兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2018年6月25日(1881号) ピックアップニュース

県口腔保健支援センター長、神戸新聞論説委員長ら招き市民シンポジウム
「子どもの貧困」解消しよう
「保険でより良い歯科」連絡会主催

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子どもの貧困解消についての議論に聞き入る参加者

 「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会は6月10日、協会会議室で市民シンポジウム「口から見える子どもの貧困」を開催。「子どもの貧困を『何とかする』には」と題して、社会活動家で法政大学教授の湯浅誠氏が講演し、歯科医療関係者、市民ら160人が参加した。
 シンポジウムは、貧困問題と子どもの口腔の健康を考えるために、協会が実施した「学校歯科治療調査」結果の分析や行政とマスメディアの関係者の現場からの報告等を交えて、憲法25条に基づき社会保障としての歯科医療を充実させることの重要さを考えるために開催された。


社会活動家・湯浅誠氏が講演
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社会活動家・法政大学教授の湯浅誠氏が子どもの貧困への対策などについて講演

 湯浅氏は、7人に1人の割合とされている子どもの貧困だが、実際は気づかれにくいことが一般的だと前置きし、貧困が引き起こす問題として、修学旅行に参加できなかった子どもが経験を他の子どもたちと共有できず、独りぼっちとなり孤立、その後いじめのターゲットになる場合があると説明した。
 湯浅氏は貧困を「お金がない、つながりがない、自信がない」という三つの言葉で表現。お金がないことによりつながりが失われた結果、自信を喪失し、社会の中での自分の役割を感じにくくなり「自己肯定感」が失われていくとした。子どもの貧困は社会の問題であるが、自分たちの手で子どもの貧困問題に対処するには、子どもにとって居心地のよい「居場所づくり」を周りの大人が提供していくことが必要であり、子ども食堂や学習支援といった「地域的擁護」が重要であると強調した。
 パネルディスカッションでは、川村雅之協会副理事長がコーディネーターを務め、兵庫県口腔保健支援センター所長・梅村智氏、神戸新聞論説委員長・三上喜美男氏、加藤擁一協会副理事長、尼崎医療生活協同組合生協歯科所長・冨澤洪基氏が報告した。
市民シンポジウム
県の健康推進プランなど紹介
 梅村氏は「自治体としての子どもの貧困・健康格差改善の取り組み」と題して講演し、健康推進プランに基づいた県での取り組みを紹介した。歯科検診の機関を増やすことも推進しており、今後は県下各自治体とも連携を図り取り組んでいくことが必要だとした。
 三上氏は「メディアからみた子どもの貧困問題」と題して、神戸新聞の社説で取り上げた宝塚市の子ども食堂での取り組みを紹介。子ども食堂に来る子どもたちは、むし歯や歯の状態が良くない子が多く、親たちも忙しいため子どもの口の中まで十分なケアができない状況があると報告した。子どもの貧困問題に周囲が対処するには、実感を伴った「気づき」が重要であるとし、今後もメディアを通じて「気づき」を提供し、一緒に考えていけるようにしたいと語った。
 加藤副理事長は協会が実施した「2016年学校治療調査」の結果について報告し、歯科受診を必要とする子どもの未受診率が65%、口腔崩壊の子どもがいる学校が35.4%もあるなどの特徴は、他府県5協会の調査と比較して同様の傾向で全国的にも似た状況が推測されるとした。
 未受診やむし歯放置・口腔崩壊を子どもの人権問題として行政に調査と対策を求め、子ども医療費無料化、現行の助成制度の周知徹底、歯科受診の休みを保障する労働環境の改善、養護教諭や学校歯科医との連携、貧困・格差解消に社会保障の拡充が必要などとした。
 冨澤氏は歯科分野の問題の社会的責任を問うものとして告発している全日本民主医療機関連合会発刊の「歯科酷書第3弾」の内容を中心に講演。健康は自己責任ではなく社会的要因で決まるという「健康の社会的決定要因」について解説した。「歯科酷書第3弾」では、子どもの治療中断症例、貧困症例、無料低額診療の事例は「社会的排除」に起因すると思われるものが圧倒的多数であり、経済的貧困によって周囲の子どもとのつながりが失われていると背景を示した。
 連絡会世話人で神戸常盤大学短期大学部教授の足立了平協会副理事長が開会あいさつ、連絡会代表世話人の中村泰先生が閉会あいさつした。終了後、歯の無料健康相談を行い、4件の相談があった。
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