兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2018年8月05日(1885号) ピックアップニュース

新聞部の会員訪問 プロウインドサーファー 井津上典洋先生
夢は50歳でもW杯出場

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北区・いづがみ歯科医院 
井津上典洋先生
【いづがみ のりひろ】1971年北区生まれ。99年長崎大学歯学部卒業後、2004年にいづがみ歯科医院を開院し、現在に至る。ウインドサーフィン社会人九州選手権優勝、拠点を関西に移し関西選手権優勝、全日本実業団選手権優勝、FW全日本選手権優勝を果たす。ベストランキングはスラロームでプロクラスランキング8位(2017年)、フォーミュラウインドサーフィングでランキング3位(2009年、2017年)。身長182㎝、体重75㎏

 歯科医師でありながらプロのウインドサーファーとしても活躍−−。日常診療の傍らトレーニングを重ね、5月10日に神奈川県横須賀市で開催されたワールドカップ(W杯)に、46歳にして初出場を果たした、北区・いづがみ歯科医院の井津上典洋先生に、ウインドサーフィンの魅力や、歯科医療との関係性について足立了平新聞部長がお話を伺った。

身体を風と海面にマッチングさせる
 足立 W杯への出場、おめでとうございます。さっそくですが、ウインドサーフィンはどのようなスポーツなのか、魅力を含め教えてください。
 井津上 ウインドサーフィンはヨットとサーフィンの良いところを組み合わせたスポーツで、サーフボードの上に乗って進むのですが、基本的にヨット同様、風の力を使って走ります。スピードは時速50〜70キロと他のウォータースポーツよりも速く、いかに自身を風と海面にマッチングさせるかがポイントになります。風と波の組み合わせは無限で、私も未だに分からない点が多く、その奥深さが魅力です。そして何より、海上で風を受けながら走る爽快感がたまりません。
 足立 なるほど。私も海外で2回ほどウインドサーフィンをやってみて、なかなか難しかったのですが、面白かったですね。ウインドサーフィンにはさまざまな種目があるようですが、W杯ではどれに出場したのですか?
 井津上 私が出たのはスラロームという、8人ぐらいが風上から一斉にスタートし、海面の各所に設置されたマークをクリアしながら進み、速さを競う種目です。2〜3キロのコースを3〜4分で疾走し、コース取りの駆け引き、風・波の読み合いなど、さまざまなテクニックを駆使します。
年齢に関係なくできるスポーツ
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聞き手 
足立了平新聞部長

 足立 資料を見ると、海外選手との体格的な違いもあるように思ったのですが。
 井津上 そうですね。私も日本人としては体格に恵まれた方ですが、W杯では海外選手は私の2倍ほど胸板があり、体重も20㎏ほど重い方が多かったように感じました。もちろん、筋力が強い方が、帆やサーフボードを制御する力が出るという点では有利ですが、一方で、初速は出にくく、バランスを取るのも難しくなる点では不利になるので、フィジカルがすべてのスポーツではありません。
 風と波に合わせて道具をチューニングしていくことが最も重要で、そこのテクニックを磨くことで年齢に関係なくできるスポーツです。現に世界チャンピオンは40歳代の方ですよ。
 足立 若い方がやるイメージがありましたが、意外ですね。先生は現在47歳とお聞きしましたが、そうは見えないほど若く、十分筋肉があるように思うのですが、どのようにトレーニングされているのでしょうか?
 井津上 診療が休みの水曜日の午後や土・日に、風が強く吹くところを調べて練習に行きます。西宮の甲子園浜や、琵琶湖、遠いところでは島根や静岡まで行き練習します。そして体の維持のため食事にも気を遣っています。
 また、ウインドサーフィンには身体を自由自在に使える、柔軟性を備えたバランスの良い筋肉が必要です。自然な動きの中で使う筋肉が重要になるので、マシントレーニングではなく、例えば娘を背中におぶるなど負荷をかけた状態で腕立て伏せやスクワットをしています。そうすると背中の娘の動きに自然と対応できる柔軟な筋肉が付きます。子どもが3人おり、以前は3人乗せてやっていましたが、だんだん大きくなってきて、今は一人が限界ですね。
 足立 子どもを一人乗せて腕立て伏せができるのはすごいと思います。日常的に鍛えておられることが伝わってきます。
口の中が健康だからこそプロ選手でいられる
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ウインドサーフィンの大会に出場する井津上先生

 足立 プロになられたきっかけは何でしょうか。
 井津上 プロテストを兼ねた大会で優勝したことです。本職の歯科をおろそかにしてはいけない、周囲から「中途半端なヤツだ」と思われるかもしれないと怖かったのですが、歯科もウインドサーフィンも両立させてやろうと、決心しました。そして両立させているうちに、歯科医療とウインドサーフィンが関係していると感じるようになりました。
 足立 それはどのような点でしょうか?
 井津上 口の中が健康だからこそプロのスポーツ選手でいられるということです。スポーツ選手の身体機能の維持には良質なタンパク質を十分に摂取することが重要ですが、そのためには咀嚼機能が十分である必要があります。咀嚼機能が低いとタンパク質をたくさん摂取することができません。そして気づかないうちに柔らかい高炭水化物、低タンパク食に微妙に偏っていきます。このことは、スポーツ選手にとって致命的で、特に成長期を過ぎた30歳以降は選手生命にかかわります。
 これはスポーツ選手に限った話ではなく、高齢者では、高炭水化物、低タンパク食はサルコペニア、フレイルに直結します。多くの方に咀嚼機能を高いレベルで維持することの重要性を知っていただき、上手くかかりつけ歯科医をもって、咀嚼機能と全身の健康維持に努めてほしいと考えています。また子どもも同じで、最近の軟食化で正しい食をとれておらず、成長期に咀嚼機能が十分に発達しない子どもも多いです。将来がとても心配です。
咀嚼機能の維持を医科・歯科連携で
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風と波を見極めいざ海へ

 足立 ウインドサーフィンを通じて、咀嚼の重要性が分かったということですね。
 井津上 そうです。高齢者は脳卒中・心疾患・認知症、その他身体的アクシデントに遭遇する可能性が高く、その際に咀嚼機能が大きく落ちます。もとの咀嚼機能が低いとその後の回復は困難なことが多く、そのまま咀嚼機能を失うことも少なくありません。低い咀嚼機能の前では、歯科治療の選択肢が限られてきますので、高い咀嚼機能を早いうちから維持させておく必要があると思います。
 その点において、医科の先生方は非常に大きな存在で、「歯科にかかっておいてね」と一言協力いただくだけで歯科を受診し、咀嚼機能維持に努めてくれる患者さんは多いと感じています。
 協会にはぜひ医科・歯科連携の重要性を発信していただき、医師と歯科医師との橋渡しの役割を担ってほしいと思います。
 足立 ご提案ありがとうございます。医科・歯科一体で活動している兵庫協会として、今後発信を強めていきたいと思います。
世界の若い選手とW杯で対戦したい
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井津上先生ご一家。食育指導士の資格を持つ妻・陽子さんが食事面で支え、子どもたちがトレーニングで協力する

 足立 最後に先生の将来の夢を教えてください。
 井津上 ウインドサーフィンではもう一度W杯にチャレンジしたいというのが目標です。トレーニングを続け、50歳でW杯に出場し、世界の10代、20代の選手と競い合いたいです。
 歯科では口腔機能の大切さを知らせたり、食育指導などができるような、研修室を備えた小児専用の診療所を併設したいと思っています。そして、咀嚼機能の維持が身体の健康や活動維持に深く関係していることを、私がスポーツ選手として長く実践していくことで、多くの人に伝えられたらと思います。
 足立 協会としても応援していきたいと思います。本日はありがとうございました。
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