸市は国保財政について、一般会計からの繰入金が147億円になるとしているが、このほとんどが国と県から入る公費であり、実質的な市税からの投入となるのは、10億円に満たないと市の担当者は認めている。
 神戸市は加入者間につけ回す控除や激変緩和でなく、他市並みに一般会計からの繰り入れで国保への助成を行い、保険料を引き下げることが求められている。

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